煙社降臨節暦 第五夜/ふどふゆ 十二月だってのに異常気象は週末の気温を上げてきやがって落ち着きゃしねえ。そんな中インフルエンザは流行するしナースは今日も残業で、それでも今日の鍋パは諦めてないらしく、待ってて、今から行くから、食べないで! と悲鳴が聞こえてきそうなメッセージが届いた。落ち着けよ。
慌てるのが似合わないタイプの女だけど、最近はこんな顔も見せるようになった。で、インターホンが鳴る。オレは鍵を開けてやる。自分の荷物や紙袋をガサガサ鳴らしながら冬花はほとんど倒れ込むように玄関ドアの内側に滑り込む。
「汗かいちゃった。大丈夫? 明王くんお腹空いてない?」
「ぺっこぺこなんだけどな?」
「ごめんなさい。すぐ用意するから。でもその前にシャワー使わせて」
「謝んなくていいし準備できてるし。あと袋の中身入れればいいのか?」
「そう。あとこれ」
しゃれた紙袋が押しつけられる。
「お父さんが注文してくれてたの。シュトレン」
「つか何があったよ」
「それが夕方になって……あ、やめるねこの話」
「尾籠な話題で恐縮ですってやつか」
「そういうこと!」
冬花は脱衣所のドアを閉めてすぐ開ける。
「バッグ! 着替え!」
「着替えったって今日着てたやつだろ」
「そうだけど」
「オレのスウェット貸してやるから」
「でもパンツはないでしょう?」
「履いてもいいぜ」
「明王くんの!?」
ケラケラ笑いながらTシャツとスウェットを手渡すとブラウスのボタンを幾つか外した冬花が顔を出して「お父さんも来るのよ」と囁いた。
「オレは道也のことも愛してるぜ?」
夜明けを待つ空みたいな深い色の瞳が急に挑むようにオレを見て、捕まえる。オレは道也が来たらできないことをする。六秒、頭の隅で自動的にカウントする。ぷはっと小さな息が漏れて、冬花がやっと笑う。