Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    111strokes111

    @111strokes111

    https://forms.gle/PNTT24wWkQi37D25A
    何かありましたら。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 323

    111strokes111

    ☆quiet follow

    蒼月ルートのクロロレです。

    家出息子たちの帰還.27───冬の間、スレンは雪に閉ざされ飛竜や天馬でほ飛行が不可能になる。そんな季節だからこそ土地の境界線で揉める。(中略)上空から土地の様子を確認出来ないため巫者は儀式によって魂を身体から離脱させ空に飛ばす。巫者の魂が直接、上空から土地を見て両者の言い分のうちどちらが正しいのか確かめるのだ。こうして問題を解決してきた歴史があるからか、スレンでは氏族の長が巫者を兼ねていることが多い──


     招かれざる客と乾杯した後はその場で自分の杯を割るのがスレンの習いだ。事情を知るファーガスのものなら険悪な雰囲気になっていただろう。
     彼等はシルヴァンたちのために馴鹿を捌きはしたが肩甲骨周りの肉ではなく、茹でた内臓を出している。皿の中身を見た時点で通詞はひどく不安そうにしていた。客人には普通なら最も良い部位を出す。彼は咄嗟に視線でシルヴァンに判断を仰いだが、シルヴァンはこの場ではローレンツに悟らせるな、と表情で命じた。
     その結果スレンの事情に疎いローレンツは族長の娘が粗相をして杯を割ったと解釈し、大袈裟に心配してみせた。彼女の面目を救おうとして回復魔法までかけている。ようやく命を狙われなくなったが、教えておかなかったせいで彼が道化のようになってしまったことがシルヴァンにはひどく辛い。
    「歓迎されてねえなあ……。申し訳ない。あれはわざとだ」
     自分たちの天幕に引き上げた後、シルヴァンは説明と謝罪をした。スレンのものたちからすればシルヴァンとローレンツの区別はつかない。自分たちを北方に追いやったフォドラの入植者の一員なのだ。
    「気にするな。襲撃されなくなっただけ前進したと思おう」
     だがローレンツはそれ以来、初めて目にした彼等の文化風俗について、通詞を介して熱心に質問して書き留めている。今はまだ断片的なものだがそれでも集めれば価値が出てくるのではないだろうか。
     森の主人とされた大木に何枚も巻かれた布の鮮やかさ、川での豊漁を願う祈祷歌の響きはゴーティエ家にとって不吉なものでしかなかった。だが彼等と因縁がないローレンツの目には全てが興味深く映る。彼等は未だに悪意を隠さないが、自分たちも変化せねばならない。
    「紙は足りるのか?」
     シルヴァンは小声でローレンツに尋ねた。
    「明日からは字を小さくするかな」
     洋灯の下でローレンツが静かに紙の束を数えている。通詞兼護衛は一日中、細かいやりとりを訳す羽目になったせいか疲れ果て泥のように眠っていた。明日も彼は一日中、頭と喉を酷使することになるだろう。


     肌を重ねるとあんなに熱いのにクロードは寒がりだった。だからスレンやダスカーとはおそらく縁がない。それでも大手を振って国外を回れるのはありがたかったし、いつか彼のいる国まで足を伸ばせることだろう。
     ローレンツはスレンのものたちと接触、交渉しているうちにひとつ気づいたことがある。寒い地方なので皆、酒や茶が大好きだ。酒は家畜の乳を発酵、蒸留させればなんとか作れなくもない。だが茶葉はどこから手に入れているのか。移動しながら暮らす彼らは茶葉を板状に圧縮し、飲むときには必要な分だけ切り出す。この保存法から見るにスレンで流通している茶葉はファーガスのものではない。彼らはゴーティエ家の目が届かない北方で、どこかの国と交易をしているようだ。こういった不測の事態に対応するためゴーティエ家はより強い権限を必要としている。

     スレンの茶は薄い。湯と家畜の乳を混ぜたものに塩を入れ、泡立つようにさらに掻き回しながら沸かし、そこに塊から切り出したわずかな茶葉を投入して煮出す。器に淹れる時は茶漉しを使う。
    「肉団子に茶を注ぐのか?」
     ローレンツは思わずシルヴァンに耳打ちした。彼に帯同する形でスレンに入っているので、判断に迷った時は従うしかない。
     内心では恐る恐る口にしてみたが、乳と塩が既に入れてあったせいかそこまで突飛な味にはなっていなかった。意外なことにむしろ美味な組み合わせですらある。スレンでは雨があまり降らず飲料水に乏しいので飲む、と食べる、の境が曖昧なのかもしれない。
    「実に美味しい昼食だった。午後からも引き続き実りある話し合いをしよう」
     通詞ごしにシルヴァンは言った。今日はそれぞれどこの水源地を使うのか、について話し合っている。正確を期すため巫者が魂を上空に飛ばして確かめたという地図を元に。クロードの表現を使うなら飛竜や天馬で飛行できた時期の記憶が、いつもとは別の髪型、違う外套で出てきただけ───だろうか。
     しかしこの昼食のおかげでローレンツにもスレンの民とフォドラの民が何故、水源地の扱いで揉めるのか、真に理解できたような気がした。


