アオキと彼女の大晦日長い永い。旅をしている。
「蕎麦が出来たぞー」
チャンプルタウンの一軒家にてセリスは同居人のアオキに年越しそばを作った。
こたつに入っていたアオキは蕎麦を見上げる。
「貴方、大概の料理を作りますね」
「作れるぞ」
大晦日。パルデア地方の大晦日はあっさりとしたものである。大晦日を終える。新年を祝う。終わり。
これがカントーやジョウトあたりになると三が日まで休みになるがここはパルデアだ。
「休めるときには休みませんと」
「そう。休みをもぎ取ったんだ」
久しぶりに帰ってきたパルデア地方はまた変化していた。変わらないものなんてないけれども。
アカデミーの国語教師兼パルデアリーグで働くことになったり、四天王にしてチャンプルタウンジムリーダーであるアオキと同居することになった。それもこれも二人が借りていたアパートが別の部屋で起きたポケモンのトラブルによって半壊してしまったせいではあるのだが。いっそ家でも買うかーとセリスが言えばアオキが乗って二人で家を買った。
ネッコアラが転がっている。
「片付けても片付けても仕事が増えますからね」
「何故だろうな。増えるよな」
あははは、とセリスは笑う。
「新年はどう過ごすんですか」
「どうしようか。寝ていようか」
「それもいいですね」
アオキも休むつもりらしい。
セリスも休むことにした。その前にまずは、
「まずは蕎麦だが、おせちもあるぞ」
「作ったんですね」
「食べる奴がいると作るぞ」
「いてよかったです」
新年までまだ時間がある。
二人は、蕎麦を食べることにした。
かつて。
蕎麦すら知らなかった頃。というと笑えてしまうが、今でいう古代パルデア帝国があったときから彼女は、セリスは生きている。
歴史に記録されなかったが最果てにたどり着いてしまった彼女は死ねなくなった。
悠久の時を生きているかはわからない。生きられるかも、わからない。言えることはあれから二千年は経過していた。
「時の切り替わりがあるっていいことだなぁ」
「そうですか? 年を取ったとか、ポピーさんなら喜びそうですが」
昼しかない場所。空は厚い雲に覆われていた。
最果ての天国。最果ての地獄。
全てがある場所。全てがない場所。
辿り着いて死ねなくなりそこから出るまで百年はかかった。時の流れなんて摩耗していて、その時の感覚を思い出すと寒気がする。
だから、こうして時がたつことを感じられることが、嬉しい。
「世界が変化していると感じるよ。こうやってそばを食べられるし」
「蕎麦以外も、これからも食べましょう」
「そうしよう。作りたい料理はまだある」
この旅の終わりを、迎えることはないけれど。
今は、”楽しい我が家”で休むことにする。