ハッピーハロウィンカイアサ「いたずら、どうしようかな……」
カインは悩んでいた。アーサーがお菓子を持っていない事を知ったカインは、彼へいたずらしに行こうと思ったが、肝心のいたずら内容が思い浮かばずにいた。いたずらと言っても相手を傷付けないものがいいが、塩梅が難しい。賢者にも相談したが、お互い幸せな気持ちになれるものを、と似たようなアドバイスを貰った。
「お互い幸せな気持ちになれるものを……幸せ……抱きてぇ」
思わず本音が出てしまうが、慌てて打ち消そうとする。だが触れたいと思うのは本心だ。せめて少しだけでも、と考えていたら良い案を思いつく。
「そうだ!!」
アーサーの部屋へ出向くと、快く中へ入れてくれた。どうやら今晩魔法舎で行われるハロウィンパーティーの準備をしているようだ。
「カインは準備終わったか?」
「あぁ、バッチリだよ」
「流石だな」
アーサーの準備を手伝い、それが終わるとパーティーまで時間があるので、少し休憩する事になった。二人でベッドに腰掛け、たわいのない話をする。
「そういえば……アーサー、トリックオアトリート」
当初の目的をすっかり忘れていたカインだが、慌てる事もなく自然に言葉を投げかける。アーサーは少し驚くも、自分のポケットをゴソゴソし始める。中にあるものを取り出し、それをカインへ見せる。
「お菓子、だな。今はこれしか持ってないが、これでもよければ」
予想外の展開にカインは内心動揺する。リケとミチルから『アーサーはお菓子を持っていない』と聞いていた。だがアーサーの手の上にはキャンディがのっている。
「リケとミチルが沢山貰ったからと分けてくれたんだ。私がいたずらされないように、と。優しいな」
「あ……あぁ、そうだな」
どのようないたずらをしようかと悩んでいた自分が恥ずかしくなる。カインはありがとう、と言いキャンディを受け取るが、表情は少し暗い。アーサーは彼の異変に直ぐに気付いた。
「……どうかしたか? もしかしてこのキャンディ嫌いだったか?」
「いや、そんなことはない」
「……正直に言ってくれ」
――あぁ、彼には勝てないな、とカインは思う。だからこそ最高の主君であるのだが。カインは少し目線を逸らしながら、自分の情けない表情を最愛の人にできるだけ見られないように話し始める。
「あんたがお菓子を持っていないと聞いたから、どんないたずらをしようかと悩んでいたんだが……恥ずかしくなったよ。俺の立場なら、むしろあんたをいたずらから守らないといけないのに」
「……因みに、どんないたずらをしようと思っていたんだ?」
「えっ? えーっと……キスをしようとしていた」
「あはは!!」
「笑う事ないだろ! これでも真剣に考えて……お互い幸せになれるいたずらを……」
カインは途中で恥ずかしくなったのか、段々と小声になっていく。アーサーは笑いながらすまない、と言いカインの手を取って彼の目を真っ直ぐに見る。
「カイン。トリックオアトリート」
内面を現すような澄み渡った青色が彼の視線を射抜く。アーサーの『真意』は直ぐに理解できたが、果たして『正しく』答えていいのか迷ってしまう。
「えっと、お菓子は……持って、いない」
「そうか!ならいたずらを……」
嬉しそうに開いた口を抑えきれない熱で封じ込める。握られていた手を絡め、もう片方の手を腰に回し、啄むような口付けを繰り返す。
「んっ……カイ、ンっ……」
恋人の息が荒くなってきたところで、我に返ったカインはパッと身体を離す。
「悪い、つい……」
「……いたずらしようとしたのは私の方なんだが?」
思わぬ返答に今度はカインが笑い、アーサーは少し不貞腐れてしまう。
「何故笑う?」
「いや、あんたが可愛かったからつい」
「おまえも可愛かったぞ」
「光栄です」
先程までの雰囲気と打って変わり、二人はケラケラと笑い始める。
「お互い幸せになれるいたずらはいいものだな。流石賢者様だ。……そうだ!今度はオズにいたずらしてみないか?あいつお菓子持ってなさそうだし」
「それは面白そうだな! どのようないたずらであれば喜んでくださるだろう。リケにも相談してみよう」
「ちょうどいい時間だし、リケを探してパーティーに行くか」
今宵はハロウィンである。友達も恋人も幸せになれる、そんなひと時を二人は過ごした。