白猫とアゼエメ 柔らかいものがアゼムの頬を撫でる。始めこそ衣服や寝具の類がたまたま顔周辺を掠めただけかと思っていたが、それはローブよりも毛足が長く、シーツにしては細長かった。やがてそのふわふわとした謎の物体はアゼムの鼻の下を数回擦ると、痺れを切らしたようにぽんぽんと顔の上で跳ねた。
「……ハーデス……なに……?」
目を閉じたままそこにいるであろう男の名前を呼ぶも、返事は返ってこない。眠っているのか、それとも無視しているのか、思い当たる節が全く無い訳ではないので、アゼムはその場でうーんと唸ってみせた。正直に言えばまだ此処で怠惰に惰眠を貪っていたい。しかしアゼムの顔の上を滑る「何か」はどうやらその場から退くつもりは無いようだった。
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