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    秋月蓮華

    @akirenge

    物書きの何かを置きたいなと想う

    当初はR-18の練習を置いてくつもりだったが
    置いていたこともあるが今はログ置き場である
    置いてない奴があったら単に忘れているだけ

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    秋月蓮華

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    まさおかとはわがかき氷を制覇しようとする話

    注文制覇は少しずつ【注文制覇は少しずつ】

    『くろうさぎさんをいじめてる。ゆるさない。ぎゃわずはもっていたかさでせっとうだんをなぐりはじめました』

    ハワード・フィリップス・ラヴクラフトは帝国図書館閲覧館にいた。閲覧館は図書館スタッフや文豪たちの間で使われている通称で本の貸し借りが出来る場所だ。
    帝国図書館本館は閲覧専門の図書館だったのだが、今は本の貸し借りも出来る。本によっては図書館で読んでほしいというものも存在している。

    「待ってたか?」

    ラヴクラフトがソファーで新刊の絵本を読んでいると話しかけてきたのは正岡子規だった。ラヴクラフトは大きく頷く。

    「暑い」

    「ここは涼しくするようにしているみたいだが、涼しいも涼しいで身体に悪いからな。人工的に冷やしているし」

    夏は酷暑だ。
    ラヴクラフトとしては涼しいようで暑いところは暑い。着ている服だって、黒ずくめの服ではなく平服だ。帝国図書館から一歩も出ないようにしろ
    暑い。暑いしか言っていないのだがそうとしか言えない。
    正岡が言うのもその通りではあるのだが、

    「冷たい。暑い。嫌。どっち。どっちも、選びます。マシ」

    「そうなるよな」

    「かき氷」

    「おう。行こうぜ」

    人工的な冷たさは苦手な人は苦手だけれども、それでも、暑さで倒れるよりはマシではある。というか人工的な冷たさがなければ生きていけないぐらいだ。
    かき氷とラヴクラフトは言う。これから正岡とかき氷を食べにいくのだ。正岡の手には商店街の冷たいものマップが握られている。
    商店街の飲食店が乗っているガイドマップだ。帝国図書館近所の商店街は定期的に美味しいもののマップを出してくれる。
    ラヴクラフトの側には黒い傘があった。傘は長い。

    「雨傘、兼日傘」

    「俺も差していくか。日差しは暑いしな」

    「武器」

    「確かに武器にもなるが、緊急事態以外はそれで相手を攻撃したら駄目だぞ」

    暑いならば外に出るときは日傘をさして行けとラヴクラフトは山本有三に言われていた。日差しはとても強いのでそのまま当たっていくと体に悪いのだそうだ。
    かき氷を食べに行く準備は出来ていた。壺は風呂敷リュックに詰めているし、財布も持っている。
    二人はこれからかき氷を食べに酷暑の中を歩いていくところであった。



    「のぼさんを知らないか!!」

    「ハワード! 何処へ行った!!」

    「きよもポーさんも。ラヴクラフトさんならかき氷、食べます。行きますって」

    「……どれだけ食べるつもりだ」

    ほぼ同時刻、帝国図書館分館にて涼んでいた河東碧梧桐はエドガー・アラン・ポーと高浜虚子の声を聴いた。
    碧梧桐は日傘を持っていたラヴクラフトとは十分以上前に会っていた。

    「かき氷? ブックカフェや食堂で食べないんだ」

    帝国図書館内にはブックカフェがあるし、食堂もある。
    食べようとすればかき氷はそこで食べられるのだ。虚子は碧梧桐に見せるように冷たいものマップを出してきた。

    「商店街の店のあちこちでかき氷を出している」

    「ソースが豪華なの。増えたよね」

    「ラヴクラフトはアイスやジャンクフードが大好き。かき氷もジャンクフードに入れている」

    「アメリカだとかき氷はないんだ」

    「現代ではあるらしいがふわふわじゃなくてガチガチだな」

    ――日本人はふわふわが大好きって聞いたことがあるよ。
    保護者組が正岡やラヴクラフトを心配しているのはかき氷を食べすぎてしまわないかということだ。碧梧桐が
    商店街冷たいものマップを見てみるがかき氷だけでも店を制覇するには何日もかける必要がある。
    一つの店で何種類も出していてそれがいくつもあるのだ。

    「追いかけるなら追いかけたら。俺もかき氷食べたい」

    「食べに行くわけでは」

    「いいじゃない。食べたいよーかき氷食べたい人ー」

    碧梧桐は軽い調子で呼び掛けた。大きな声で呼んでしまった。
    分館は文豪専用の図書館といったところはあるがそれでも声を出してしまったら怒られそうではあるのだが、

    「かき氷食べたい!!」

    「良いですね」

    分館にいた鈴木三重吉と夏目漱石が反応をした。他の文豪たちもやってくる気配がする。虚子とポーは揃ってため息をついていたが、
    碧梧桐は軽い笑いですませておいた。



    夏はうるさい。煩いはずだったのに静かだ。

    「うるさい。ありません」

    「いろいろの 売声絶えて 蝉の昼、……と言いたいところだが蝉の声も絶えたな。暑いからだ」

    「黙る?」

    「死んだんだろう。蚊とかもそうだが、暑すぎると死ぬそうだ」

    ラヴクラフトと正岡は日傘をさして、歩く。マップを吟味して本日行く店を決めた。ラヴクラフトの記憶だと夏と言えば煩い、蝉の声が聞こえるのだが、
    今日は聞こえない。静かなのだ。
    商店街に行くだけでも日差しは容赦なく照り付けているし、行く前に紫蘇ジュースを飲んでおいたのだが、それでも体にはきつい。
    紫蘇ジュース、それは帝国図書館の夏が来たと分かる合図。
    健康にもいいと大量に作られて出されていた。
    二人とも、首には保冷タオルを巻いている。裏門から出たときに帝国図書館の守衛がこれを使えばいいと二人にぬらして渡してくれたのだ。
    ぬらしてしっかりしぼることにより冷たさが維持され、ひんやりしている。

    「ファイナル。しませんか。蝉」

    「ああ。蝉ファイナルっていうらしいな。うまいよな。セミファイナルと蝉ファイナル。……涼しいところに行きたいな」

    蝉が死んで地面に転がっていると生きているときと死んでいるときがある。前者の場合、生きていて動きまくっていたら虫が怖い人にとっては脅威だ。
    ”ナツノフウブツシ”である蝉すら暑さで死ぬときは死んでしまう。それはつまり、この世界がとても暑いのだ。

    「路地裏。通ります」

    「そっちの方が涼しいかもしれないな」

    商店街へは行きなれているし、道も分かっている。ラヴクラフトは路地裏に通じる道を指さした。
    日本の夏は湿度があるとはいえ日陰に行けばマシになる。二人は路地裏を進む。

    「いちご、たべます。注文」

    「俺は白クマにするぞ」

    「シロクマ」

    「次に食べるといい」

    かき氷は冷たいものは一日一つは守る。冷たいものを食べすぎても体は大変になってしまう。だから毎日冷たいものは食べる。
    妥協案だ。
    ラヴクラフトと正岡はかき氷を目指した。


    【Fin】
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