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    幸花サン

    まほや腐

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    幸花サン

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    ヒスオエ。書きかけですがもう半年くらい詰まっていてこれ以上どうにもならんと悟ったので供養。

     東の国と北の国の合同訓練も兼ねた依頼消化の日、青空の下、いくつもの閃光が飛び交う。その中を純白の悪魔が俊敏で軽快な身のこなしで掻い潜っていく。箒から身軽に飛び降り軽いステップで宙を蹴ること三歩、軽やかに踏み切って魔法をバネにし高く跳び最高到達点でトランクの金具を小気味の良い音を立てて外した。
    「ほら、餌の時間だよ」
     オーエンの妖美な微笑みを合図に、トランクから飛び出したケルベロスが敵味方の境なく牙を剥いた。
    「馬鹿、オーエン!俺様まで噛まれそうになったろうが!」
     空中で魔道具である長銃を構えたまま抗議するブラッドリーを鼻で笑い、宙を駆け抜ける巨犬を見つめる。血に飢えた白い牙が陽を反射して獰猛に輝く。ケルベロスと似た姿をした今日の討伐依頼の魔物、オルトロスもそれに気付き凶悪な鋭い牙を剥き低く唸った。魔法使いたちが獣同士の駆け引きに巻き込まれないように一斉に距離を取る。地を這うような怒りの響きにも臆せず、素早い駆け引きのさなか喉笛を狙って懐に飛び込むケルベロスを避けたオルトロスの爪が、トランクに腰掛け比較的彼らの近くで戦況を見守っていたオーエンに向かう。目を見開いたオーエンにその爪がかかりかけたその時、凛とした声が響いた。
    《レプセヴァイヴルプ・スノス》
     瞬時に周囲に光の膜が形成される。象牙白の爪が光に触れたその時、バチン、と大きな音を立てて閃光が放たれた。瞬間、怯んだ隙をついてケルベロスが再び懐に飛び込んでいき、ついにその喉を切り裂いた。真っ赤な鮮血が飛び散りケルベロスの硬い毛並みを、オーエンの純白の外套を汚す。断末魔さえ上げることを許さず、間髪入れずに喉笛を食い破ったのとは別の二頭が毛皮を食い破り肉を貪る。それを見ることもせず、少し離れた場所に立つヒースクリフの目の前にオーエンが爪先から軽やかに着地した。俯いたままで表情の読めないオーエンに躊躇いながらも口を開く。
    「ご、ごめん、余計な事だった……?つい咄嗟に……」
     言いながら、ヒースクリフの視線は外套にべったりと付いた血糊に向かう。怪我はないようだが、白い布地に散った血痕を落とすのは簡単ではないだろう。
    「血、落ちるかな……」
     ヒースクリフが呟くと同時にオーエンがゆっくりと顔を上げた。その顔を見て思わず息をのんだ。生気を感じない白い肌に大量の血飛沫が飛んでいる。乱れた髪で金の瞳は見えない。だからこそ乾ききっていない血糊の中でも馴染むことなく爛々と輝く赤い瞳が、ひときわ美しく際立って見えた。錦上添花の様相に、ヒースクリフの瞳が狼狽えたように逸れた。
    「ごめんっ!」
    「何に対して謝ってるんだよ」
    「わ、わからないけど、謝らなきゃと思って……」
    「なにそれ」
     ピリついた空気を纏っていたオーエンの表情がふっと和らぐ。あからさまに動揺したヒースクリフをおかしそうに笑う姿に気を緩める。口元を真っ赤に染めたケルベロスがオーエンの方へ振り向いて牙を薄く見せた瞬間、彼はノールックでトランクを開けて飛び掛からんとするケルベロスをしまい込んだ。流れるような一連の動きに見惚れるヒースクリフを一瞥し鼻で笑う。
    「なに?」
    「いや……今の、予測できたんだなって」
    「自分に対する殺気ほど分かりやすいものはないよ」
    「まあ……」
     分かったような分からなかったような、微妙な相槌を打って、鍵をかけられてすっかり沈黙したトランクから視線をオーエンの顔に移す。やはり血にぐっしょりと濡れた銀鼠の前髪の奥に光る赤色は美しくて、無意識に手を伸ばす。その指先が届く前にすいと避けられて初めて自分の行動に気付き、驚いた。
    「ごめん!」
    「はは、また謝ってる」
    「う……申し訳ないです……」
    「だからなんでだよ」
     おかしそうに口元をおさえるオーエンに、訳もわからず頬が熱くなる。無邪気な笑みは酸化してどす黒くなった血糊のせいでなんだか歪に見えた。それでも未だ見慣れない無邪気で可憐な笑みは簡単にヒースクリフの心を躍らせた。何か言おうと口を開いた瞬間、背後からシノの声がかかった。
    「おいヒース、オーエンにあまり近寄るな。あと、ファウストが帰るってさ」
    「あ、今行く!」
     振り返って返事をしてちらりとオーエンのほうを見る。そこにオーエンの姿はなかった。驚いて辺りを見回すと空高く舞い上がった白と紅の影が見えた。咄嗟にさっと箒を手中に呼び出し軽やかに飛び乗る。
    「シノ、先行ってて!」
    「は?おい!」
    「すぐ追いつくから!」
     突然の行動に驚くシノに申し訳なく思いながら地面を軽く蹴る。ささやかな動きとは裏腹に大きな上昇力を持って一気に舞い上がる。緩やかに空を駆けるオーエンのすぐ後ろに付き従うようにしてスピードを合わせ声をかける。
    「オーエン!」
    「何の用?東の魔法使いたちと仲良く帰るんじゃないの」
    「そうなんだけど、ちょっとこっち向いて」
    「なに……」
    《レプセヴァイブルプ・スノス》
     凛とした透き通る声が光を生み、オーエンの頬を優しく撫でた。微塵も悪意のない春のひだまりのような魔力に何とはなしに身を任せていると、乾いた血で若干張っていた頬や張り付いた髪がふわりと軽くなるのを感じた。自分の受けた怪我によるものではないし、大した違和感もないために、魔法舎に帰って誰か(とは言うが大体はクロエ、カイン、ミチルやリケ)を脅かしてから浄化しようと思っていたものだ。オーエンが怪我をしているわけではないことはヒースクリフも当然分かっているだろう。だからこそ予測できなかった行動に少しだけ驚いた。
    「……おともだちを守ったつもり?」
    「おともだち?あ、もしかしてクロエやミチルを脅かそうとしたのか?」
    「は、今?というか分かっていなかったなら尚更、なんで浄化なんかしたの」
    「あ、いや、その」
     どもるヒースクリフに眉を寄せる。別にやましいこともないだろうに、ここで言葉に詰まる必要はないように思うが、ヒースクリフは黙ったままだ。青空の下、ざぁっと通り抜けた風にも揺らぐことなく、低速での飛行を保ちながらただ右斜め下を見つめたまま。長い沈黙にオーエンが焦れて箒の速度を緩やかに上げると、開いた距離にヒースクリフが顔を上げた。青い瞳にはまだ迷いの色が残っている。それを一瞥したオーエンはつまらなさそうに息を吐いた。
    「別に無理して言わなくていい。そこまで興味、ない」
     オーエンの言葉に、ヒースクリフは傷付いたような、それでいて安心したような表情で浅く頷いた。三秒間の沈黙の後、オーエンの箒がにわかに速度を上げる。今度はヒースクリフも追うことはせず、緩やかな弧を描いて東の魔法使いたちの方へと向かった。
     元々目指す方向は同じのためそう遠くもない位置にいた東の魔法使いたちに合流する。ネロとファウストは気を遣ってか何も言わなかったが、シノは最後尾に着こうとしていたヒースクリフの隣にすいと移動して顔を覗き込んだ。
    「遅いぞヒース、オーエンと何話してたんだ」
    「ごめん、ちょっとね」
    「ふうん。まあいい、早く帰って今日のおやつを食べたい」
     自分から聞いてきた割には関心のなさそうな反応に薄く笑いながら、遠くのほうでちらちらと陽を反射する深紅を纏った純白を眺める。わずかなブレもない軌道はうっとりするほどに美しい。
     見惚れるヒースクリフの視線に気付いてかそれとも偶然か、遠く遠くにいるオーエンがふわりと外套をなびかせて振り返った。この距離では互いの瞳を認識するのは不可能と分かっていても、赤い輝きを見た気がして心臓が高鳴る。さっと前を向いて速度を増した銀の箒を見送りながら考える。今日はオーエンが、いつもに増して美しいと、そう思う。血液嗜好とか加虐趣味とか、そういったものを持っている覚えはなかった。むしろ、血や大きな怪我を見ると血の気の引く思いがするくらいだ。それでもどういうわけか、銀鼠の髪を、新雪の肌を真っ赤な断末魔に汚された姿は魅力的だと感じた。
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    幸花サン

