Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    花月ゆき

    @yuki_bluesky

    20↑(成人済み)。赤安大好き。
    アニメ放送日もしくは本誌発売日以降にネタバレすることがあります。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 59

    花月ゆき

    ☆quiet follow

    幼児化したれいくん(大人の頃の記憶なし)と同居するあかいさん。学校行事で遠足に行くことになったれいくんは…
    元々赤安は恋人同士で同棲中。捏造多々あります。

    #赤安
    #ゆる赤安ドロライ

    第10回お題「手作り弁当」赤井Side

     降谷と同棲している家で、幼児化した零と一緒に暮らすようになってから一ヶ月経つ頃。
     コナンと同じ小学校に通いはじめた零は、どこにでもいる“普通の小学生”のように日々を過ごしていた。
     身体の縮んだ零をはじめて見たときの衝撃を、「だれ?」と問われたときの喪失感を、赤井はきっと一生忘れることはできないだろう。
     もちろんショックは大きい。しかし、どんな姿でも、たとえ記憶を失っていても、生きて自分のもとへ帰ってきてくれたことに赤井は感謝していた。
    「来週の金曜日、授業ないんだって!」
     零の楽しそうな声音に、赤井は我に返る。
    「ああ……そういえば遠足だったかな」
    「うん! 遠足、すごく楽しみ!」
    「遠足に必要なものは? 先生から聞いているんだろう?」
     週末は一緒に買い物へ行こうかと考えながら、問いかける。しっかり者の零は指折り数えながら言った。
    「うん! リュックと、体操服と、帽子と、レジャーシートと、お菓子と、水筒と、……あとお弁当! コナン君は蘭お姉さんに作ってもらうんだって」
    「そうか」
    「それで、僕の分のお弁当なんだけど……あのね、あかい……」
     自分に何かお願いしたいことがあるときの零は、もじもじと手を動かす。いじらしいその仕草を愛らしく思いながら、赤井は零の頭を撫でて言った。
    「俺が作ろうか?」
    「いいの」
     零の表情が、花が咲いたようにパァァァァと明るくなる。
    「ああ、もちろん」
    「でも、あかいってお弁当作れるの?」
     零が心配そうに見上げてくる。以前、降谷にも同じことを聞かれたことがあった。そのときは、『パンに具材を挟んだ程度のものなら』と答えた気がする。 
     赤井は当時の降谷との会話を思い出した。
    『じゃあ、二人分のお弁当、一緒に作りましょう』
    『一緒に?』
    『ええ。日本らしいお弁当の作り方、僕が教えてあげますよ』
     そうしてふたりで台所に立ち、降谷と一緒に弁当作りをした。何気ない日常のワンシーンだったが、今となってはかけがえのない思い出だ。
    「……ああ。少し前に、教わったことがある」
     目の前にいる君に――とは、当然言えない。
    「やったぁ!」
     嬉しそうに飛び跳ねる零に、赤井は微笑んだ。
    「お弁当には何を入れてほしい?」
     少し考えるような素振りをみせたあと、零は興奮した声音で言った。
    「卵焼き! 卵焼き入れてほしい!」
    「わかった。当日、楽しみにしておいてくれ」
     よほど嬉しいのだろう。零はきらきらと目を輝かせている。がっかりさせたりしないよう、零の期待に応えなければと赤井は思った。

     遠足の日、当日。赤井は普段より二時間早く起きて、零の弁当作りをはじめた。
     調理を進めながら、この部屋の台所で、降谷とふたりで弁当作りをした日のことを、赤井は再び思い出していた。

     その日は久しぶりに休みが重なり、弁当を持って近くの公園に行こうという話になった。零に手順を教わりながら、タレに漬け込んだ鶏肉を唐揚げにし、鮭をグリルで焼いて、彩りにミニトマトやブロッコリーを添える。降谷との共同作業は、仕事とはまたひと味違う楽しさがあった。
     弁当作りの終盤。赤井が混ぜご飯を作っている隣で、降谷は出汁巻き卵を作りはじめた。赤井に出汁巻き卵の作り方を教えながら、零は器用に卵を巻いてゆく。
    『出汁巻き卵も好きなんですが、実は僕、甘い卵焼きも好きなんです』
    『甘い卵焼き?』
    『ええ。……ねぇ、赤井。いつか僕に作ってくれます? 甘い卵焼き』
    『俺に作れるだろうか』
    『作れますよ。レシピは――』

