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    moonrise Path

    つまりこれはメッセージ・イン・ア・ボトルなんですよ。

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    DONEお誕生日のお祝いです。くわまつとは……。受け付けなかった時は「これは駄目」と一言教えてください。すみやかに消去いたします。
    誂さんの現パロくわまつの二次創作(鶴をそえて) 春の彼岸は桜の咲き初めにはまだ早い、が、童謡にもあるように季節は山からやってくる。長い石段を登る間に松井はちらほらと蕾をほころばせた桜の木を見た。それは純白と言ってもよかった。ソメイヨシノとはまた違う、この土地で育ってきた木なのだろう。そう思う。
     勤め先の関係で春秋の彼岸は物故者供養の法要が行われ、社員はそれに参加せねばならない。全員、では現場が回らなくなってしまうから、よほど春分の日の開催でない限りそれぞれ代表を一、二名出す程度だけれど今日は随分集まった。
     その中で一際目立っていたのが白髪の男だった。齢は自分よりいくらか上か、しかしそれでも若いはずだ。押しつけられた面倒ごとをひとりでこなしてきた結果今のポジションにいるのだと上司らの軽口の中に聞いたことがある。会社所有の不動産を管理しているということで、松井は自分が仕事をする周辺で彼の姿を見かけたことは一度もない。だが、この彼岸の法要では必ず、年に二回、見る。
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    DOODLE結婚しないまま父親となった久遠道也の感慨とふどふゆ夫婦
    煙社降臨節暦 第十二夜/久遠一家 恋を忘れ走り続けてきた。淡く濃やかな感情が自分にも芽生えうる可能性に目を向ける暇もなかった。それが不幸であるとは思わなかった。
     今でも悔いてはいない。悔恨の情が生まれる出来事はいくつもあったし、そのたびに痛みも生まれた。だが、どれひとつ欠けても今現在には辿り着けなかった。楽を選ぶことができない人生だから、掴めた手もある。
     久遠はクルマに積み込むための荷物を整理しながら手を止めた。アルバムの入った段ボール箱は一つではなかった。自分が関わった選手たちのデータに比べれば少ない数だが、それでも久遠はことがるごとに娘の写真を撮り、アルバムに収め続けてきた。FFIで監督を務める少し前、冬花を撮った写真がある。どんな感情を出すことも拒むような頑なな表情。反抗期らしい反抗期もない娘だったが、自らその奇妙さに気づいている節があった。彼女は久遠以上に聡く、人間らしい感情の機微を備えていた。カメラの前で笑顔を作らないのは、父である自分への信頼と彼女なりの甘えだと久遠は分かっていた。笑顔でない写真は事務的に言えば使いやすい写真でもあり、それはFFIにおいてマネージャーとしての登録、また渡航の際に必要な証明写真としても使われた。
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    SPOILER6期を見ていないので、映画から想像した成長後妄想。
    煙社降臨節暦 第一夜/鬼水 白い箱の中の小さなケーキは装飾的で、イチゴの赤が食えるのはまあ分かる、でもクリームソーダも当たり前になったというのに白い生クリームの波模様や、クリームを飾る色とりどりの粒が食べ物であるということが夢のようで、こんな髪も白くなった中年一匹、ケーキひとつで頬を赤らめる年頃では決してないのに何故だか胸が締めつけられるのだ。
     がらんとして電灯ばかり明るい茶の間の真ん中、水木はケーキの白い箱を開けたまま動けない。母が亡くなって久しい。あの子が出て行ってからも。男は血の繋がらないその子を我が子として育てたのだが、悲しいかな、子どもの名前は水木家の戸籍に連なることもなく、ある日出て行ってしまった。
     出て行った、という明確な別れがあった訳ではなかった。あの年の秋、台風が勢いを持ったまま上陸し下方の川が氾濫した。消防団に呼ばれ町民皆で土嚢を積んで、泥だらけのまま帰ろうとしたあの時、不意に雨風の音も川の轟音も静まりかえって、透明な水の上を渡るあの子を見た気がした。うちに帰るとあの子はいなかった。来た道を引き返し、氾濫する川沿いを名前を呼びながら探し回ったが見つからなかった。異変に気づいた消防団員に止められなければ、あの子を探してそのまま水に入っていたかもしれない。
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