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    h_um_14

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    h_um_14

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    同僚プレイを書きたかった。
    ※アゼムはひろし顔

    ごっこ遊びに興じるアゼエメ 仮面の縁をなぞる指先が、導かれるようにエメトセルクの唇に触れた。硬いはずの指の腹に柔らかい皮膚を押され、一人鼓動が高鳴る。心の奥底にある欲求に流されそうになったエメトセルクは、意を決して首を左右に振った。
    「……やはり、こういう関係は良くないと思う」
     エメトセルクの言葉に、アゼムの指が微かに震える。一瞬停止した男は、それでも暫くするといつもの調子で「何故?」と今度はエメトセルクの頬を撫でた。その指先は何よりも温かくて、何よりも優しい。
    「何故――なんて、言わなくても分かるだろう……?」
    「いいや、俺には分からないよ」
     しらばっくれているのか、それとも本当に分からないのか、アゼムの仮面越しに男の表情を読もうとして、エメトセルクは早々に諦める。どっちだっていいのだ。そのどちらであろうが、アゼムはエメトセルクの言葉でしかその事実を受け入れるつもりがないのだろう。目の前で深々と溜息を吐いても、男は薄く笑みを浮かべたままだった。アゼムの手に自身の手を重ね、仮面越しにその青い瞳を覗き込む。
    「私はエメトセルクで、お前はアゼムだ。星の理を司る者同士で……こんな……不謹慎な……」
    「不謹慎?」
     心外だと言わんばかりにアゼムの声音がほんの少し沈む。機嫌を損ねたというよりは、純粋に疑問に思っているようだった。次の言葉を待つように、エメトセルクの頬にアゼムの体温が灯る。
    「……エメトセルクは、俺のことが嫌い?」
     そんな訳あるかと声を上げようとするも、先に腰を抱かれてしまい、言葉は喉に引っ掛かりそのまま消失した。暫く呆然とアゼムを享受するも、慌てて彼の胸板を押して脱出を試みる。
    「やめ……ろ」
    「ほら、エメトセルクはこんなに喜んでいるのに、どうして止めようなんて言うんだ」
    「それは――!」
     感情の問題ではない。ましてや、エメトセルク一人の問題でもない。座に就く者である二人が、身も固めず、子も成さないまま互いに溺れている事に問題があるのだ。そう主張するもアゼムには通じなかったらしく、男は甘い声音でエメトセルクに媚びる。
    「ねえ、俺のこと、嫌い?」
    「……っ」
     耳朶に掛かる吐息が熱い。エメトセルクの腰を撫でていた手が尻肉へと伸びて、更に二人の体温が密着する。それが余りにも心地良くて、エメトセルクは「ひっ」と息を呑んだ。
     嗚呼、駄目だ。きっとまたこのまま奥にある寝室へ連れ込まれて、見せ掛けの抵抗も虚しく彼の欲に流されてしまうのだろう。果たしてそれは「彼だけ」の欲なのかはさて置き、エメトセルクは自身の理性が溶けていくのを感じた。
    「アゼ――」
    「…………っふふ……ちょっと、待ってタンマ……」
     しかしそれは唐突に、一瞬でエメトセルクを現実に引き戻す。途端にげんなりとしたエメトセルクを余所に漏れ出た素を隠そうとしているのか、アゼムは自身の口元にローブの袖を当て微かに震えていた。
     何を見て思い付いたのかは知らないが、「『アゼム』と『エメトセルク』で同僚プレイしようぜ!」と持ち掛けたのは他ならぬアゼムであった。確かに普段はどうにもその辺りの配慮は欠けており、あくまで付き合いの長い悪友として接することの方が多い。
     「飽き」というものは全人類が挑むべき課題である。エメトセルクがアゼムに対して「飽き」が来ることなど無いのは断言できるが、逆にアゼムがエメトセルクに対し興味を失う可能性は全く無いとは言い切れない。ならば――と了承したものの、当の本人は今目の前で演技を忘れて蹲っている。エメトセルクはそんな男の前で深く溜息を吐き、白い天井を仰いだ。
    「もう止めておくか?」
    「いや……ちょっと、もうちょっと待って……」
