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    雲さん

    妄言呟き垢

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    雲さん

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    傀博♂?
    烏衣さん(@ui_an_1063)の猫博ちゃんと弊社博との初絡みを書きました!楽しかったです、みん!🐱🐾
    猫にも嫉妬する心の狭き男、ファントム
    お付き合いしてないのに彼氏面してます。
    烏衣さん猫博ちゃんお借りしました、ありがとうございました!

    はじめましてこんにちは「はあ……」
     応接室の前でドクターは密やかに溜め息を吐く。戦友である他のドクターを招いて行われた情報共有会は和やかに恙なく終わったが、目当ての手がかりは収集出来ずドクターは少し肩を落とした。
    「あとは手がかり5だけどなかなか手に入らないなぁ……まあ、こればっかりは時の運だよねぇ」
     今回の情報共有会でも収穫が無く、さてこれからどうしたものかと思案するドクターの足元をなにか黒いものがさっと視界を掠めていく。
    「なんか今居たような……?」
     見間違いか、と結論づけて応接室の扉を閉めたドクターの足元から可愛らしい声が聞こえた。
    「みん!」
    「ん?」
     ふと足元を見るとふわふわの毛玉……もとい、ふわふわな毛並みの猫がお行儀よくお座りをしてドクターを見つめていた。
    「猫……? こんにちは、君はどこから来たのかな?」
    「みっ! んー! んー!」
    「え〜っと?」
     何かを訴えかけるように一生懸命みんみんと鳴いているが、各国の言語に精通しているドクターでも猫の言葉を翻訳するのはまだ難しい。
    「何か言いたいのは解るんだけどな。……勉強不足でごめんね」
     あのドクターから“勉強不足”なんて単語が飛び出すなんてロドスの職員が聞いたら卒倒してしまいそうな台詞だ。
     へにょりと眉を下げて申し訳なさそうに微笑むドクターを見つめた猫は、一際大きく鳴いた後に足元にじゃれつきだした。
    「みーっ!」
    「おお、元気だねぇ君は」
     再びみんみんと鳴きながら、何が楽しいのかドクターの周りをくるくると囲むように走り回る猫の姿は大変愛らしい。
     だが迷い猫ならばきちんと保護をして飼い主を探さないと、そう思ったドクターは猫へ声を掛ける。
    「猫ちゃん猫ちゃん、こっちに来ようか。首輪を確認してもいいかな?」
    「みう?」
     応接室前に設置された長椅子へと猫を誘導し、自分もそこに座れば、猫は大胆にもドクターの膝に飛び乗り先程と同様に行儀よくお座りをした。
    「うぐお……重っ……、いや失礼か……」
     約十キログラム超の成猫の体が、枝のように細いドクターの太ももの肉にずむりと埋まる。
     一瞬ドクターの脳内に、以前どこかの文献で見た石を使った拷問の図が過ぎった。それほどに猫は重い。
     だが、こちらの言葉の解らない猫に降りてくれとお願いするのも土台無理な話だろうと思い直し、ドクターはそのまま猫の好きにさせようと決めた。
    「んーっ! みっ、みみっ!」
    「う〜ん、おしゃべりさんだねぇ。首輪を探すから大人しくしててね」
    「みぅ……みっ! みん!」
     撫でろとばかりに耳をへにょりと下げる猫に甘えて頭を撫でることにした。
    「ご協力ありがとう、じゃあ失礼して……。わ、すごいふわふわ、手が埋まる」
     長毛種だからか、黒い毛並みは驚くほど柔らかくて温かい。
     手触りに感動しつつ、ふわふわの毛を平らに均すように撫でていると、目当ての首輪に指先が触れた。
    「あった、これが首輪かな?」
