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    suika_disuki

    @suika_disuki

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    suika_disuki

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    三途の彼氏はかわいい彼氏を分割しました
    くそ長い
    死ぬ
    こんなん……でいいんか?

    三途のお嫁がお嫁になるまで 前編


    「サンズお前いい加減にしねーとソレで死んじまうじゃねー?」
    「三途さんキメちゃうのいつも早いよぉ?」
     灰谷のどっちかが何かを言う。
     トリップしてる時にはタケミチを思い出す。いつも幸せな気分になれていい。呼んだ女はタケミチみたいに柔らかな、少し癖のある短い髪で金髪。その顔が次第に蕩け変わっていくとタケミチに見える。
    「ギャハッハハッヒャハッ、ヘドロ!いいぞアハっはぁっアア、カワイイナァ?!もっと可愛い顔見ミセロォ!!!」
    「うっわ、今日もコッチの方かよ」
    「荒れてんねぇ」
     双子のどっちかがまた何か言っている。
    「もう!サンズいっつもソウなんだからぁ、私の事ちょー好きだよねぇ?」
     どっちがどっちか分からないが、タケミチがニッコリ笑っているのだからそれでいい。それだけでいい。
    「とっと終わらせてくれよ、春千夜ちゃん♡」
    「兄貴、三途最近マジで盛ってんなぁ」
    「春千夜ちゃんも発情期なんだろう?竜胆も混ざるか?兄ちゃん見ててやるわ」
    「キモイこと言うなよ兄貴。終わったら声かけろ。あ、声で分かるから要らねぇか?」
     ぐにゃぐにゃに溶けた2人、いや、1人が部屋を出ていく。
     可愛いタケミチ、妖艶に俺を誘っている。このタケミチの声は反響してよく聞こえない。汚い声をしているから聞こえなくてちょうどいい。
     沢山体を触り、舐めてもう一度顔を見るとそこにはカラフルな渦が出来ている。振り乱れるタケミチの髪が乗ったぐにゃぐにゃが何かを言っている気がする。
    「ヘドロっ……はぁ……ヘドロ、……!!」
    「いいっ、……いいわぁ!サンズ……!!」
     事が終わり、薬が抜けてきた頃には嫌悪感がやってくる。悦に浸った顔した穴が恋人ヅラするのも反吐がでる。それ以上にダメなのがこんな汚い存在のどこに、タケミチを感じたのか自分自信が信じられない。
    「あー終わった?兄貴と先に戻る要件が出来た。三途は後でいいってさ」
    「……おぉ……。とっとと消えろ……」
     性交の虚脱感と薬の虚脱感が一気に体に襲ってくる。
    「待ってやったのに感謝もないなんてねぇ。天罰が下るぞ」
    「うるせぇ……神はマイキーだ!!」
     へーへーそうですか、なんてバカにしたように言って竜胆が帰る。
    「もう行くの……?」
    「話しかけんな……クソ女」
    「クソ女って言うくせに、いつも私を呼ぶんだから春千夜くんはツンデレ~!そういうとこもちょー愛してる♡」
     もうタケミチにも見えない女は無視をする。声を聞くだけだ吐きそうだ。薬が効きすぎてるのか、今日の虚脱感は酷く、考えも散漫。粗悪品でも掴まされたのか?
    「どうやって、戻るの~?」
    「あ”ぁ”?!車に決まって……あのクソ兄弟車持ってきやがったか……?!」
    「タクシー?」
    「あ”ぁ”!!うるせーつってんだろ?!ぶん殴られたくなきゃ喋んじゃねー!!」
    「キャァ!!!」
     手短にあったスタンドライトをコンセント事引きちぎって女の側の壁に叩きつければ見事に粉々になった。
     腹が立つ。タケミチと別れてもうすぐ2年。まもなく2年も過ぎるというのに、ずっと忘れられない。何気なく選んだ女もどこか似ている奴ばかり。
     もうすぐタケミチは17になるのか。ホテルを出てふと空を見上げても雲に覆われた空には何も見えなかった。よく夜景を見に行くとツーリングしていた気がする。珍しく感傷的になってしまった。1番近いペーパーカンパニーの事務所ならタクシーで戻っても良かったが、まだ薬の残った頭は何を思ったか徒歩という選択肢をとった。
     空気は大分と寒くなっている。深夜の時間は人が疎らで何処か寂しい。
     シャッターが閉まり、特に暗い一角に入った途端だ、
    「……お前、サンズハルチヨだな……!!」
     突然の声に、そちらを見れば覆面の男達。銃を咄嗟に取ろうと懐に入れたが、目当てのものがなかった。
     服を脱ぐ前には確かにあった。だが着た時はどうだっただろう?あのクソ兄弟か、女か考える暇もなく、角材や鉄パイプが振り下ろされる。薬がキマッているならリミッターが外れているが、逆ならその反動は凄まじい。
     こんなヤツら素手でぶっ殺すのにとボンヤリ思う。この道に入ったら、遅かれ早かれこうなると思っていた。竜胆の言っていた”天罰”ってこれか?なんて何処か他人事だ。まだ体に残っている薬のお陰で痛くもない。
    「何やってる!ひ、卑怯だぞ1人に大勢なんて……!!!」
     怯えつつも勇気を振り絞った、懐かしい声がする。
    「はぁ……はぁ……にーちゃん、引っ込んでろ……」
    「あんた関係ねぇんだから、見なかったことにして、とっとと帰んな!」
    「こいつのせいで……!!俺は……!!」
     酩酊状態で顔が分からない。
    「お巡りさん……!こっちです……!!早く……!人が倒れてますよ!救急車も呼んでください……!!!」
    「クソっ……!!」
    「行くぞ……!」
     囲っていた奴らは逃げていった。
    「おにーさん!大丈夫です……か……?えっ、あ、は、はるちよくん……?」
     近づき、やっと見えた顔はあの日、置いていったタケミチのソックリさん。
    「……、ぅ……?」
    「大丈夫だよ。とりあえずここ、離れよう?本当は警察、呼んでないんだ。俺の家近いから。ほら、腕回して……」
