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    無双青ルート準拠のクロヒル+ロレマリ小説です。全10話予定。

    真昼の月と花冠.5───ヒルダさん、差し入れをありがとうございました。先日、義父からの手紙を受け取りました。返事を書かねばならないのですが多忙を理由にまだ書いていません。とにかく、それでようやくクロードさんの意図が分かったような気がしました。
     それとヒルダさんがお尋ねの件について紙面に余裕があるうちに書いてしまいます。ラファエルさんは干し肉が大層気に入ったのかすぐに食べ切ってしまいました。イグナーツさんは休憩のたびにヒルダさんが贈った本を開いています。きっとこれから何度も読む、生涯お気に入りの本になることでしょう。ローレンツさんは茶葉が痛まないうちに飲み切ってしまいたい、とのことでしょっちゅう私どもにお茶をふるまって下さいます。
     何でもお父上が携行用の小さな茶器を一揃え持たせて下さったそうです。行軍用の銅の器で飲む時と味が違うのは私が自分のために適当に淹れるかローレンツさんが本気で淹れるか、の違いだと思われます。
     ヒルダさんからいただいたお菓子は生地に練り込まれた香ばしい木の実がとても美味しくて、ローレンツさんも気に入ったようでした。私もお礼の品を何か見繕って贈りたいのですが、残念ながら今いる土地はかなり荒廃しています。おそらくヒルダさんが今いらっしゃるところも同じではないでしょうか?
     理屈の上では飲み込めても心が納得し難い、というのがファーガスに派遣された私どもの当初の心境でしたが今は違います。後日、経路をお教えすれば私どもの心変わりの理由がお分かりになることでしょう。一刻も早くこんな事態を引き起こしている者たちを止め、可能であればその理由を突き止めねばなりません。
     行く先々で目にした惨状を上書きするため皆、好んで遠乗りをするようになりました。皆さん口下手な私のことを慮って色々と話しかけてくださるのに私自身は特に話せるような面白いことがありません。きっとクロードさんなら困らないのでしょうね。
     ヒルダさんが感動したと言う白いラクダの話、私もクロードさんから直接聞いてみたくなりました。でもヒルダさんだから聞かせてくれたのかもしれません───



     クロードたちはアミッド大河を越え、ベルグリーズ領へと侵入した。フェルディアでの密約通り、あくまでも本命はガルグ=マクなので加減が難しい。だが将来的な併合を見据えるにはちょうど良かった。盟主の直轄領にするかグロスタール領としてしまうか、考えねばならないことはいくらでもあった。
     カスパルの父が治めるベルグリーズ領は西部と比べればまだ、荒廃していないらしい。だがクロードがこちらに残した三人は毎日顔を顰めている。エーデルガルト、もしくは彼女の名を騙る者たちの意図が全く分からない。
    「どこも南や西から逃げてきた人でいっぱいだね、クロードくん……」
     流民の溜まり場でクロードたちは聞き取り調査をしていた。紛れ込む良からぬ者たちが命を狙えばヒルダの斧で一刀両断されるだろう。護衛を頼むとヒルダは働きすぎないように見ててあげる、と言ってついて来てくれた。彼女が軽々と振り回す禍々しい斧と愛らしい佇まいの格差は激しい。クロードは安心して背中を預けられる人がいる幸せをフォドラで初めて知った。それだけでも首飾りを越えた甲斐はあると思う。
    「出来れば故郷を離れたくなかっただろうな……」
     自分でも眉間に皺が寄っているのがわかる。レスターは豊かな土地なのでクロードはディミトリほど追い詰められていない。だが故郷や生計の手段を奪われた者たちの生活をどう保証するのか、はどの為政者も皆、深く悩むだろう。
     リシテアもアランデル領から逃げ出してきた者たちの話を熱心に聞いている。不届き者が小柄な彼女に何かしないよう帯剣したままのレオニーが目を光らせていた。
    「やはり皆、怪しげな魔道士たちの姿を見ています」
     ただし見かけたのは姿だけだという。リシテアもそれ以上の具体的な証言は期待していないようだった。彼らにとって都合が悪い何かを見てしまった者はおそらく、もう生きていないだろう。ローレンツと気が合っていたフェルディナントは、実はリシテアに親切だったというヒューベルトまだ生きているのだろうか。



    ───マリアンヌちゃん、そちらがどんな状態なのか、逃げてくる人たちからの聞き取りでなんとなくわかるようになりました。この戦争全体からすれば単なる気休めに過ぎないのかもしれないけれど、ディミトリくんたちが顔見知りに降伏をすすめてくれて私個人はありがたいな。バル兄が生きてることを兄さんへの手紙に書けて本当に嬉しかった!ほんの数節しか通えなかったけれど士官学校ってそういうことのためにあったと思うから。
     この調子で行けば年内に皆とどこかで会えるんだろうけど、それとは別に戦争が終わったあとデアドラで会いたいな。レオニーちゃんやラファエルくんはデアドラと縁がないけれど、それは上屋敷のある誰かが泊めてあげればいいんだもの。それに皆にも白いラクダの話は聞いてもらいたいな!
     白いラクダの話は置いておいて、近頃、人前ではクロードくんたちと当たり障りのないことだけを話すことにしてるの。どこに誰がいるか分からないから用心しようね、ってことで。
     だから安心して話すためにクロードくんを誘って二人で遠乗りに行ったんだけれど、相変わらず自分の話は全然しなくて私から話を聞き出すばっかりで参っちゃう。お陰でするつもりがなかった話をいっぱいしちゃった。平和になったら叶えたい夢の話とか自慢になるから敢えて言わなかった兄さんとの思い出話とか。
     ローレンツくんがこっちにいたらクロードくんの様子も違ったかもしれない。でもファーガスに派遣されるのがあの真面目なローレンツくんで良かったと思う。皆すっごい大活躍だよね。ファーガスから派遣されてるアネットちゃんのお父さんもほめてたよ。私だったらディミトリくんたちからあてにされなかったと思う。やっぱり家督を継がなきゃいけない皆と私は違うかなーって。
     話が繰り返しになっちゃうけどやっぱりクロードくんはもう少し周りを頼るべきだと思うから言葉が心に届くまで頑張ってみるね。頑張るなんて私の主義に反するけど、ありとあらゆることを自分だけでなんとかしようとするなんて絶対に無理だもの───