     身元が解れば飼い主に引き渡せる。そう思ったドクターはふわふわの毛を掻き分けて首輪に付いているタグを確認すると、そこにあった赤銅色の首輪にはしっかりと“Dr.✕✕”と刻印されているのが確認できた。
    「えっと、✕✕さんの飼い猫ちゃんか。……あれ、もう一つある」
     首輪にはネームタグの他にもう一つ銀色の筒のようなものが一緒に取り付けられていた。
    「取っても大丈夫かな?」
    「みっ!」
     律儀に猫にそう尋ねると、こちらの言葉を理解しているのかご機嫌な様子で瞳を細め短く鳴いて返事をした。
    「お返事できていい子だねぇ。ん? 書類だ……あっ?! これ手がかり5だ!!」
    「みーっ!」
    「もしかして君はこの手がかりを渡しに来てくれたの?」
    「みみっ!」
     そうです、と言わんばかりのドヤ顔でドクターを見上げる猫の愛らしさに思わず表情筋がゆるりと緩む。
    「そうだったのかぁ、わざわざおつかいして届けに来てくれたんだね。優しいねぇ、ありがとう」
     偉い偉いとたっぷりと褒められ、撫でられ、腕の中にいる猫のドヤドヤとした得意気な瞳の輝きが更に増していく。
    「みっ、みっ!」
    「んー? ここきもちいの? ふふ、お礼は何がいいかなぁ?」
     猫はドクターの腕の中でごろごろふにゃふにゃと忙しなく動き回る。元気が良すぎて腕から溢れ落ちてしまいそうだ。
    「あっ、猫ちゃんあんまり動いちゃ……う゛、重い……」
     抱えているのが困難になるほどぬるぬると猫が暴れ出したタイミングでドクターの左隣から声が聞こえた。
    「ドクター、ここに居たのか」
    「あ、ファントム」
     中々戻って来ない上司を心配したのか、護衛であるファントムがドクターを迎えに来たようだった。
     突如現れた護衛は、自身の上司の腕の中でにゅるにゅると動き回る猫の姿を目敏く捉えた。
    「ドクター、その猫はどうした? 初めて見る顔だが」
    「ん? ああ、ムースの所の猫ちゃんではなくてさっきの情報共有会に来たドクターの内の誰かの飼い猫みたい。ほら見て、手がかり5をくれたんだよ」
     賢い子だよねぇ。そう言って楽しそうに微笑むドクターの顔を見ると、ファントムはそれが面白くないとばかりに眉間に深い皺を一つ刻んだ。
    「それくらい私にも出来る」
    「……は?」
    「出来るが?」
    「や、そりゃ出来るでしょうよ……。え? もしかして張り合ってる?」
     相手は猫だよ? そう言って呆れた顔を見せるドクターを横目でちらりと見つめたファントムは、未だに腕の中でうごうごと動く猫に声をかける。
    「いつまでそうしている。飼い主はどこに居るのだ?」
    「みみぃ?」
     ファントムの冷ややかな声など一切意に介さずな猫は、その問いかけに対してこてん、と僅かに首を傾げた。
    「んるぅ、んるぅ〜……る……」
    「鳴いているだけでは一切解らないが?」
     誰かの名前らしきものを呼びながら、あたりをキョロキョロとしだす猫を見下ろしファントムはまた圧をかける。相手はただの猫だ。
    「なんでそんな意地悪するの! 猫ちゃん、ファントムが意地悪言ってごめんね」
    「意地悪ではない。私は真実を告げたまでだ」
     珍しく感情を顕にし、猫に対してやたらと当りの強い護衛を訝しげに見上げながら、ドクターはファントムから庇うように猫を抱きしめる。
     いきなりいちゃもんをつけられた当の猫も、ドクターの腕の中という安全地帯にいるからか気合十分な様子でファントムに向かって鳴き声を上げる。
    「みんみっ! ぶーっ!」
    「ほら、猫ちゃん怒ってる。優しくしないと駄目だよ」
     ぶんむくれているファントム向かって意気投合した二人は意地悪するなとやんややんやと野次を飛ばす。
     二倍になった野次を飛ばされた本人は、バツが悪いのか眉を顰めたまま口を開く。