     頑張って、足踏ん張って、もう少しだよ、そう声をかける男は、本当にタケミチに似ていた。水色の目も、シャンプーの匂いも声も2年前を思い出す。違うのは髪が黒いだけ。
     少し歩けば、より人気がなく、安い鉄板の腐っているのかよく凹む、今にも抜けそうな階段を上る。
    「ごめんね春千夜くん。部屋……凄い汚くて……でも安心して、消毒液とかはあるから」
     記憶と違わない、いや、記憶なんかよりずっと柔らかな笑顔だ。今回の幻覚はよく出来ている。
     両手で顔を挟み、撫でてよく見るが、視線が定まらない。
    「……?……へ、どろぉ……?」
    「……酔ってるの?なんか……変だよ……?」
     不安そうに聞いてくるタケミチ。そうだ俺はいま、トリップしているのだから、これは幻覚。
    「髪……」
    「髪?あぁ、もう黒に戻したよ……!そんなに似合ってなかったし……」
     困ったように笑って、似合ってなかった事を思い出す照れた顔。ずっとこの顔が見たかった。死ぬならとてつもなくいい死に方だ。
    「……へ……ど、ろ……ヘドロ……ヘドロ……!」
     クスクス笑うタケミチ。
    「その呼ばれ方、懐かしいなぁ……。千夜くん?ちょっ……え?!春千夜くん?!春千夜くん!!」
     叫ぶように名前をタケミチに呼ばれて連日飲み続けた薬と先程のリンチで体の方が限界を迎えたようだった。
     糸がが切れたように、体が脱力する。竜胆の言ってた”天罰”がこれから最高ではないか。そうして意識が途絶えた。


     次に目を覚ませば、とても汚い天井。ガサガサ音を立てる方に目をやれば、男がビニール袋を持って何かをしている。解体した後の処理袋だろうか?素晴らしい夢を見た。そのまま死なせてくれ。
    「……っう……てめぇ……だれ……だ」
     口が乾いて上手く発生出来ない。
    「あ!春千夜くん目が覚めた?!良かったぁ」
    「っ……!あっ……おま……なん……ゆめ……?」
    「花垣武道だよ、覚えてる?久しぶりだね……。あ、お茶か水飲む?」
     はい!と差し出されたペットボトルの水をとり、一気に飲む。
    「昨日の夜事覚えてる……?男に襲われてたんだ。警察とか、救急車呼んだ方が良かったかな……?」
     トリップしていた姿を見られるなんて、最悪だ。
    「い、や……。呼ばなくて……、正解だ。世話かけた……」
     2年近く前に手放したタケミチが、手の届くところにいる。それが信じられない。コロコロ変わる表情に、ふんわりとした癖毛。髪が黒い以外は服のダサさも何も変わらない。
    「俺、気が動転してたんだ……本当なら家なんか連れてこない方が良かったのに……ごめん……」
    「救急車も警察も呼ばなくて良かった。ボスに迷惑が……」
     言いかけ、口を閉じる。聞かせていい話ではない。
    「春千夜くんの知り合いに電話しようとしてたんだけど、携帯壊れてて……」
     出された携帯は、襲ってきた男が振りかざした鉄パイプか角材かが直撃して壊れていた。
    「いや……いい。頭ん中に番号入ってる」
    「……電話する?使っていいよ?」
    「いらねぇ……。それより、今何時だ?」
    「今朝の4時だよ」
     差し出された携帯を一瞥し、断る。これで連絡したら、タケミチにまで繋がる。
    「……。も、もう少し……休んでいけば……?部屋汚くてごめんね……!今片付けてるから!」
    「もう行く……、世話かけた」
     3時間位は昏倒していた。誰かが探しているだろう。
    「……助かった。着いてくんなよ」
    「……」
     今更ながら痛む体を引きずってボロいアパートを後にする。
     数度振り返り、つけてないか確認する。言われた通り、着いてきてないことに安心しつつ、寂しいとも感じた。
     もし追ってきていたら……。タラレバを考えても仕方ない。
     大通りを歩けば直ぐに車が止まった。
    「あー三途いたいた。もう海に泳ぎに行ったかと思っちゃった♡」
    「クソ兄弟、てめぇのせいで酷い目にあった……!!俺のチャカてめぇが持ってったのか?!」
     飄々としている蘭のネクタイを引っ張った。
    「持ってくわけないだろう?生きてるんだからよかったな?なー竜胆?」
    「無くしたとかボスに言いつけてやる。 だから言ったろ?感謝しねぇと天罰が下るって。とっとと乗れ」
    「……天罰なんて下ってねぇ……」
     後部座席に乗り込む。いや、天罰は下ったのかもしれない。タケミチに再開して、部屋に匿ってもらい、その部屋は見る限り、誰かとの2人暮らしを匂わせるものだった。
     イメージしていた。きっとタケミチは新しい恋人を作って幸せに暮らしていると。イメージをいくらしていても、現実を目の当たりにした衝撃は遥かに大きかった。
     あの部屋にもう少しいたかった。でも、できなかった。もし、ただいまと誰か帰ってきたら……。それが男でも、女でもきっと認められない。
     タケミチのことが頭から離れず、ボーッと流れる道と人を見続ける。
    「まだ抜けてねーのか?マイキーも心配してたぞ。幹部も集められてる」
    「そうかよ……」
    「どうやって逃げたんだよ?」
    「通行人が来て、それにビビって逃げた。適当なボロ屋でやり過ごした……。彼奴らプロじゃねぇ」
    「同業ならダルマだったな」
     愉快そうにケタケタ笑う。そうこうしていると梵天本部の入るビルに到着する。気を引き締めエレベーターに乗り、人の気配のある会議室を開ける。灰谷兄弟が言っていたように全員が揃っていた。
    「ボス……申し訳ありません!」
    「三途無事でよかったよ……。で、何があった……?」
     昔より髪の伸びたマイキーは、特に連絡がつかなかった事を心配もしてなければ、興味も持ってない。
    「多分借金で首が回らなくなったやつです。全員素人でした」
    「ふーん。で、どうするの?」
     暗い両目は何にも興味がないようだ。殺すも殺さずもどっちでも良いらしい。
    「今日、カタをつけます。おい、誰かあの女、地下に連れて来い」
    「おい、三途のお気に入りだろう?やれんのか? 」
     バジが見逃すんじゃ無いか、と聞いている。
