さようなら、また、いつか 「では。
さようなら、またいつか」
事も無げな科白と口調はいつものこと。
にこりと笑うと彼女は部屋から出ていく。
とす…と襖の閉まる軽い音のあと、遠ざかっていく足音を聞きながら、宇髄はゆっくりと身体を起こした。
肌に直接触れる早朝の空気はひやりと冷たい。
己のものではない布団から重たい身体を上げ、いつしか丁寧にたたまれ傍らに置いてある自身の衣類を荒く身につけると、宇髄は煙のようにその場から姿を消した。
しんと静まったしのぶの部屋は、主を失ったことすら当たり前のように、ただいつも通りのようにそこにあった。
✼✼✼
事の起こりは、もうずいぶん前だ。
皆が寝静まったであろう深夜、音もなく部屋の襖が開き、やはり音もなく閉められる。
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