    「……君の、役に立ち。君を喜ばせ、君を笑顔にするのは私でありたい」
    「……?」
    「み?」
     突然の発言にドクターと猫の辺りに疑問符が飛ぶ。
     ただ彼が不機嫌であることだけは解るので、ドクターは訳も解らないままファントムへ釈明めいた言葉を繰り出す。
    「えっと? うん? もちろん、君はいつも役に立ってるよ? 君は親切で真面目で私をよく気にかけてくれる。これ以上ないくらい側にいてくれて有り難いよ」
    「それは本当だろうか?」
    「嘘ついてどうするのさ」
    「……私は君にとって無くてはならない存在だろうか」
    「うん……そうだね。君がいなくなったら私は悲しいよ」
     含みを持たせたファントムの物言いに、未だに真意が掴めないドクターは更に首を傾げた。
     だがそんなドクターの疑問を知ってか知らずか、ファントムは求めていた答えを貰えたらしく、ドクターの手を取ってうっとりと、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
    「ならばそれで良い……」
    「……??? 君の疑いを晴らせたなら何よりだよ?」
     まあ本人が満足しているから良しとするか、と思いながらドクターはファントムに握られたままの自分の手に視線を落としていると、二人のやりとりをじっと見ていた猫が、何かに気付いたのか弾かれたように腕の中から飛び出した。
    「みっ!! んるぅ〜〜!!」
    「あっ! 猫ちゃん!」
     猫が駆け出した先にはドクターもよく見知った男が立っていた。
    「✕✕、ここに居たのか。私から離れるなと言っただろう?」
    「ぶーっ!! みみっ、んる、みーっ!!」
    「私のせいではない。お前がお転婆なだけだ」
     足元をぐるぐると駆け回っている猫を難なく抱き上げて腕の中に収めた男、――――シルバーアッシュは自分を見つめている二人の存在に気付いたのかドクター達の元へと歩を進める。
    「貴殿がこのロドスのドクターか? 彼を保護してくれた事、感謝する」
    「ええ、そうです。無事に引き渡せて良かった、飼い主さんの元へ連れて行って差し上げてください」
    「飼い主? いや、彼はただの猫ではなく……」
    「……?」
     今日は首を傾げてばかりだなと思いながら、ドクターはシルバーアッシュの返答を待つ。その後ろではファントムが足に装備している得物に手をかけているのを気配で察して、なんで今日はこんなに物騒なんだと内心ヒヤリとしていた。
     そんなドクターの内心を知らないシルバーアッシュは腕の中の猫を見つめながら口を開く。
    「この猫は我々ロドスのドクターだ」
    「みみ〜〜っ!!」
    「…………はい?」
    「何……?」
     なんでもロドスが開発したお菓子を食べれば、それに付与されたアーツの効果で人の体から猫の体へと姿を変える事ができる体質になってしまったのだそうだ。なにそれすごい。
    「御社は随分と愉快な研究をなさっているんですね」
    「ああ、私も初めは驚いたものだがすっかりと慣れてしまった。……まったく、愛おしいものだ」
     鈍感なドクターでも、腕の中の猫へ“愛おしい”と発言するシルバーアッシュの言葉を聞いてその関係性を察した。
    (ああ、二人は恋人同士なのか……)
     蜜や砂糖を混ぜて煮詰めたような甘ったるい視線に、ただ見ているだけのドクターの頬にほんの少し朱が差す。二人の惚気に充てられてしまったようだ。
    「でもどうして猫の姿のまま弊社の情報共有会に?」
    「✕✕、質問されているぞ」
    「んに? にっ、みぅ、みっみ〜!!」
    「……お前は……。 猫の姿のまま参加すればよそのドクターに沢山構って貰えるからだそうだ」
    「はぁ、なるほど……それはそれは結構なご趣味で……」
