本丸内は異空間とは言え四季はあるし、現世と同じようにめぐる。
宗三左文字はペットボトルのミネラルウォーターの封を開けて飲んだ。
「暑いですね」
日が強すぎる。
日差し除けの帽子は欠かせないし何なら外に出ないほうがいいぐらいだ。
其れなのに外に出ているのは畑当番だからだが。
「宗三」
「おはようございます。姫様」
姫様と宗三は少女を呼ぶ。
外見十代の少女。この本丸の主である男の近侍、歌仙兼定と審神者の力を持つ女の娘。
宗三は産まれた時から彼女を知っている。
「暑いです」
「夏休みの宿題は」
「今日の分は終わらせました。宗三を手伝おうと想って」
「偉いですよ」
彼女の母親は、身内のごたごたで心を壊して今は歌仙兼定の神界にいる。
気丈に振る舞っているところがあった。宗三は彼女を褒める。
「褒められるのは嬉しいです」
「終わったらアイスキャンディ―を食べましょう。暑いので」」
燭台切光忠が作っていたのを知っている。
「涼しくなりたいです」
「なれますよ」
暑い中で無理なく畑仕事もしないといけないが、熱射病になってしまってはいけない。
宗三は彼女の体調も気を付けつつ、畑仕事をすることにした。
縁側で妻がアイスキャンディ―を食べている。燭台切光忠が作ってくれたものだ。
「美味しいです」
「貴方は昔から、アイスキャンディ―が好きでしたね」
宗三左文字は妻となった、かつての少女に微笑みかける。彼女が小さかった頃、畑仕事をしてアイスキャンディ―を
食べたことを思い出した。今の彼女は外見が二十代だ。
「美味しいので。今日も仕事、疲れました」
「当主としての役目。ご苦労様です」
彼女の母親の実家を、彼女は継いだ。継ぐこととにしたのだ。身内のトラブルが酷すぎたのだ。
この本丸を、あの家から逃げようとしていたが、逃げたら逃げたで弟妹達が大変なことになると気づき、当主となった。
弟妹達には優しいのだ。そして本丸を彼女は継いだ。この本丸は彼女の父親の主のものだったが、彼女が後継者となったのだ
「宗三が支えてくれていますから。ありがとうございます」
「――ずっと支えますよ。主」
アイスキャンディ―を食べ終わった彼女の唇に宗三は自身の唇で触れた。冷えている。
「大変なことは多いですけど、貴方がいてくれるなら」
唇を離せば彼女が優しく呟く。色の違う目で宗三は彼女と視線を合わせる。
「いますよ。主。僕は貴方の刀であり、夫ですので」