#ジークフリートさんが力業で全て解決するジクパー童話【人魚姫】むかしむかし。
遠い海のそこに人魚のお城がありました。
お城には美しい王女さまとその家族である三人の人魚姫が住んでいました。人魚姫たちは上から青いうろこを持つアグロヴァル、緑のうろこを持つラモラック、赤いうろこを持つパーシヴァルといいました。姫じゃない?細かいことは気にしてはいけません。
人魚姫は15歳になると海から出て、人間の世界に行くことができるようになります。
15歳になった二人の兄たちは陸で見聞きしたことを、お城に戻って末のパーシヴァルによく話して聞かせてくれます。
「マルモッコ…あれはよいものだったな」
「すんごい可愛かったよね〜もちろんパーシィちゃんの方が可愛いけど!」
(マルモッコは可愛い…なるほど…)
パーシヴァルは、兄たちが見てきた人間の世界の話を聞いて、自分も人間の世界へ行くことを楽しみにしていました。
ついに15歳をむかえたパーシヴァルが海の上に顔を出すと、そこにはとても愛らしいもふもふの動物がいました。それこそが噂のマルモッコなのでした。マルモッコたちは美しい人魚姫を歓迎し、彼らは強い絆で結ばれました。
それからパーシヴァルは度々マルモッコに会いに人間の世界へと遊びに行くようになりました。
ある日、いつものように海の上に顔を出すと、そこにはたくさんの船が浮かんでいました。船には栗毛にはちみつ色の目をした王子さまが乗っており、パーシヴァルは王子さまを一目見て恋をしました。
その時、突然超巨大アルバコアがなんの前ぶれもなく襲撃し、船の土手っ腹に勢いよく激突して穴を開けてしまいます。その衝撃で王子さまは海へと落ちてしまいました。
人間は人魚姫たちと違い、長く水の中には居られないとパーシヴァルは兄たちから聞いていました。まずい!とパーシヴァルは海へと落ちた王子さまを助け、浜辺へと運びました。
パーシヴァルは王子さまが目を覚ますまで声をかけ続けました。
「おい!おいしっかりしろ!目を覚ませ!」
ぺちぺちと頬を叩くとその頬がとても冷たいことに気がつきます。体を冷やしてはいけないと、パーシヴァルは自身の魔法でその手に炎を生み出します。海の中にいるのに炎が使えるのかとか、そういう疑問を抱くのはナンセンスです。サンダルフォンくんはルシフェル様とコーヒーブレイク中なのでツッコミには来てくれません。
手のひらの上で燃える炎を王子さまへと近づけ、じわと体をあたためていきます。その炎を薄目で見つつ、美しい炎だと王子さまは内心思いました。
実はこの王子さま、もといジークフリート王子はとてもタフな男でした。とてもtough guyなのでした。
王子の身でありながら黒い鎧を身につけ愛用の大剣を担ぎ、海で暴れるリヴァイアサンをソロで殴りに行くわ、山の上ではしゃぐティアマトをソロで殴りに行くわ、自国に攻めてきた敵国の軍隊をソロで殴りに行くわ他エトセトラ。趣味は瞑想と鍛錬、そして城にいるよりも魔物を狩っている時間の方が圧倒的に多く、泣かした魔物は数しれずと言われるそんな男なのです。
ともかく、そんなタフなジークフリート王子は海へ投げ出されたところで特に問題もなく、かと言って動きづらい水中で襲われたらちょっと面倒だとアルバコアが去るまで身動きせずに様子をうかがっていました。少しくしてアルバコアが去り、あいつは喰えるのだろうかと思いつつも安全と判断して、さてそろそろ泳ぐかと思ったその時にパーシヴァルがあらわれたのです。
目の前にあらわれた赤色の美しい人魚はどうやら自分を助けてくれようとしているのだと気づき、それなら様子を見ようとジークフリート王子は瀕死のフリを続行することにしました。単にその美しさに見惚れていただけともいいます。
浜辺へと運ばれ、人魚は必死に自分を介抱してくれています。赤色の髪の毛から水がしたたる様がまるで絵画のようにきれいだと、心配げに揺れるその紅茶色の瞳もまるで宝石のようにきれいだとジークフリート王子は思いました。そして人魚の手のひらから産み出された炎はとてもとても美しい炎でした。
そんな人魚をずうと眺め続け、つい、うっかり、右手がその細腰をとらえようとした瞬間でした。
「ジークフリートさぁぁぁぁん!!どこですか!!!??無事ですかーーーーーーー!!!!!????」
「ランちゃんいっつも役を忘れんなぁ!今は王子さまだぜ!」
遠くからジークフリート王子を探す従者たちの声が聞こえます。
その声を聞いて、パーシヴァルは驚いて海の中へ身を隠しました。目覚めぬ王子さまのことが心配でしたが、人魚である自分がいてはびっくりするだろうと、そしてきっとあの人たちが来たから大丈夫だろうと、そう自分に言い聞かせてそのまま海のそこのお城へと泳いでいきました。
さてその頃、ジークフリート王子の元へとたどり着いた従者たちは大慌てで駆け寄ります。ああ王子!大丈夫ですか王子!とみんなが叫ぶ中、何事もなかったかのようにジークフリート王子はすっと起きあがりました。そして、どよめく従者たちに向かって一言こう告げたのです。
「明日から遠洋漁業だ」
明くる日。
王子さまのことが気がかりだったパーシヴァルは昨晩は眠ることができませんでした。せめて無事かだけでも知りたいと、けれどまたあのアルバコアがいたらどうしようと、まずは様子を見るために沖のほうへと行って海の上へと顔を出しました。
すると、目の前にはたくさんの船がずらりと並ぶ光景が広がっていました。常とはちがうその様子に、パーシヴァルは何があった!?と思いました。これは昨日のアルバコアよりももっともっと異常な事態だと、もしかしたら自分たちの城も危ないのではないのかと思い、早く母上や兄上たちに伝えなければと海へと潜ろうとしたその時でした。
掛け声とともに船から一斉に何かが投げられました。それは大きな大きなあみでした。まずいと、そう思ったものの寝不足で判断能力の落ちたパーシヴァルは逃げおくれてしまい、大きなあみのひとつにとらわれてしまいました。
何かが引っかかったぞと船の上で声が響きわたり、それを合図に力自慢のドラフがいきおいよくあみをひっぱります。そのあまりの力強さにパーシヴァルは海から投げだされ、一際おおきな船へと飛ばされてしまいました。
ひゅるると宙を舞い、甲板に叩きつけられる!と思ったその瞬間、飛んできたパーシヴァルを受けとめ抱きしめる人がいました。ぎゅうとつむった目を開くと、目の前にいたのはなんとびっくり、それはまぎれもないあの王子さまなのでした。
こうして力業で人魚姫、もといパーシヴァルを手に入れたジークフリート王子は嬉々揚々とパーシヴァルを連れて城へと帰りました。
ジークフリート王子の古くからの知り合いであり天才美少女錬金術師であり城の大臣でもあるカリオストロの作った不思議なおくすりを飲んだパーシヴァルは、そのあまりのまずさに気絶してしまいましたが、目覚めたら尾ひれは2本の足へと変わり、彼は声を失うことなく人間へとなっていました。
二人はそのまま結婚式を挙げ、いつまでもいつまでも仲良く暮らしましたとさ。
〜Happy End〜