タナトフォビアその日は静寂を纏った深淵が全てを覆ったような新月の晩であった。
悪魔が巣食うと噂されている月夜の城に人影が躙り寄る。
その一方、月夜の城の一室では月顔の男がうとうとと微睡んでいた。
静寂に穴を開けるように足音が反響すると、月顔の男が微睡んでいる部屋の扉が金属音を出しながら開かれる。
侵入者の気配に気づいた月顔の男は既に目を覚まし、私を凝視していた。
腕を組みながら月顔の男はこちらの素性を探るように話しかける。
「こんな人気がない古城に何の用ですか?
それも足元も見えないほどの暗い深夜に。」
口調は落ち着いていたが、私を凝視している目は瞬きひとつしない。警戒されているのは一目瞭然であった。
月顔の男は続ける。
「生者の貴方がここに来る義理は無いはずでしょう?迷い込んだのなら早く来た道を戻ってください。」
6517