     なかなかに面白い理由で参加していた事実に気の抜けた返事が口から飛び出る。このドクターはなかなかに愉快な人物であるらしい。
     確かに体こそ大きいが、黒色のふわふわの体にキラキラと輝く赤い瞳の猫は珍しい上に可愛らしい。どのロドスのドクターも好奇心旺盛なため、構いたくなってしまうのも十分に解る。
    「みっ、みん〜〜みわっ! みっみ!」
    「ほう?」
    「彼はなんと?」
     どうしてシルバーアッシュは猫の言葉が解るのだろうと疑問に思いながら、彼の言葉の通訳を待てば、目の前に立つ白銀の男の瞳が愉快そうに緩む。
    「貴殿とは前から友人になりたいと思っていたそうだ」
    「えっ、……え?!」
    「みん〜〜!!」
     いきなり告げられた友達になりたい宣言に、ドクターは顔を赤くして狼狽える。伝えた張本人達はその様子を見て上機嫌で微笑んでいた。
    「えっと、ええっと? ふ、不束者ですがよろしくお願いします?」
    「みっ! み〜〜〜!!」
     誰かにそんな事を言われたのは初めてで何が正解かは解らないが、嬉しさに赤く染まる頬はそのままに、ドクターは猫の前足を握手するかのように緩く握りしめる。
    「✕✕、そろそろ我々のロドスに戻る時間だぞ」
    「みう〜〜ん……」
     腕時計をちらりと覗いてそう話すシルバーアッシュに向かい、残念そうにヒゲをへにょりと下げて落ち込む素振りを見せる猫に、ドクター慌てて声をかける。
    「また遊びに来てくれたらいっぱいお話しをしようね猫ちゃん」
    「!!……みん!」
     ほのぼのとした空気が漂う空間でただ一人ファントムだけが、盛大に照れているドクターの後ろでこれでもかという程に不機嫌な表情を顕にしていた。
    「んみっ! みっ!」
    「うん、また来てね。猫ちゃん、今日はロドスに来てくれてありがとうね」
     シルバーアッシュに抱えられたまま、名残惜しそうに背中越しにみんみんと鳴きながら何度もこちらへと別れの挨拶を告げる猫に向かって、ドクターはひらひらと手を振る。
     そうして一人と一匹の姿が完全に見えなくなると、変わらず後ろに控えていた護衛にくるりと向き合う。
    「ごめん時間を取らせちゃって……! え、どうしたのファントム?」
    「何も?」
    「いや、何も無いは嘘でしょ。すごい顔してるよ?」
     先程も見た眉間の皺がさらにもう一つ増えており、何をそんなに不機嫌になることがあったのだろうと、ドクターは目の前の男の性格の気難しさを改めて感じていた。
    「君の心が、私以外の者で占められるのは苛立たしい」
    「ええ……? 今は君が側にいるから、私はファントムの事だけしか考えられないよ?」
    「…………」
    「ファントム?」
     率直な思いを伝えただけのドクターの発言に、何を思ったのかファントムは口元に手を当てて黙り込む。
     不思議に思ってファントムを下から覗き込めば、照れたように頬を染めた顔が見えた。
    「……なんか照れてる?」
    「君はどうしてそう……こちらの意図に気付かないにも関わらず、求めている言葉だけは容易く分け与えるのだろうか……」
    「話がよく見えないのだけど……、もっと褒めて欲しいって意味で大丈夫?」
     核心に触れないファントムの言葉選びに、思考を巡らせつつそう結論付ければ、その言葉を固辞するように目の前に手が翳される。
    「いや、これ以上は一日に摂取して良い幸福の許容量を超えてしまう」
    「幸福……許容量……? 何……?」
     もう気にしないでくれ、そう言って機嫌が上向きになったのか柔らかく微笑むファントムの表情に見惚れながら、ドクターはまた首を捻りつつ、二人はようやく応接室を後にした。
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