    「いつ、あんなクソアマを気に入ったって言った?」
    「あぁ?お前、あの女しか呼んでねぇだろ」
    「手を抜くか、側でお前が見てりゃいいだろ」
     そりゃ面白そうだ!とバジは犬歯を見せて笑う。
     女はやはり何かを知っていた。逃げようとしていた所、空港で捕まり既に殴られてボロボロだ。
    「さんずっ、さんずぅ……!!許して……わたし、脅されて……!!」
    「銃もてめぇが持ってたか?王の物に汚ぇ手で触ってんじゃねぇよ」
     こちらの顔を見た瞬間、生き延びられると思ったのだろう。必死の言い訳を口にする。
    「クソアマ……。誰が飼い主か言え。言えば楽にしてやる」
     女の顔は既に引きつっている。
    「言う!!言うからやめて!!お願いサンズ!!サンズだけ愛してるの……!本当よ……!!愛してるから許して……!!」
     汚れないよう全身に雨具を身にまとい、置かれた道具から電動ドライバーを選び、そこからは男でも耐えられない尋問が始まった。
     けたたましく唸る工具の音で女の声は聞こえない。


    「情ってもんがお前にゃねーんだなぁ」
    「面白そうにお前も見てただろうが」
     本物のタケミチを見たあと、偽物を目にしたら途端酷く汚い存在に感じた。徹底的にスクラップにしなければならない。特にあの顔は酷く醜くかったし、似ていると思った髪も全く違うニセモノ。
    「終わった?早かったね」
    「ウッス。飼い主が分かりました。最近俺たちにちょっかいを出している――」
     その日、ひとつの組織のボスが行方不明になった。この行動が後に大きな抗争への火種となる。
    「三途♡お前が隠れてたアパート行って聞いてみたけど、誰もお前のこと気付いてなかったぞ」
     誰かさんのせいで疲れた、とわざとらしく肩を回す灰谷兄。
    「住んでるやつは耳の遠いジジイかババアと夜職、若い男も1人いたけど不審者には気付かなかったってさ。馬鹿みたいになんでも喋んだもん。心配するわ。鍵壊れてる部屋は浮浪者がたまに入ってるから誰が来てもわかんねーってさ」
     人あたりのいいこの男が地位の調査員を装って聞き込みしたらしい。きっと疑うことなくタケミチはなんでも喋ったんだろう。しかし、コイツの言うことが本当なら、そんな危険な所に住んでいるのかとギョッとする。
     あの日一日の奇跡と諦めたはずなのに、薬と同じ、1度手にしてしまうと手放せない。もう一度顔をみて、会話したい。あの日会ってしまった周辺を車で走らせてしまう。
     そうしていると、ついに見つけた。1番会いたくなかった相手と連れ立って……。
     男はえらくチャラそうな、赤い髪を立てた男だった。とても楽しそうにタケミチは会話している。その距離はとても近く、親密に見えた。
     もう入る隙がないのか?いや、元から入る隙なんてなかった。タケミチの幸せを1番に願ったのだから。これ以上関わるべきではない。これで踏ん切りがついた。ついたはずだった。
     そこから、薬をキメても可愛いタケミチは出てこなくなった。
    「あ”あ”ぁあ”!?スクラップ……!スクラップだクソ野郎……!!!!ぶっ殺す!!drftgylp;@:「」!!!」
     可愛いタケミチの隣の男。殺す、あいつを殺す。何タケミチに触ってんだ。タケミチに笑いかけられてんじゃねー。目の前に並んだあの男。思いつく限りの暴虐を加え、生きたまま粉砕機に入れてやった。
    「蘭、やべーな三途のやつ。バッドじゃねーか」
    「ドラケンは、たまにだからいいよなぁ?俺らは最近ずっとアレと付き合わされてんだから変われよ」
    「嫌に決まってんだろ」
     何かが何かを言っているそれが、何か分からない。
    「うぅ……っはあ……ハァッ……!!はは、へへははは!!!」
     今はただ、タケミチのあの男を殺せた事の幸福感で一杯だ。
    「おーい聞いてっか?三途くーん、心臓イカれて死んじまうぞー?兄貴、ドラケン、ダメだこいつ。スクラップにしちまうか?」
    「しねぇよ。これからデカい抗争になる。三途は必須だ。おい、三途。マイキーの為にやれんのか?」
    「王……ぅあっはは、ヤレる!あ……たり前だろうが……はぁあっ……はぁ……」
     心臓が痛い。脈が凄まじく早く、吹き出した汗が止まらない。全てのものがカラフルに、何重にも見えている。
    「しばらく、休ませた方が良さそうだな……」
    「だな」
     後日、マイキーの命令で、薬を減らせるまでは戻って来るなと言われた。
     唯一の救いが消えてしまい、街をフラフラ歩く。こんな昼間に何をするでもなく外にいるなんて。
     このまま処分されるかもしれない。そんな事を考えていると声をかけられる。
    「あっ……!まっ、待って……!春千夜くん……!春千夜くんだよね……!?」
    「……おまえ……!」
     声の方を見ると、ずっと会いたくてたまらなかった顔がある。
    「酷い顔色だよ……?大丈夫……?」
    「なんで……お前……」
     知らずに足がタケミチと再会した場所に向かっていたらしい。
    「あぁ、俺ここのレンタルビデオ屋の仕事してるんだ」
    「そう……なのか……。でもなんで外にいんだよ」
    「店長に掃除しろって言われて……」
    「さみぃだろ……?」
    「いつもの事だよ。俺、あんま仕事できないみたいでさ……嫌われてるっぽくって」
     なんでもないように笑っているが、我慢している時の顔だ。昔はこの顔になる前に直ぐに泣いていた。
    「俺が……何とかしてやろうか……?」
    「そういうとこ、変わらないね春千夜くん!もう大丈夫だよ俺! 何とかできるから!!」
     少し目が開かれ、そして懐かしそうに笑う。
    「そ……うだな……余計なこと言った……」
     あぁ、その笑った顔が欲しくてたまらない。なんで手放すなんて馬鹿な事をしたのだろうか。
    「……それじゃ、仕事頑張れよ」
    「あ、あの……!春千夜くん仕事?俺、今日は7時に上がれるから、その後さ……時間あったら、その、久しぶりにどっかご飯行かない?!」
    「……っ、いいのかよ……?」
