医者になった杏じゅろ※杏視点
今生でも母を病で亡くした。俺は医者になった。医大での仕事にようやく慣れた頃、一人の少年が入院してきた。名前は冨i岡義i一。もしやと思い病棟に行くと、彼は乗り慣れない車椅子と格闘していた。深い青の瞳、少し癖のある黒髪。彼の末裔に違いない。俺は胸がいっぱいになった。
両親も弟も前の記憶がなく、俺が死んだ後の事は一切わからなかった。ただ、鬼のいない世の中になったことだけ。しかし義i一に出会ったことで一つだけわかった。一方的に恋心を抱き、告げられぬまま死に別れた冨i岡義i勇が生き抜いて子孫を残したことを。
俺は暇を見つけては義i一に声をかけた。人見知りの彼は大人しい少年で、それでも少しずつ心を開いてくれて笑顔を見せるようになった。君も笑ったらこんな風だったのだろうか。幼い義i一に義i勇の面影を重ね、かつて抱いていた恋心が再燃しそうになったとき──。「杏i寿i郎くん」
外来に来ていたいとこの桃i寿i郎に呼び止められた。剣道の試合中に怪我をしてからずっと通院しているのだ。桃と話しているところへやって来たのは──。「わ、同じ顔してる」俺と桃を見て目を丸くする義i一。いとこなんだと説明しながら、ふと気づく。義i一を見つめる桃の表情。ああ、出会ってしまった
その日から桃と義i一はどんどん親しくなっていった。年齢差があるにも関わらず、お互い惹かれ合っているようだ。俺の出る幕はないな。寂しくはあったが大人らしく身を引こうと決めた日。「冨i岡義i一の着替えを持ってきました」ナースステーションの方から聞こえた声。俺が足を止め振り返ると、
看護師に病室を教えられた流れで彼もまたこちらを見た。目が合い、そして驚いた顔で彼が呟く。「煉i獄……?」現れたのは俺が長い間片思いをしてきた相手、冨i岡義i勇だった。
続かない!!!