無機質な電子音が鳴り響く。
「失礼、」
音の主はクリスさんのスマホだった。
かけてきた相手を確認したクリスさんは、少し驚いたような、嬉しそうな顔をしていた。
「すみません、少し電話をしてきます。
長引かないとは思いますが、二人は先に帰ってしまって構いませんので!」
返事をする間もなくばたばたと事務所を出ていったが、ソファにはクリスさんのトートバッグ。
事務所内には気心知れた人しかいないとはいえ、流石に打合せ資料の入った鞄を置きっぱなしにさせてはおけない。
「……だって。僕は一応待つけど、雨彦さんはどうするー?」
「そうだな。俺も待つかな。お前さん一人じゃ退屈だろ」
やれやれと肩をすくめる動作が嫌味でなく似合う人だ。大柄な人は大げさな仕草が似合うのだろうかとぼんやり考える。いつもならさらさらと浮かんでくる言葉も、普段はない6限後に打ち合わせまで終えた頭では流石に難しかった。教授の都合で休講にするのは構わないが、1限から入れている日に19:30上がりは勘弁して欲しい。
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