     元彼なんかと飯食って、今彼に怒られるじゃないのか?そんな言葉が出てきそうになって飲み込んだ。きっとタケミチは何も考えなく誘った。「それは、やっぱりダメだね」「彼氏も呼ぶね」なんて言われてみろ。たまったもんじゃない。
    「いいよ……!あの日から、春千夜くんとずっと話したかったから……!!春千夜くん何時に仕事終わる?」
    「7時に迎えにくる」
    「悪いよ。何処か待ち合わせを……」
    「迎えに来るからここで待ってろ」
    「そう?ならここで!」
     また後で、ニッコリ満面の笑みで見送られる。
     心臓の高鳴りが凄まじい。薬でもなく、命の取り合いでも感じない。
     いくつかある自宅に帰り、顔を見る。酷い顔だ。タケミチに不釣り合いな醜い顔。少しでも眠ってましにしなくてはならない。美しい、綺麗な顔だといつも褒めていた。あの時に戻せなくとも近付けなくては……。
     なんでこんなガキみたいに浮き足立ってるのか。馬鹿だと思うのに、これはチャンスだと誰かが囁いている。関わるべきではない、そういう声よりも、あいつから転がり込ん出来たんだ、もう一度手に入れろと言う声が大きい。
     何を着ていこう。きっとスーツだとタケミチには威圧的だろう。昨日も今日もずっと緊張している様子だった。もっとカジュアルで、あの隣で笑い歩いていた男のような服装を……。三ツ谷のサロンに連絡を入れ、何着か揃えさせる。
     エステに連絡を入れ、専属のヘアスタイリストも来させる手筈を整える。時間になるまでのその間に少しでも眠る。
     興奮しているが、目を閉じればタケミチが浮かぶ。昔、頭を撫でられ眠った記憶が蘇る。


     全ての支度を済ませ、時間より少し早いがレンタルビデオ屋の前に着く。タケミチと別れてからはずっとスーツで、スーツでないジャケットの着心地もしっくり来ない。チノパンやTシャツにブーツなんてのも変な気持ちになる。
     時計は既に7時を過ぎている 。
    「ごめんね春千夜くん……!店長に捕まって……うわぁ、春千夜くん、凄くカッコイイ……!スーツも似合ってたけど、モデルさんって春千夜くんみたいな人なんだろうなぁ。顔色も良くなってる……、今日誘って悪かったなって……」
    「う……うるせぇ……!何処で飯食うんだよ?決めてねぇなら俺がよく行くとこにするけど……」
    「ほんと?そうしてくれると助かるよ!」
     もう既に予約してある。タケミチは昔からあまり決められない。梵天でよく使う料亭だ。余計なことを誰にも決して話さない。
     店に着けば、あんぐりと口を開け、タケミチは驚いている。
    「えっ……お、おれ……俺こんなお店……入れないよ……?お金……」
    「金?俺がだす。折角再会したんだからよ。遠慮すんな」
    「春千夜くん……住む世界が違う人になったんだね……」
     何処か寂しげなタケミチ。確かに、生きてる世界は変わってしまった。だから手放した。でも、それは間違いだったと今なら分かる。
     飯をたらふく食わせ、未成年だからと断るも、酒もしこたま飲ませた。
     フラフラになったタケミチを予定通り予約しておいたここも勿論、梵天御用達のホテルに連れ込んだ。
     ベッドに寝かせ、覆いかぶさり、首筋に鼻をうずめて息を吸う。
    「……あぁ……タケミチ……!たまんねぇ……お前の匂い……どんな薬よりクルわ……!!」
     既に興奮で股間が痛い。
    「……んぅ……?ちよくん……?ちよくんおれからだ、体熱いよォ……」
    「服脱ごうな?」
    「んっ……」
     あの日の一夜。夢中で抱いた体をもう一度味うことができるなんて、夢にも思わなかった。タケミチの体に今の男の痕跡は表面には見えないが、後ろはあの日のように柔らかでとても心地よく、それがあの男との関係を示していて、非常に不愉快だ。
     本当ならこの体は俺一人のもので、俺だけが知っていたはずなのに……!手放すなんてしなければ良かった。もう一度会うなら離さなかった。昔の俺はとても愚かだ。
    「タケミチ……、タケミチ、タケミチ!」
    「っん、ふぁっ……はるちよくん……!はるちよ……!おれ、おれじょうずになった……?きもちいい?はるちよ……!」
    「気持ちいい……タケミチっ最高だ……!!」
    「うれ、しい……!はるちよ……はるちよ……、いっぱ、いっぱい練習したから……!いっぱい連絡したよぉ、気持ちよくなってぇ」
    「ばかっ……んな事すんじゃねぇ……!!お前はずっと最高だ……!!」
     あの日以上に何度も、何度も貪った。あぁ、離せない。コイツに恋人がいようがかまわない。人だって何人も手に掛けた。今更、他人の人生を奪うことの何に躊躇するのか。
     それに、折角手放したのに、誘ったの話お前からなんだ。
    「離さねぇ……お前から戻って来たんだ……!なぁ?……タケミチ、タケミチ……!!」
     酒で、わけも分からないい状態をいい事にずっと抑えていたモノを吐き出す。
    「はるちよ、春千夜……!!」
     そのぐったり眠ったタケミチに構わずそのまま欲望の限りを尽くした。精も根も尽き果てる、なんて経験をベッドでするなんて誰が予想したか。
     眠ったタケミチを強く抱き締め、覚悟を決めた。憎まれても構わない。愛が返ってこなくても、こちらを見なくても構わない。他のやつを想おうが構わない。タケミチが傍にいる、たったそれだけでいい。眠る体に沢山痕を残す。今すぐタケミチを囲いたいが、相応しい場所を誂えてからだ。
     この痕が有れば男ともしばらくできないだろう。なんならこの痕に男が逆上して、タケミチに暴力を振るうのなら最高。そうしたら、そこをかっ攫うだけ。タケミチの中での三途春千夜は真っ当なヒーローのような男だ。
     タケミチを腕の中に収めれば、久しぶりに熟睡することができた。
     なにか、酷く懐かしい夢を見た気がする。






    目を覚ますとタケミチが腕の中にいなかった。
    「タケミチ……?……何処だ、タケミチ!!タケミチ!!」
     スウィートルームの弊害、部屋数が多いが仇になるとは思わなかった。親とはぐれた子のように名前を呼び続ける。
    「どうしたの〜春千夜くーん」