     十傑の子孫たちは帝都アンヴァルから見て北と東に封じられた。懲罰人事という一面があったことは否めない。そこは辺境の地でどこまでが自分たちの土地なのかが曖昧だった。どちらも先んじて住んでいた異民族との衝突が絶えない。ディミトリたちの祖先は粘り強く北方へ入植し、クロードたちの祖先は東方へと勢力圏を広めていった。
     そう言うと聞こえは良い。だがスレンやダスカーのものからすれば住みやすい南の土地から北方へ追い出された、と言える。そんな過去の積み重ねがシルヴァンとスレンの交渉を難しくしていた。だが彼は諦めようせず、こまめに報告を送ってくる。
    「今回も珍道中は変わらず、だっただろう?」
    「もう、陛下ったら!」
     アネットはディミトリのつまらない冗談に笑ってくれた。彼女は現在、ガルグ=マクの士官学校で教師をしていて偶にギルベルト、いや、自分の名を取り戻したギュスタヴに顔を見せにくる。アネットは親しい友人たちが書いた報告書をディミトリに戻した。
    「でも今回は学術的にも面白いことが書いてありました。魔道学院や士官学校から学者を派遣してもいいかもしれません」
    「流民の件だろうか」
     こまめに何でも書き残すローレンツはスレンで使われる魔法陣をそのまま書き写している。数世紀前のフォドラで使われたものとよく似ている、税に耐えかねて入植地から逃げ出したものがスレン族に吸収されたのかもしれない、との但し書きがついていた。
    「はい、もしそうだったら彼らと私たちって親戚みたいなものですよね。お互いにそう思えたら交渉もうまく行くんじゃないかなーって」
     だが吸収された流民たちはフォドラの言葉もセイロス教の信仰も失っている。ディミトリはそこまでしなければ受け入れられなかったのだ、と捉えてしまうがアネットはそうではない。
    「行って……みてはもらえないだろうか?士官学校の仕事もあるから無理強いは出来ないが」
    「ベレト先生、あ、違った!大司教猊下と相談してみます」
     スレンの現況がどうなのかフェルディアにいるディミトリには分からない。だが明るいアネットが現地に行けば少なくともシルヴァンとローレンツは喜ぶはずだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    13.誘拐・上

     フレンが行方不明になった。クロードとローレンツは誘拐犯がイエリッツァであること、彼が死神騎士でありエーデルガルトの手の者であることを既に知っている。ローレンツが知る過去ではディミトリたちがフレンを見つけクロードが知る過去ではベレスとカスパルがフレンを見つけている。

    「ではこの時点でベレト…失礼、言い慣れないもので。ベレス先生は現時点で既に教会に不信感を持ち敵対すると決めていた可能性もあるのか」

     ローレンツの知るベレトは教会と敵対せずディミトリに寄り添っていたらしい。記憶についての話を他の者に聞かれるわけにいかないので近頃のクロードはヒルダにからかわれる位ローレンツの部屋に入り浸っている。彼の部屋に行けばお茶と茶菓子が出るので夜ふかし前に行くと夜食がわりになってちょうど良かった。

    「そうでもなければあの状況で親の仇を守ろうとしないと思うんだよな」
    「だが今、僕たちの学校にいるのはベレト先生だ」

     ベレスは戴冠式に参加していたらしいのでそこで何かあった可能性もある。クロードはどうしてもかつての記憶に囚われてしまう。

    「大手を振って何かを調べる良い機会なのは確 2090

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    15.鷲獅子戦・上
     フレンが金鹿の学級に入った。クロードにとっては謎を探る機会が増えたことになる。彼女は教室の片隅に座ってにこにこと授業を聞いてはいるが盗賊と戦闘した際の身のこなしから察するに只者ではない。兄であるセテスから槍の手解きを受けたと話しているがそういう次元は超えていた。

    「鷲獅子戦にはフレンも出撃してもらう」

     やたら大きな紙を持ったベレトが箱を乗せた教壇でそう告げると教室は歓声に包まれた。これで別働隊にも回復役をつけられることになる。治療の手間を気にせず攻撃に回せるのは本当にありがたい。今まで金鹿の学級には回復役がマリアンヌしかいなかった。負担が減ったマリアンヌの様子をクロードが横目で伺うと後れ毛を必死で編み目に押し込んでいる。安心した拍子に髪の毛を思いっきり掻き上げて編み込みを崩してしまったらしい。彼女もまたクロードと同じく秘密を抱える者だ。二重の意味で仲間が増えたことになる。五年前のクロードは周りの学生に興味は持たず大きな謎だけに目を向けていたからマリアンヌのことも流していた。どこに世界の謎を解く手がかりがあるか分かりはしないのに勿体ない。
    2086