長月に1日1茂島 6日目「無花果を貰ったので最高の菓子をつく……ってください」
『どうしたんだ。これ』
島田清次郎が帝国図書館分館に来ると少女姿の『くま』がカウンターテーブルに座り足をぶらつかせていた。
ここで彼女はいつもそうしている。いきなり睨まれたので最後が丁寧になった。
「困っているおばあさんの荷物をもって先導したら貰ったのだ」
『そのまま齧らんのか』
「齧ってもいいが、俺は無花果のロールケーキが食べたい」
『明日、食え。今から作ってやる』
明日と言われたがロールケーキは出来立てよりも安ませてからの方が美味しいということを清次郎は学んでいた。
分館の本棚の整頓をしろと言われたのでしておくことにする。ロールケーキを作ってくれるので交換条件なのだろう。
無花果は沢山もらったが、文豪たちで食べればすぐになくなってしまう。
「いい秋だ。秋は嫌いじゃない」
暑すぎる夏のような、かといって過ごしやすい秋のような温度。
清次郎は本棚の整頓をしていく。分館はオートで出来るらしいのだが、たまに人を入れていた。
分館は元々は対侵蝕者の前線基地としてかなり好き勝手をするために作られたと清次郎は徳田秋声から聞かされた。
整頓をして休憩をとる。真面目にやらないとピコピコハンマーが降ってきたりする。
「島田さん、梨を食べる? 商店街に行ったらお爺さんに貰ったんだ」
「このところ、俺は梨ばかりを食べている気がするんだが」
「旬だから」
話しかけてきたのは小川未明だ。清次郎はかなり梨を食べている。梨の季節とはいえひたすら梨だ。
「食べてやろう」
「南吉から聞いたけど、自分の名前が付いた賞を取るために恋愛小説を書くのってうまくいってるの?」
「……保留してある。お前の賞はあるのか?」
「故郷の上越市が僕の賞を作っているよ。文学賞」
忘れかけていた恋愛小説について言われた。何故俺の名前が着いた賞がそうなっているのだと想いつつも未明に聞けば、
故郷で名前が入った賞があるらしい。
「お前は日本の……アルゼンチンと呼ばれ」
「アンデルセン。国じゃないから。そう呼ばれるのは……作風が似ているのはあるけれども」
「人魚姫はキリスト教を理解していないと微妙な終わり方だなと言われているしな」
未明は日本のアンデルセンと呼ばれていた。アンデルセンは『人魚姫』や『錫の兵隊さん』『パンを踏んだ娘』などを書いた作家だ。
未明が梨を持ってきていたので飲食室で食べることにする。簡単な梨を切り方は清次郎も教わってできるようになった。
「島田君、小川君。休憩か」
「梨を食べようと想って」
「最近は梨ばかりだな」
「アンタも食え。……なあ、アンタの名前が付いた文学賞はあるのか」
斎藤茂吉が声をかけてくるがこれも毎度になってしまっているし、毎度であればいいと清次郎は想っていたが振り切る。
話題を変えて、自分にしかわからないように変えて聞けば茂吉は考え込む。
「故郷の山形が私の名を付けた賞をやっていると聞いた」
「大体、故郷だな」
「分かりやすいからじゃないのかな」
「島田君の賞は恋愛文学賞になっているというな。面白い変換だ」
「作風に合わせたら……大変だもんね」
「大変というな!」
山形県に斎藤茂吉の賞がやっているらしい。清次郎の賞について言われて戸惑ったが未明がうまく逸らせてくれた。
島田清次郎とリスペクトした賞だと神々しい作品ばかりが集まるのではないかとなったが、さらに何か言われそうなので
今回は抑えておいた。