     浴室から呑気な声がして、ドアが開く。フワフワのバスローブに埋もれ、ホカホカ暖かそうに頬を上気させたタケミチが出てくる。
    「お風呂すごいね!俺こんなに広いお風呂も、なんだか高そうないい匂いのシャンプーも使ったことない……!洗っただけでスゲーサラサラだ……!!」
    「……っ、勝手に行くな……!!」
    「え、起こした方が良かった……?凄い気持ちよさそうだったから」
     潰れる位強く抱きしめる。
    「んわ!んぐっ、つ、つぶれるよ春千夜くん」
    「……っ潰されてろ……!」
     久しぶりの感触。タケミチの手が昔みたいに抱きしめ返してくれないが、手元に戻った実感が湧く。いや、まだ実際は戻ってないのだが……。
    「そ、それより……すごいね春千夜くん。何してたらこんな生活できるの?!うわ、クルマが小さい……!!」
     腕の中からスルッと抜け出し、でかい窓に駆け寄り下を見て喜んでいる。
    「人を……動かす仕事とか……。アクションみたいなことしてたら……なぁ?」
     今まで仕事を聞かれた事が無い。皆知っている。梵天のNo.2である三途春千夜であることを。
    「アクションスターとか?んー、マネージャー?ごめん。俺、あんまり仕事の種類とかわかんなくて」
    「……そんな感じだ」
    「春千夜くん……やっぱり、すごい世界で仕事してるんだね……。俺とは……住む世界がほんとうに変わっちゃったなぁ……」
    「そんなことねぇ、なんも違わねぇ」
    「……あ!俺、今日朝から仕事なんだ……ここからだと……余裕で間に合うか」
    「そういやお前、学校は?働いてんのか?まだ17だよな?」
     この男は非常に善性が強く、何かとトラブルに巻き込まれる。悪い男に働かされてるのか?
    「困ってんなら俺が、何とかしてやる……。全部俺に頼れ」
    「悪いよ……。春千夜くんは、もう関係ない人だし……昨日は本当にありがとうございます!俺、久しぶりに春千夜くんに会えて、ご飯食べて……その、エッチもできて……嬉しかったっす!」
     深く、信じられないくらい深い所に突き刺さる言葉だった。そう。他人だ。彼氏なんかじゃない。
    「また、会おうな……?」
    「…… 」
    「タケミチ?」
     肩を掴んで、正面から見据えると目が泳ぐ。
    「うん……また、会いたいよ……」
     明らかに乗り気ではない様子にイライラする。早くしないと。タケミチがまた手から零れる。
    「オレの連絡先入れてる。お前のは昔から番号変わってないんだな?連絡するから、無視すんなよ」
     曖昧に笑うタケミチ。絶対に逃がしたりしない 。
     ルームサービスで朝食を頼み、エレベーターまででいいと言われそこまで見送る。キスをしようと腰を抱き寄せたが、やんわりと拒まれ頬に唇を這わすだけになる。
     昨夜も激しく求め合ったのに、口は許してくれなかった。その事実に暴れだしたい。
     頭の中から番号を引出し、すぐに電話をかける。
    「おぉ、朝早くから悪いな。今部屋探してんだ。1番安全でセキュリティが高い場所だ。ヤリ部屋じゃねぇ。ちゃんと住む。あぁ、あぁ……そこでいい。家具も全部揃えてくれ、今――のホテルにいて、そこの風呂場とアメニティが気に入った。浴槽はそれ仕様に変えてくれ。バスローブとタオルも。もっと良い奴がありゃそれに変えていい。ベッドはクイーン。インテリアは……ブルーとホワイト、海とか空をイメージしろ。できるだけ早く入りたいから家具はこだわらなくていい。それから、静音のカメラをつけろ。死角を1つも作るな。療養の為に猫を飼うんだ。離れてもいつでも見れるように。ヤリ部屋は全部処分してくれ。それから――」




     昼すぎに電話をかけるが、やはりタケミチは出なかった。夕方になっても折り返しが来ない。やはり、関係を継続するつもりがないようだ。
     一夜の過ちにするつもりなんだろう。そんなことを許すわれけないだろう?誘ったのはそっちだ。
     タケミチが住んでるボロ屋の前でタバコを吸いながら帰宅を待つ。人通りも少なく、防犯カメラの設置も甘い。非常に防犯上虚弱な地域だが、そんなところでも空き巣や強盗に狙われない低収入層の居住区。ここに入居してるのは水商売の女とそのヒモ。あとは生保か高齢者。灰谷兄の言ってた通りだ。
     水商売の女はコチラを怯えた目でみていた。わかるやつには、どんな格好をしていても不思議と分かるようだ。借金の督促に来られたと思ってるのか怯えている。
     フーっと何本目かのタバコの煙を空へ吐き出す。あまりこういう嗜好品は好きじゃない。好きじゃないが薬が欲しくなるのを抑えるためだ。
     昨夜から1粒だって取ってない。非常に薬が今欲しいトリップしたい。イライラする。
     それでも耐えるのはラリった状態でタケミチには会えない。トリップしてハイな頭で見るなんて勿体ない。しかし、同時にキメセクもしてみたい。きっと最高だろう。腹上死ができるくらいに気持ちいいに違いない。
    「……っ!な、なんで……?!」
    「よぉ?朝ぶりだな。無視すんなって言っただろう。なんで無視したんだよ」
    「む……し……、してないよ……?折り返す時間なくて……」
     嘘が昔から下手なやつ。ギクシャクして、絶対折り返すつもりがないのがよくわかった。
    「それより寒い。中入れろ」
    「えぇ……?!汚いから……」
    「前入ったから知ってる。ずっと待ってたんだからさみぃお前が連絡してこないからこうなったんだろ?」
    「うう……そうだけど……」
    「それ以外無いだろうが」
    「はい……。汚くても、文句言わないでね……」
     鍵を開けて招いてくれる。入った途端、タケミチはサッと何かを隠した。横目に伺うと男の靴だった。明らかにサイズが違うのですぐに今の恋人のものだと分かる。それなりに良いブランドだ。
     暗い廊下を歩くタケミチを後ろから抱きしる。
    「うぁ?!えっ……!?春千夜くん……!!」
    「寒いって言ってるだろ……ととっとと暖めろ」
     硬直したタケミチの厚手のコートの下。ズボンとシャツの中に無理や手を入れる。
    「い、ま暖房つける……から……っ」