     たっぷり数秒掛けてから、アゼムは漸く立ち上がり、その場で深呼吸を繰り返す。確かに肩の震えは治まったが、如何せん男の口角は上がったままである。
    「……おい」
    「ごめんってば……だって、ハーデス……普段と全然変わらないから……」
    「あぁ?」
     突然の誹謗中傷にエメトセルクは限界まで眉間に皺を寄せた。自分から誘っておいて、更には演技すら放棄したアゼムに何故そこまで罵られなければならないのか。趣味に観劇を挙げているエメトセルクは、酷くプライドを傷つけられたような気分になった。感情のまま、本気でアゼムを部屋から追い出す算段を付けていると、「違う違う」と男が慌ててエメトセルクの肩を掴んだ。
    「普段と全然変わらない……いつも通り、俺の事が大好きで堪らない『エメトセルク』なんだよ」
     その言葉にすぐさま反論しようとしたが、しかしエメトセルクの喉からは何の音も出なかった。否定も、厭味も、ましてや肯定でさえ、エメトセルクの理性がそこ行きつく事は無かった。唯一気付くことが出来たのは、アゼムの意見に対する同意だけである。
     仕方が無いではないか。エメトセルクは「エメトセルク」という座に就いてから、これまで一度だってその責務を放棄したことなど無いのだから。それは勿論、「アゼム」の座に就いた男と対面する時も、その前から交流していた目の前の悪友に触れる時も、未来で座を下りるその瞬間まで、エメトセルクはずっと「エメトセルク」であり続ける。
     だがそれはそれとして、アゼムに揶揄われたままなのは些か癪に障る。エメトセルクは逡巡した後、やっと平静を取り戻したアゼムの腕を掴み、そのまま寝室へと雪崩れ込んだ。
     男は一切抵抗せず、されるがままベッドに頭を沈め、「なに?」と柔らかく微笑むだけだった。それすらも腹立たしく、エメトセルクは押し倒した男の耳元にゆっくりと唇を近付ける。
    「昼間、会議の休憩時間に私を触っただろう?」
    「えっ……ああ……」
     案の定、仮面の下でアゼムがぱちぱちと驚いたように瞬きを繰り返している。それだけで既に溜飲が下がるのを感じたが、アゼムの耳朶に指を這わせることで絆されそうになる自身を何とか律した。
     アゼムがアーモロートに滞在中開かれる十四人委員会の会議は、それまで溜めに溜めた議題を全て消化する関係上に長丁場になる事が殆どだ。比較的真面目に公務に努めているエメトセルクでさえ、長時間議論を交わしていれば休憩時間が愛おしくなる。ましてや、普段から身体を動かすことに注力しているアゼムにとっては、ほぼ拷問に近しいと言っても過言ではないはずだ。現に本日の休憩時間もアゼムは短時間でストレスを発散しようと、カピトル議事堂から出て外の空気を吸っていたエメトセルクを捕まえて、必要以上に身体に触れながら「夜の約束」を取り付けていた。
    「あれな、ラハブレアが見ていたぞ」
     アゼムが息を呑む音がエメトセルクの鼓膜を震わせる。しかしすぐに「ちょっと待って」と叫び、男が慌てて身体を起こした。
    「それってどっち……?」
    「何がだ?」
    「いや、えっ、まだ同僚プレイ続いてる?」
     目に見えて狼狽しているアゼムが酷く愉快で、エメトセルクは議長の名を出して正解だったと一人ほくそ笑む。自身の下腹部がゆっくりと熱を持ち始めたのを感じながら、再度アゼムに圧し掛かりエメトセルクは先程まで彼がそうしていたように口角を吊り上げた。
    「今日は風が強かったからなあ。昨日お前がココに付けた痕も見られたかもな」
     エメトセルクは自身の首に掛かっていた白髪を掻き上げ、昨夜の情事の証である赤い鬱血痕をアゼムの眼前に晒しながら尻肉で男の下肢を押し潰す。
     アゼムが厳格な議長を苦手としていると知っているからこそ、彼の反応が面白くて面白くて堪らない。
    「なあ、アゼム。『やはり、こういう関係は良くないだろう? 星の理を司る者同士で、不謹慎だと思わないか?』」
     顔を引き攣らせつつも困ったように笑うアゼムが、再びエメトセルクの腰に腕を回した。互いに仮面を付けたまま口付けを交わし、結局いつも通りの関係のまま、エメトセルクはアゼムという男に流される事を選んだ。
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