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    雲さん

    妄言呟き垢

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    雲さん

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    傀博♂
    深夜のテレビ観賞はお静かに
    お化けよりなにより人間が怖い

    オバケなんてないさ草木も眠る丑三つ時、ドクターの自室にある液晶テレビはぼんやりとした光を放ちとある番組を映し出していた。

    「う゛!!あそこ、あそこになんかう゛!!」
    「ドクター、揺らさないでくれ。」
    「う〜!ごめん〜!怖くて、つい・・・。」

    どうしてこうなった。ファントムはドクターに聞こえないように小さく溜め息を吐きながら昼間の出来事を思い出していた。

    発端は子供の何気ない一言だった。
    病棟にいる子供達との交流の時間、話題は最近夜中に流れる心霊番組についてだった。

    「ドクターはお化け見たことある?」
    「えっ?う〜ん?ないかな?」
    「マジで?!ダッセ〜!もしかしてお化け怖いの?」
    「は、はぁ〜?怖くないですけど!」

    図星をつかれた動揺からか、あまりに解り易い虚勢に子供達には"ドクターは大人なのにお化けを怖がる人"と認識されてしまったらしい。
    子供達はくすくすと笑いながら、ダサい、かっこ悪いとドクターを煽る。

    「じゃあ今日の夜怖い話のテレビやるからドクター見てみなよ!」
    「怖いの苦手ならドクター泣いちゃうんじゃない?」

    子供らしい煽り文句の挑発に乗り、肩を上げて怒りだす。

    「やってやろうじゃないか!」

    拳を突上げながら子供達に宣言するドクターの後姿を護衛であるファントムは静かに見つめていた。

    そして病棟を後にしてデスクワークをこなした数時間後、自室の液晶テレビの前でドクターは頭を抱えていた。

    「あ〜〜〜あんな事言わなきゃよかったよ〜〜〜。」
    「身から出た錆だな。」
    「くそ〜!まあ、子供が見る心霊番組なんだから怖くはないでしょ!多分!」 
    「だと良いがな。」

    そうしていよいよ、番組の開始時刻となった。
    子供達が指定した番組は視聴者が体験した心霊体験をドラマ形式にして再現したものらしい。
    子供向けとは名ばかりで、役者の演技も演出も本格的なものであり、ドクターのように心霊現象が苦手な者であれば恐怖に怖れ慄いてしまうだろう。
    訝しげに画面を見つめていたドクターも、数分後には自身の体を抱き締めながらあそこに霊がいる、今霊の声が聞こえた、と怯えながら悲鳴を上げ始めた。

    「怖いならば目敏く見つけなければ良い。」
    「そんな事言ったって見つけちゃうんだよ・・・ハァッ!」

    びくん、と大げさな程ドクターの体が跳ねる。
    画面の向こうでは、若いペッローのグループが廃墟に肝試しをするべく侵入している場面だった。

    「え?なんで廃墟に行く訳?危機管理能力どこいった?」
    「若気の至りだろう。」
    「理解できない・・・うあ〜怖い事起きるって〜!」

    怖い、怖いと言いながらも画面から目を逸らさないドクターを横目で見つめながら、何か飲み物でも用意するべきかと考え、腰を浮かして席を立とうとしたその時、いきなり強い力でその場に引き止められる。
    不思議に思い手の主の方を見ると、いやに真剣な表情でファントムを見上げるドクターがいた。

    「ふぁ、ファントム!どこ行くの?!」
    「君に飲み物を、叫び続ければ喉が嗄れる。」
    「いやっ!ファントム!!どこにも行かないで、私の側にいて!」

    一人にしないで、お願い。と小さな声で呟きながら外套を握る指先が白くなるほど強い力で引き止められる。

    恋い慕う相手に縋られ、(恐怖で)潤んだ瞳で見上げられてはその手を振りほどいてしまう事など、ドクターが好きなファントムには到底出来なかった。

    「君の、側に居る・・・・・・。」
    「あ、ありがとうファントム〜〜!」
    「この番組はあとどれ位で終わる?」
    「2時間特番だからあと1時間半もある・・・。」
    「何故わざわざ長い番組を選んだ。」
    「う、これを見ろって指定されたんだよ・・・。」