    「今すぐって言ってる……わかんねぇのか?」
    「っ……、だ……めだよ……、春千夜くん……」
     喉にが乾いてるのか、興奮してるのか、かすれた声で抵抗してくる。
    「寒いから暖まるだけだ… …なんも悪くねぇ」
     ベルトに手をかけ、ボトムも下着も床に落とす。
    「っん、ぁ、……壁っ、薄いから……ダメだって……」
    「なら……、俺がちゃんと塞いでてやるから……」
     寒さか羞恥からか、紅く色づいた耳朶をしゃぶり、握ったタケミチの可愛い雄も柔く揉んでやる。
    「ふっ……、ん、はる、ちよくん……だめだ、……やめて……っ、もう……こういうのは……!」
     やめよう、なんて絶対言わせない。足を払い、廊下に押し倒す。
    「うわっ!?いったぁ……」
    「声、聞かれたくないんだったよな?」
     正面から向き合ったタケミチの口をそのまま塞いだ。少し顔を左右に振って抵抗するが、顎を捕らえて逃がさない。
    「んぅ……フゥっ……ぁっ、ぅぁっ」
     拙い舌遣いが可愛い。息継ぎも下手くそだ。今の男はキスが嫌いか下手なのか?薄暗い廊下でタケミチを手でイかせる。男と住んでるこの空間全てで犯してやる。どこを見ても、今日の痴態を思い出すように。
     イッたために放心しているのをいいことに上半身の服を剥ぎ取り、コチラも服を脱ぐ。熱くなったからだに寒い廊下はちょうどよく感じる。
     そのまま抱き抱え、この間寝かせられた硬い敷布団に転がした。
    「ローション何処だ?」
    「やめようっ、いま、なら止めれるから……!」
    「唾とさっき出したコレでもいいけど、滑り悪いだろ?昨日散々やったんだから、一緒だ」
     泣きそうな顔をするが、グッと堪えている。今まで見たことない顔だ。中々ソソる。
    「どっちがいい?好きな方選べ」
    「……っ、……ろーしょん……これ……」
     積まれたゴミの間から安物のローションがでてきた。昔から売られてら安いやつ。相当使っていて、もうすぐ無くなりそうだ。
    「こんな安いの使ってんのか……?体に悪ぃぞ」
    「……口コミも、使い心地も悪くないよ……?」
    「あっそ」
     他の男とのセックスを知って興奮するタイプではない。腹が立つのでローションボトルの口が細いのをいい事に、タケミチの中に突然突っ込んで、ぶちまける。
    「っぐっ、冷たっ、やぁ!っ……!!」
    「声でけぇ。まだ8時なのに盛ってるってバレんぞ?中出しされた気分になったか……?」
    「ち、ちが……ちがう……」
     震える声と体。
    「お前そういうの好きなんだ?俺サイズのゴムねーし、一杯中出しな。お前心配してる声は俺がちゃんと塞いでやるから安心しろ」
     昨夜もヤッたと言うのに、体は期待以上に頑張った。何度も体の奥に叩きつければ、応えるように全身紅くなったタケミチは、痙攣させながらイキ狂う。たっぷり自分の遺伝子をタケミチの中に刷り込む。この体を俺が仕込み直す……。
     疲れきったタケミチを抱え、狭い風呂場で軽く、タケミチは嫌がったが中は入念に流し、心地よい疲労感の中、寝心地は悪い布団に寝転びタケミチを腕に抱く。あの日見た汚い天井に向かってタバコの煙を吐く。
     この部屋の同居人への宣戦布告の残り香。
     疲れからか、ボーッとしたタケミチの頼りない体を先程よりも引き寄せ、ギュッと強く抱く。
    「和室も悪くねぇな。今度、旅館行くか?」
     和室で浴衣を着たタケミチ。想像だが、とてもいい。
    「……おれ……、金……ないからいけないっす……」
    「お前こんなボロ屋に住んでるし、金ないのか?なら、俺のハウスキーパーしろ。こっちに越して来たばっかで買い出しと飯作ってくれる奴探してたんだ。お前なら安心だ」
    「……。俺……やるって……、言ってないよ……」
    「今月中には準備できてるはずだ。あぁー、腹減ったな。なんかデリバリー頼むか……?」
    「話聞いてる……?ん、……残り物で良かったら……食べる……?」
     ダルそうに体を起こし、残り物という味噌汁と焼いた卵焼きを出してきた。
     あの頃は不器用ながらに作っていた料理が今は手馴れている。交代で家事をしていた当時は俺の方が美味かったのに追い越された。
     迷うことなく2人分の食器が小さなテーブルに置かれる。
    「……春千夜くん、美味しいの食べてるから口に合わないかも……ごめん。料理上手くなくて……」
    「いや、手料理久しぶりで美味いわ」
    「……お世辞でも、嬉しいっす……」
     照れた笑顔に、どうしてあの時ひよったのか、後悔する。この料理は誰のお陰で上手くなったのか。全てが羨ましく、憎くて仕方ない。
     食器を下げる姿は、同棲していた時と同じだ。帰るのか聞かれないのをいい事に、この狭い部屋にそのまま泊まった。狭さと寒さを言い訳に密着して眠れるなら、この広さも悪くない。


    「今度は電話無視すんじゃねーぞ?」
    「だから……無視してないってば……!たまたま……折り返せなくて……!!!」
    「また連絡する」
     特売の安いパンとスクランブルエッグ。また昨日の残りの味噌汁を食べさせてもらい、家を後にする。
     早急に、手に入れないと。
     着信があり、見ればパーちんからだ。きっと頼んでいた部屋のことだろう。
    「俺だ。あぁ、今回は内見する。大切な猫だ。不備があったらお前もどうなるか……。冗談だ、本気にすんなよ。今から部屋をみたい。あぁ……。頼んだ」
     その足で頼んでいた物件を見に行った。
    「よう三途、ここだがどうだ?小さいが庭園がある。24時間コンセルジュと警備付き。外観も中々だろ?上階の景色はもっといい。エレベーターは指紋認証で動く。お前たちが使う入口はこっちで他の入居者とは違う。それから言ってた風呂はこれにしたぞ」
     カタログを見るとモデルが2人入浴している。タケミチが喜んだあのホテルと同じか、それ以上に広い。
    「流石パーちん仕事が早いな」
    「お前がうるさいから、無理言って職人をこっちに回させてる」