     バルタザールが王国の将として迎えられた。彼はヒルダの兄ホルストの親友だというが、質実剛健なホルストとは天と地ほどの違いがある。そしてその暮らし由来で負った借金を返すための金をエルヴィンが貸してやったらしい。
     その件を申告されて以来、バルタザールとローレンツの距離は縮まっていた。マリアンヌがベルナデッタと過ごしている時、つまりローレンツが手持ち無沙汰な時に見計らったように話しかけてくる。
    「繰り返しになるが僕もクロードについて探るよう命じられていた」
    「クロードのやつも俺に言われたくはないだろうが胡散臭いからな!」
     一人きりの食事も味気ない、ということでローレンツはバルタザールと昼食を共にしていた。粗野な見た目や仕草と違いバルタザールはこれまでずっとローレンツから言質を取られないよう慎重に話している。彼は確かに嫡子としての教育を受けていた。
     どんな事情があって彼はアダルブレヒト家を出たのだろうか。エルヴィンはそこを探ることを主目的としてバルタザールに金を貸してやったのかもしれない。
    バルタザール自身はローレンツの内心など全く気にせずキャベツの丸煮込みを丁寧に切り分けている。こういうところに育ちが出るのだ。
    「我が父ながらクロードに関しては随分と苦戦していたのだな。君を頼るなど……」
    「お、そしたらローレンツ、今度はお前個人が俺のこと雇ってみないか?金さえ弾んでくれたら何でも探ってきてやるぜ」
     マリアンヌのこと、を仄めかしているのだろうか。一瞬そう思ってしまったがクロードのことに決まっている。だが、ローレンツは心の奥底に眠る欲求を見透かされたような気がした。父は元から秘密主義だったしリシテアもクロードもマリアンヌもローレンツには何も教えてくれない。
    「これ以上、僕の未熟さを自覚させないでくれ」
    「拗ねるなよ、皆ローレンツに嫌われたくないだけなんだぜ」
     もしそうなら絶対に自分から皆の秘密を暴くような真似はしまい、とローレンツは誓った。遠回りでも信用を得て打ち明けてくれる時を待つ方が美しい。
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    DONE #クロロレ春のこども祭り2021重力から自由になったと思った矢先、クロードは全身に強い痛みを感じた。跳ね起きようとしてマヌエラ先生から身体を押さえられる。押さえられた拍子に視界がぐるぐると回りやがて上下が定まった。

    「落ち着きなさいクロード!貴方は飛竜から落ちたの。下敷きになったローレンツも骨折したわ。二人とも信仰魔法で治したけれど大怪我だったから落ち着くまで時間がかかるわ」

     落ち着く、とはなんだろうか。信仰魔法の主な副作用は吐き気と眩暈だ。先程マヌエラが起きあがろうとしたクロードを止めたのはせっかく治したのに目眩を自覚せず歩こうとして転倒されては無意味になってしまうからだろう。

    「ああ、それで視界がぐるぐると……それとローレンツが下敷きって??」
    「ローレンツも無事だから落ち着きなさい。目眩を起こしたまま歩くのは本当に危ないの。人によって体質の違いがあるけれど一日か二日は絶対安静よ」

    「せんせい、もうしわけないのだがおけをぼくのてもとにいただけないだろうか?」

     反対側の寝台から声変わり前の高くてかわいらしい子供の声がした。医務室の寝台には全て幕が掛かっていて互いが見えないようになっている。

    「ああ、 1753

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    5.初戦・上
     三学級対抗の模擬戦はクロード達の勝利に終わった。これもクロードの記憶とは異なっている。容赦のなかったベレスの記憶があるクロードは事前に何か工作するかベレトに探りを入れてみたが拒否された。こんな下らないことに全力を尽くすなという意味なのか気高い倫理観の持ち主なのかはまだクロードには分からない。腹下しの薬は冗談だったが賛同してもらえたら武器庫に忍び込んで他学級の使う武器の持ち手にひびを入れてしまうつもりだった。

     母国やデアドラと比べるとガルグ=マクは肌寒い。気に食わない異母兄が王宮で働く女官を寝室に引っ張り込むような寒さだ。それでも来たばかりの頃と比べればかなり暖かくなっている。過酷な太陽の光に慣れたクロードの目にも山の緑は目に眩しく映った。長時間、薄暗い書庫で本を物色していたからだろうか。廊下に差す光に緑の目を細めながら歩いていると大司教レアの補佐を務めるセテスに声をかけられた。クロードは規則違反に目を光らせている彼のことがあまり得意ではない。

    「ちょうど良かった。クロード、後でベレトと共にこちらに顔を出しなさい」
    「分かりました。セテスさんは先生が今どの辺りにいる 2100