    震えるドクターを見つめながら、命の危険とは別の意味の危機が訪れている予感がファントムの胸の中には去来していた。

    廃墟の肝試しの話が終わり、次はとある集落にある謎めいた儀式の話に変わっていった。おどろおどろしい雰囲気にまたドクターの表情が強張る。

    「んう〜、怖い・・・。お願い、しばらくこうさせて・・・。」

    そう言うや否や隣に座るファントムの右半身を抱きしめる。
    突然のドクターの抱擁に驚き固まるファントムを余所に「ナレーターの声が怖い!」とファントムの胸元に顔を寄せながら怯え始める。
    顔に熱が集中するのを感じながら、ファントムは今日何度目かわからない溜め息を小さく吐いた。

    番組も残す所あと30分。

    終盤が近い為か、内容も序盤よりもずっと過激でさらなる恐怖を煽るような内容に変わって行く。
    その演出にすでにいっぱいいっぱいだったドクターも余裕はほとんど無いのか、縋り付く力はどんどんと増し、ぎゅう、と音が目で見えるほど強くファントムを抱き締める。
    ついには正面から直視するのが辛いのか、ファントムに向き合うようにして座り、抱き締めたまま肩越しに画面を見つめ始める。

    「ドクター・・・・・・・・・。」
    「ヒッ、怖すぎる・・・これは無理・・・。」

    こうも演出に対して大げさなほど怖がる視聴者がいるのなら、製作者冥利につきるだろうと。ファントムは半ば現実逃避じみた考えを抱きながら震えるドクターと液晶画面を交互に見つめていた。



    番組は終盤に近づき、スタッフロールが流れ始め、ドクターにもファントムにとっても地獄のような時間はようやく終わりを迎えた。外套を固く握りしめていた手を解き、安心したように息を吐く。

    「はぁ、お、終わった。すごい体がバキバキだ。」
    「あれだけ強張らせていては無理もないだろう。満足したか?」
    「付き合わせちゃってごめんね、ありがとう。」

    液晶画面のぼんやりとした明かりに照らされて、申し訳なさそうに眉を下げたドクターの表情が見える。
    その顔を見れば、文句などは霧散しひたすらにドクターを労りたいと言う気持ちにすり替わる。

    「あの〜ファントム・・・もう1つお願いがあるんだけど・・・。」
    「・・・・・・・・・なんだ?」

    正直言ってファントムはもう自室に帰りたかった。暗闇の中で番組を見ている間中、柔いドクターの体を抱きしめて抱き締め返され、密着した首元に恐怖で震えるドクターの温かい息がかかる。
    その息の熱さに、手を出すまいと決意したはずの意思が溶け落ちてしまいそうになっていた。

    「やっぱり私、ああ言ったけど心霊番組は苦手みたいだ。このまま眠るのは恐ろしすぎるから・・・その・・・。」
    「いやに歯切れが悪いな。」
    「・・・・・・・・・あの、一緒に寝てくれない?」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

    ファントムは声を上げずに天を仰いだ。
    自分は一体何を試されているのか、自分が一体何をしたと言うのか。
    だが突き放す理由も思いつかず、諦めの境地に辿り着いたファントムは大人しくドクターと眠る事にした。 

    明かりを全て消した部屋で、ドクターの横に寄り添い眠る体制を整える。
    暗闇が恐ろしいのか、また細い指が外套を脱いだファントムのカッターシャツを掴む。

    「暗闇が・・・恐ろしいか?」
    「いや?君がいるから安心して眠れそう・・・ありがとうね。」

    先ほどの不安気な表情は消え、夜目が利くファントムの瞳には安心したように柔らかく微笑むドクターの顔が映る。
    そうして安心した表情のまま、ドクターは静かに目を閉じる。

    稚いその寝顔を見つめながら、幽霊よりも何よりもドクターが怖い。そう思いながらファントムも瞳を閉じた。
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