     最上階の部屋は粛清した何名かの家から運んだ家具を置いていため、相当重厚感ある高級な部屋になった。何故ああいう類の人間は、身の丈に合わない調度品を好むのか不思議だ。この部屋は間接照明と、他にも保管していたインテリアを適当に配置して終わりだ。手間はほとんどかかってない。
     階下の部屋へエレベーターで行くとスケルトンの部屋はクロスが張り替え中で、家具はまだ1つも運ばれていない。
     完成予想のイメージ図案は上階の下品さとはうってかわり、水色と白が空間をより広く感じさせた開放的な明るいものだ。
    「こっちはもう少し時間がかかる。なんでフロア違いで2部屋も必要なんだ?」
    「俺と猫用だ。上はもう住んでもいいか? できるだけ早く生活をスタートさせたい」
    「あっちはなんもいじらないから今週には入れるようにする。猫と一緒に生活しないのか?寂しがるだろ」
     どう暮らすかは探るな、と目で語ると肩を竦めて返事を返した。いくら東卍からの付き合いと言え、深入りしないがルールだ。
    「しかし、話には聞いていたが、噂よりましだな!」
     豪快に背をたかれる。
    「……うるせぇよ……」 
    「ペットは癒しっていうからなぁ?」
    「……黙れ」
     この間始末した女の次に使っていた女に決めた。あれはなんだったか、そう、確か体のシルエットと作った恥じらいの表情が一瞬タケミチに似ていた気がしたから気に入った。
     それなりに見目もよく、超売れっ子人気キャバ嬢という名目もある。囲うにはちょうどいい。直属の部下に連絡を入れ、早速部屋に連れて来させると女は鼻高々な様子だ。
    【三途春千夜が薬の代わりに女を囲った】
     この話は瞬く間に知れ渡り、三途春千夜のイロが無事誕生した。
     階下の完成まで少し時間がある。その間、面倒だが女の世話をした。欲しいといえばバッグや服、そいつの店に行って沢山ボトルを下ろしてやる。
     この間、タケミチが男とよろしくやってるかも……。と考えると途端に薬が欲しくなる。
     焦燥感に苛まれながら、タケミチを迎えられる日を今か今かと待ちわびる。そんな苦しい日々を過ごしていると、ドラケンが様子を見にやって来た。
    「よぉ、三途。元気にやってるか?へー中々いい部屋だな」
    「何しに来た?びょーきりょーよーちゅーだ」
    「心配して見に来たんだよ。そいつが噂の……?」
     腕に絡みつく女を顎で指す。あえて何も話さない。
    「お前が来たってことは、マイキーは戻っていいって言ってんのか?」
    「様子を見に来ただけだって言わなかったか?1週間やそこらじゃわかんねぇーだろ?1ヶ月はイマを保て。話はそれからだ」
    「チッ……」
    「今度は女にうつつ抜かしすんじゃねーぞ?そういや、この下はなんに使う」
    「有り得ねぇ話だ。下の部屋か?コレがなにかできるように見えるか?下はハウスキーパー用だ。気になるなら見せてやる」
     最上階とその真下を入手しているのもやはり知られている。タケミチの存在を広めたくない。だからといって隠すとラットと疑われる。
    「……。へぇ……。ハウスキーパー用にしちゃ警備が硬いな?」
     案内した部屋を観察して回る。部屋のインテリアはシンプルで特別高い家具も、高価な調度品も一切ないが所々設置してるカメラが気になるようだ。
    「喧嘩するんだろ?誰がラットか分からねぇから一応、な」
     納得したか、してないかは分からないが、ドラケンは早く復帰しろよ、とだけ残し帰って行った。
     この完成された部屋に早くアレを入れたい。頭にタケミチの顔が浮かび、会いたくなる。もう、我慢も限界だ。そのままタケミチの住むボロ屋に向かった。
     あえて、連絡入れなかった。
     時刻は夜11時。部屋を見ると明かりがついてるのでドアスコープから見えない位置に立ち、ドアを乱暴に叩くと怖々薄く開いた。
    「ど、どなたですか!!えっ!なんだ、春千夜くんかぁ……脅かさないでよ!!」
    「入れろ」
     安心した顔をするタケミチのアパートは、ドアチェーンもないので強く引くと簡単に押し入られる。この非力さでよくこんな所で生きてきた。
    「どうぞって言う前に入んないでくれません?!もうー!」
     この前より部屋は片付いていた。今日も男の気配ない。 これはヒモか何かかもしれない。
    「寒っ冷蔵庫かよ」
    「連絡入れてくれたら暖房つけてたのに。今入れるから文句言わないでください!」
    「ずっと入れとけばいいだろ」
     既に自分の定位置と決めた場所に座る。
    「無駄すぎる……!節約って知ってます?」
    「知らねー」
     ブツブツ1人文句を言う姿に自然と笑いが零れた。
     水出しのお茶を持ってきて、向いに座ったので本題を切り出した。
    「ハウスキーパー、明日から来い。家が整った」
    「明日?!急すぎるよ……!明日は夜勤だから日中寝てたいのに」
    「ウチで寝てたらいいだろ。今の仕事辞めろ」
    「えぇ、 辞めたら生きてけないよ、雇ってくれるんすか?」
    「雇う、だから辞めろ。飯作ったあと寝たらいい。お前の仕事は部屋の掃除、洗濯、食事の用意だ。今、療養中で手伝いが欲しい」
     その言葉に目を大きく開く。
    「春千夜くん病気だったんすか?!大丈夫なんですか……?」
     心配性されて、嬉しいと感じる。覗き込む目には俺しか映ってないのが、心地いい。
    「ん……。期限も分からないが、しばらく休めって言われた。ずっと住み込まなくていい。お前がこっちに戻ろうが、俺の家で寝泊まりしようが何も言わない。金だがこれでどうだ?」
     指を3本立てる。
    「3万……?」
    「んなわけねぇだろ。30だ。お前の食費もかかる金は別途全部出す。完全に住み込むなら、倍出してもいい」
    「さ、ん、じゅう?!え、い、今の2倍っ?!そんなお金分家事できないよ俺、掃除苦手だし……春千夜くんの服、洗えないよ……!!」
    「……んなに汚くねぇ……!!!!思春期の女かよ!!」
     服を洗えないと言われ、非常にショックだ。確かに、汚れ仕事をしてきたし、前後不覚な所を実質、襲った。娘に拒否される父親の心境はこれか。非常に……非常にキツい……!!!
