結婚ささろおまけ 汗を掻いてベタついていた体を洗って湯船に浸かる。今日まで酷使してきた体を更に酷使したのだから疲れて当然だ。進んで背もたれになってくれている簓の胸に遠慮なくもたれかかるとホッとため息が出た。結婚して家を持つ時に、湯船は広い方が良いと簓がごねてくれたことに今となっては感謝だ。
「しんどい?」
「いや。やっと落ち着いてきたとこ」
「そうなん。ほなもうちょっと浸かったらバッチリやな」
簓の手が腹に回る。そのもう少し下の内側はさっきまで簓に捏ねくり回されていた箇所だ。近くの肌を簓の指が滑るだけで体が疼く。簓はその事に気付いているのかいないのか、言葉を発することなく、首から肩かけての至る所にキスを落としている。風呂に響くリップ音が生々しくて俺も何となく黙ってしまった。
「プッ……ククク」
「何や」
「今日の盧笙、なんや素直。誕生日やから?」
簓が手を下にずらした。咄嗟にずらそうとした体を簓が押さえつけてくる。
「……誕生日関係ないやろ」
やはり俺の体が今どういう状態になりつつあるのか気付いているみたいだ。俺より簓の方が俺の体を熟知しているのだから当然なのかもしれないが。
「関係ないん? けどこうやって……」
更に下りていきそうな簓の手を鷲掴んで後ろを睨んだ。
「何すんねん」
「くっくっく……怖い顔やなぁ」
簓が笑ってお湯が細かく波打った。
「めっちゃ関係あるやん」
「ない言うてる」
本当に関係ない。例え今日が俺達にとって何でもない日であったとしても簓に触れられたら俺はたちまち素直になるのだ。簓だって分かっているくせに。
「お触り禁止なん?」
簓の手を掴んでいる俺の手をもう片方の手で握ってきた。
「今は禁止や。さっきめいいっぱい触ったやろ」
「うーん……せやけどなぁ……」
簓がワキワキと両手の指を動かす。その両手をまとめて捉えたが、それでも簓は指を動かし続ける。何だか虫を捕まえたみたいにくすぐったい。
「動くなや」
「そう言われると動きたくなるんよなぁ」
「おい、やめろて。動くなや。俺が暴れたらお前の体ぺしゃんこなってまうぞ」
「それはそれで」
「それはそれでちゃうねん。自分の身体は大切にせぇ」
「大切にはしてんでぇ。せやないと盧笙の事抱きしめられへんし」
簓の手がするりと抜け出してまた俺の腹に回った。今度は素直にその手の温もりを享受する。手を重ねて振り返ると簓と目が合った。目を閉じて待つと、すぐに簓と唇が重なった。感触を確かめるように何度か触れ合った唇は、それだけではすぐに足りなくなって、ぴったり重なったまま離れなくなった。風呂のお湯とは違う水音が響く。背中が熱い。もっと深くまで欲しくなってきて、腹に回る簓の手を自分の体に食い込ませるように押さえつけた。
「……出よか」
薄く開いた簓の目が俺を捉える。獲物を狙う目だ。こういう顔を俺に見せるのは珍しい。簓は俺が簓の無邪気な所が好きなのだと思っている節がある。懐にするりと入っていけるような愛らしさを俺にアピールして、俺が両手を広げた所を取って食おうとしているのだ。確かに簓のそんな健気なところも好きだけれどそれだけではない。欲が滲み出てしまった野生味のある簓も、可愛らしい簓と同じくらい好きなのである。
それに、お行儀良く布団で簓に取って食われるのを待てるほどの余裕はない。
「ここでもええで」
簓の脚を掴みながら腰を揺らす。ちゃぷんとお湯が波打った。
「俺へのプレゼント、こんなもんやないやろ?」
「……当たり前やろ」
「あ……」
簓が首を甘噛みしてきた。少しの痛みが痺れになり、俺の腰が揺れる。
「ホンマ、俺は一生、盧笙の手のひらでコロコロ転がってるんやろなぁ」
「嫌か?」
「んーん。それに、こっからは俺が盧笙を転がす番やしな。……盧笙、前屈みなって」
「ん……」
風呂のふちに手をついて振り向く。俺に釘付けになっている簓の顔が赤く色づいているのを見て、俺は思わず舌なめずりをした。