    MOURNINGヒスオエ。書きかけですがもう半年くらい詰まっていてこれ以上どうにもならんと悟ったので供養。
     東の国と北の国の合同訓練も兼ねた依頼消化の日、青空の下、いくつもの閃光が飛び交う。その中を純白の悪魔が俊敏で軽快な身のこなしで掻い潜っていく。箒から身軽に飛び降り軽いステップで宙を蹴ること三歩、軽やかに踏み切って魔法をバネにし高く跳び最高到達点でトランクの金具を小気味の良い音を立てて外した。
    「ほら、餌の時間だよ」
     オーエンの妖美な微笑みを合図に、トランクから飛び出したケルベロスが敵味方の境なく牙を剥いた。
    「馬鹿、オーエン!俺様まで噛まれそうになったろうが!」
     空中で魔道具である長銃を構えたまま抗議するブラッドリーを鼻で笑い、宙を駆け抜ける巨犬を見つめる。血に飢えた白い牙が陽を反射して獰猛に輝く。ケルベロスと似た姿をした今日の討伐依頼の魔物、オルトロスもそれに気付き凶悪な鋭い牙を剥き低く唸った。魔法使いたちが獣同士の駆け引きに巻き込まれないように一斉に距離を取る。地を這うような怒りの響きにも臆せず、素早い駆け引きのさなか喉笛を狙って懐に飛び込むケルベロスを避けたオルトロスの爪が、トランクに腰掛け比較的彼らの近くで戦況を見守っていたオーエンに向かう。目を見開いたオーエンにその爪がかかりかけたその時、凛とした声が響いた。
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