    「ばか!大馬鹿野郎!!ドライクリーニングとか、色物の洗濯とか、素人には限界があるんすよ?!あぁ!どうしよう……!春千夜くんの家、絶対高いものばっかりだ……!俺掃除もできないよ……!!!」
    「……掃除は業者入れて、服はクリーニングに出せばいいだろうが!」
    「ハウスキーパーの意味!」
     珍しく正論だ。
    「……ぐっ……飯作ったり……、食洗機に皿入れたり……、クリーニング出して、取りに行く意味があんだろ……!!いいからやれ!!」
    「自分でできるよね?!」
     これも正論だ。
    「病気療養中って言ってんだろ?!疑うのか!!」
     もう逆ギレで押し通すしか道がない。コイツは押しに弱い。押しに弱いからゴリ押しし続けるしかない。
    「だって、こないだも散々エッチしたよね?!何処の病気?!体すっごい動けるっすよね……!!病気って……嘘なんじゃ……」
     大正解を叩き出す。
    「あ……頭だよ!頭のビョーキなんだよ!見た目でわかんねぇーやつなんだよ!病人かどうか見た目だけで判断してんじゃねぇ!!分かった、ヘドロ?!」
     勢いで言ってしまった。
     頭の病気ってなんだ。どう考えても頭が可笑しいやつだと思われる。
    「あた……、頭?!頭ってなに……、死んじゃうの?!やだ死なないで春千夜くん……!」
     流石だ。コイツは人を疑う事を知らない。
    「死なねーけど……死なねぇけどな……?!」
    「もしかして……春千夜くん前も様子おかしかったし、凄く顔色も悪いし、なんか痩せてるよね……。それって……躁鬱病、とかいうやつなの……?」
    「ちが……いや……そ、ういう……感じに近いアレだ!!家族とかいねーから1人じゃ不便があるんだよ」
     ごり押せたか不安になり、タケミチの顔を見ると。完全に勝ったことが分かる。
    「わかったよ。俺、ハウスキーパーやる!だから、早く元気になってね?」
     心底心配している。タケミチをくだらない嘘で騙した罪悪感が少しある。それ以上にこんなチョロくて許されるのか?いや、許されない。俺が保護しなくては許されない存在だ。
    「おぉ。必要なもんまとめとけよ。アメニティは全部揃ってるが、さすがに服と下着はないからな。……それより、腹減った」
    「はぁー……。今日はにもないんで、うどんでいいっすか……?」
     いつも急なんだから、と文句を言いながら冷凍庫から3玉冷凍うどんを出して、答えを待たずに準備しだす。
    「おう。それよりお前、金何に使ってんだよ」
     贅沢な暮らしをしているわけじゃない。ギャンブルに狂ってるわけでも、野菜や米が入ったダンボールから親が死んだわけでも無さそうだ。
     15万は確かに少ないが、家賃も相当低いはず。光熱費を極限まで抑え、この間冷蔵庫を覗いて何も無いので食費も相当削っている。学校も中退。何に金がかかるのか、ハッキリさせたい。
     卵を落とされただけのうどんがでてきた。
    「えっと……。それは……。……春千夜くんは……お金あるって……どれくらいだと思いますか……?」
    「なんだそりゃ?金持ちってことか?」
    「うーん……ちょっと違うかな。とりあえず……、お金持ってるなって思う金額……」
     タケミチと同棲していた頃から、金がないと思ったことが無い。欲しいと思えば大抵すぐに手に入れられた。どれくらいが金を持っている人間になるのか思い浮かばない。思考を巡らせ一般的な答えを出す。
    「ベンツ買えるくらいだろ」
    「べんつ……おれ、がんばるよ……」
     ベンツが欲しいなら好きなクラスと必要ならカスタムしたのを買ってやる。
    「お前、車乗りたいのか?」
    「まだ免許も取れてないよ。えっと、それくらい、いるってだけだよ……」
     言葉を濁す姿に、変な男に捕まったと確信する。今は身辺調査をできないが、復帰したら必ず調べて消そう。
    「金、それくらいならどうにかしてやる」
    「……そういうのは、違うから……」
     自分の稼いだ金でって事に苛立つ。なんなら金を貸して、借金で雁字搦めにしてやりたかったのに。
    「チッ。こっち来い」
    「片付けしてから……」
     意図を察して少し恥ずかしそうに俯く。器を片付ける手を掴んで引くと抵抗はない。
    「来いって言ってんだろ」
    「ん……、春千夜くん……待って……」
    「食後の運動しようや。服、脱がせろ……」
    「……春千夜くん……」
     戸惑いつつも、シャツに手をかけ脱がせるタケミチ。途中キスをして、俺もタケミチの服を脱がす。恋人がするような行為に心が満たされる。
     手に取ったローションは新品になり、メーカーの変わっているあのローションを男と使い切ったのは腹が立つが、メーカーが変わったことに少し支配欲が満たされる。
     膝に乗せ、抱き合う形で沢山混じり合った。
     
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