     当時の会話を思い出しながら、赤井は零のお弁当を作った。あのときと同じく、鶏の唐揚げ、鮭、混ぜご飯、ミニトマトにブロッコリー。そして今回は、零のリクエストである卵焼きを入れてある。降谷に教わったレシピ通りの、甘い甘い卵焼きだ。
     零に気に入ってもらえるだろうか。ほんの少しの緊張感を覚えながら、赤井は弁当を包んだ。


    零Side

     遠足の日がやってきた。
     この遠足で、零が一番楽しみにしていたのは、手作りのお弁当だ。仕事で大変なのに、いつもより早く起きて、赤井が自分のためにお弁当を作ってくれたのだ。おいしそうな匂いが台所から届いて、目覚まし時計が鳴るよりも早く目が覚めた。
     少し寝不足になってしまったけれど、胸がどきどきわくわくして、二度寝はできなかった。
     バスに乗って現地へ向かい、グループ別に緩やかなハイキングコースを歩く。お腹と背中がくっつきそうになるほど空腹になったタイミングで、ちょうど大きな広場に辿り着いた。
     先生が、「ここでお弁当にします!」と言う声が聞こえて、グループのみんなと相談し、景色がよく見える場所にレジャーシートを敷いた。待ちに待ったお弁当の時間に、すぐに「いただきます!」とあちこちで声が上がる。
     零はどきどきしながら弁当箱の蓋を開けた。「うわぁ!」と思わず声を上げると、隣にいたコナンが「これ、赤井さんが作ったの」と驚いている。
    「うん! あかいが作ってくれたんだよ!」
    「すげー」
     コナンの感心したような声に、零は嬉しくなる。
     弁当箱の中には零の好物ばかりが入っていた。もちろん、赤井に作ってほしいとお願いした卵焼きも。
    「いただきます!」
     零はまっさきに卵焼きに箸を伸ばした。少し焦げている。けれど、とても美味しそうで幸せそうな色をしていた。赤井が卵焼きを作ってくれるのはこれがはじめてだ。味はしょっぱいのと甘いのと、どちらなのだろう。
     卵焼きを口に入れると、優しい甘さが広がってゆく。赤井が作ってくれたのは、甘い甘い、卵焼きだった。
    「あのときの約束、覚えてたんだ……」
     そう呟いてすぐ、“あのときの約束”とは何だろう? と、零は自分の言っていることがよくわからなくなってしまった。
     赤井と一緒に住むようになったのは一ヶ月ほど前からだ。しかし、“あのとき”は、一ヶ月以上前のような気がする。
     赤井のことを考えていると、こうして自分のことがよくわからなくなることが度々あった。
     自分が何者なのか、なぜ今ここにいるのか、輪郭の見えない自分自身に、不安になってしまう。そして、こんなときはどうしようもなく、赤井に逢いたくて逢いたくてたまらなくなるのだ。
     色とりどりのお弁当箱の中身が、ぼんやりと滲んでゆくのが見える。
    「……降谷君、泣いてるの?」
     少し離れた場所から、灰原の声が聞こえてくる。コナン、歩美、元太、光彦が、心配そうな表情でこちらを見ていた。
    「僕、なんで泣いてるんだろう……」
     懐かしい。嬉しい。切ない。赤井に逢いたい。ごちゃ混ぜになった感情で、胸がいっぱいになる。

     ふと、脳裏によみがえる記憶があった。
     その記憶の中の自分は、赤井と一緒に台所に立ってお弁当を作っている。目線は今よりも高い。不思議な光景だ。
     いったいいつの記憶なのか。現実ではなく夢で見た光景なのか。記憶のさざ波のように訪れたその光景に、胸の奥で小さな波紋が広がるのを感じる。
     零は瞬きをした。涙の粒が頬に流れて、弁当箱の中身がはっきりと見える。このお弁当を見るのは、これがはじめてではないような気がした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works