従業員用の控え室で一人、ルッチは姿見に映る己の格好を確認していた。センターできっちり分けた髪を後ろで一つに束ねるいつものヘアスタイルには少しの乱れも見当たらない。身にまとった黒い蝶ネクタイと同色のカマーベストは、上品でスッキリとしたシルエットを作り出し、黒い布地が首後ろと腰周りのみ覆う後ろ姿は、ルッチの細い腰とスラリと伸びる脚を美しく魅せている。
任務の詳細は省くが、ルッチはとある貴族の主催するパーティにスタッフとして潜入していた。しかし控え室の時計が示す数字は、とっくにパーティは始まってしまっている時間だ。当初の計画では警備員として任務にあたる手筈であったが、会場入りしたルッチの容姿に目をつけたホテルの支配人により、急遽フロアスタッフへと異動になったのだ。別の場所に潜入しているメンバーにそれを報告したところ、電伝虫の向こうで笑い転げる声が聞こえたのでルッチは危うく握りつぶしそうになった。
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