「竹内、」
肩に掛かるだけの着物の隙間に、愈史郎が導くように手を引く。あんなにも触れたいと思っていた肌に触れられる。嬉しいはずなのに、怖い。
「竹内、よく見ろ。感じろ」
愈史郎の素肌は冷たかったが、触れた胸からとくとくと鼓動が伝わった。生きているんだと、安心する。そうして更に、離れ難いと思ってしまった。
「俺を忘れるな、竹内。遺伝子に刻み込め」
固まる竹内の首筋に猫のようにするりと顔を近づけて、愈史郎は囁く。吐息が皮膚を湿らせる。ぞくりと、いけないものが体を這う感覚。薄い唇から鋭い牙が覗いて、竹内の肌に柔く突き立てられる。愈史郎の胸に置き忘れた手を思わず小さな背に回すと、普段の態度が嘘みたいに従順に胸の中に収まった。なのに見上げてくる瞳があまりにも獰猛で、竹内は負けじと愈史郎の肩に掛かるだけの着物をするりと手で落としてオレンジ色の照明に晒された首筋に噛み付いた。息を飲む音が鼓膜を震わせる。小さい肢体を照明の下に曝け出して、シーツの波間を漂う素肌に背徳感と高揚が湧き立つ。なんとか理性をと荒い息を吐く竹内に蠱惑的に笑む。
「俺は今ひどく機嫌がいい。好きにさせてやる」
これ見よがしに太ももをゆっくり撫でながら、足を開く愈史郎は目にも下半身にも悪い。手放しそうになった理性を寸でのところで繋ぎ止めた竹内は、それでも呼吸を乱して愈史郎に覆い被さった。本当に機嫌が良いらしい愈史郎は竹内の初めての愛撫に四肢を震わせ、挿入に痛いと文句を言いつつも時には自ら動いて竹内を最奥へと導き、そうしてがむしゃらな交りを享受した。
「結婚してもさ、また会いに来ていい?」
布団に寝転んで、竹内は呟く。
「例えば、一年に一回だけ。愈史郎に会いに来たいよ」
「……奥さんに不貞だと言われないか?」
愈史郎の言葉に竹内は困ったような笑みを向ける。止めて欲しいのだろう。結婚するな、俺とずっと死ぬまで一緒にいると約束したじゃないかと言って欲しいのだろう。明後日には家を出るお前に、その言葉を送るには幾分遅すぎる。
「……言われるかもね。わからない。でも、一年に一度くらいは、許して欲しい」
それにほら、と竹内は慌てて言葉を探す。
「結婚したら、さ……子供が生まれたりとか、するだろうし……仕事が忙しくて、来れない年もあるだろうし……」
徐々に弱まる語尾に、愈史郎はこっそり笑った。