風俗につれていかれるアルフィノくん ウルダハの商店街を通り抜け、小さな飲食街が並んでいる裏路地。
露出の高い衣服を纏った美しい女性たちが一定の間隔を保って薄汚い壁を飾り、黒服の男たちが巣穴に甘い蜜があると誘いこむ。
そんな巣穴の一つで、私は生活していた。
「随分と場違いな子ね」
「かわいい〜」
まだ開店直後の時間。各々自慢のボディが一番魅力的に見えるドレスに着替えて、待合室に集まってきた頃だった。
褐色肌のハイランダーの若者に半ば押されるようにやってきたのは、柔らかな銀髪を揺らす背の低い美しい少年。ここに来たのが恥ずかしいのか、きめ細やかな美しい頬を薔薇色に染めていた。
佇まいも場違いなほど品が良い。仕立ての良い服を着て、どこかのお坊ちゃんなのだろう。
どうやら初めて娼婦を買いに来たらしく、誰がその純潔を散らしてあげようかと色めき立っていた。
大人の階段を登りに来たのだから、柔らかで包み込むような女性がいいだろう。少女趣味のおじさんたちに好まれやすい私は、初体験としては選ばれないだろうなと思っていた。
なのに、その少年は目が合うと驚いたように真っ直ぐに私を見つめる。
瞬きもせず、見つめ合ったのはほんの数秒だったけれど。
そして隣に立つ若者に肩を小突かれながら、私を指名してきた。
「……緊張しているの?」
部屋に入ると少年は俯いて、長い睫毛を震わせていた。問いかけると素直に頷く。
「何をすれば良いのかも、分からないんだ」
美少年らしいハイトーンの声かと思ったら、意外と男性的な柔らかな声をしていた。
「くっついたらいいのよ」
横に並んで手を握ると、思っていた感触とは違ってしっかり硬い男の子の手のひら。お金持ちのボンボンらしい柔らかな手だと思ったのに、自分の偏見に申し訳なくなる。
「っ、あの……胸が」
腕に絡み付いて肩に擦り寄る。爽やかないい匂いがして、テンションが上がってしまう。少年の腕を自分のささやかな胸に触れさせ、こっちを見てと耳朶にキスする。
「好きにして、いいんだよ」
胸は正直大きくはないけれど、肌は白くて身体は細いから、そこまで貧相には見えていないと思う。着ている白いキャミソールワンピは胸元がレースで透けているのだ。少年の視線が、桃色と褒められる先端に注がれているのが分かる。
「どこを触ってみたい? それとも、触れて欲しい?」
ワンピースの裾を掴んで持ち上げ、太腿まで露わにさせて見せつける。胸がない分、太腿とお尻は柔らかくてエッチだとおじさんたちには好評だ。この子の綺麗な瞳には、どう映るのだろう。
「……ずっと考えていて」
ベッドへと誘って細く若い身体をゆっくりと押し倒す。細い腰の上に跨ると、ふっくらした塊を下着越しに感じる。ちゃんと興奮してくれていて、嬉しい。
「なぁに?」
耳まで真っ赤だ。唇が乾いてしまうのか、舌が内側を舐めているのが見える。潤んだ瞳がエッチで、いつもの自分の演技がチープに思えた。天然はずるい。
「君たちを……お金で消費してしまっていいの、だろうか」
「その年で、説教しながら女を抱くオジサンみたいなこと言わないでよ」
肩紐を外してワンピースを脱ぐ。放り投げるとハラハラと生き物みたいに揺れながら静かに落ちる。
「っ、あの」
「おっぱい、触って」
触れ合う場所の圧力が増す。美しい蝶たちの群れの中で、私を見つけた君の瞳は丸くなったのだから。私の見た目は好みなんでしょ?もっと、ちゃんと見て。
恐る恐る伸びた指に我慢できなくて自分から胸を押し付ける。「あっ」と、小さな声を漏らすのは彼の方だった。
「ね。わかるでしょ。生きているの。私たちは、生きるために働いているの。消費されてなんかいないから」
もちろん、説教好きなオジサンにはそんな事は言わない。強がりなのも分かっている。でも、この美しい新雪みたいな少年に、同情されたくなかった。選ばれて、君にとって特別な女の子として一夜を楽しみたい。
「それに……。これから私に消費されちゃうのは、君だよ。名前、教えて」
「……アルフィノ・ルヴェユール」
フルネームで言うことないのに。
思わず笑ってしまうと、少年も綻ぶように微笑んでくれた。
「あの……触っても?」
「もちろん」
アルフィノは上半身を起こすと、ゆっくりと私の頭上に両手を伸ばす。
頭の上についた耳を内側に少しだけ触れながら、くにくにと柔らかく揉んでくる。
「ミコッテの耳、好きなの?」
「そういうわけじゃ……。いや、好き。なのかな。……ずっと触ってみたかった」
ウルダハにはミコッテ好きの男は多いし、耳にぶっかけられることもあった。でも、そういう触り方じゃない。大事なものに触れている、熱っぽい瞳が何だかむず痒い。
「いいよ、好きにして。尻尾も触る?」
髪の毛と同じ金色の尻尾で彼の脇に触れると、恥ずかしそうな、嬉しそうな、悲しそうな。複雑な顔をされた。
久々にゆっくり眠ってしまった。
隣で眠っていたはずのふわふわな銀色の髪の少年は、もう起きていて身支度を整えている。しっかりした子だ。
隠しもせず欠伸をすると「よく似ている」と、少しだけ晴れやかな声で言われた。
「次はいつ来るの?」
リピートを稼ぎたいという気持ちより、この少年がどんな男になるのか見てみたいと思った。エレゼンの成長期の過程を見られるのは新鮮だし。
「え……。考えていなかったな」
「どうせ連れられてきたから、一期一会にしようと思ってない?」
「見透かされているね」
「来たらまた測ってあげるから、ここで。ね?」
昨夜含んだ彼のサイズに唇を開く。少し下品かと思ったけれど、顔を真っ赤にしながらも、予想していた反応より楽しそうに笑ってくれた。
「その……私は、君にとって良い客ではなかった気がしていて。最後まで出来なかっただろう?」
「それは無理にするものじゃないって言ったでしょ。挿入するのが商売じゃなくて、抜いてスッキリさせるのが私の主業務なの。だから、また来て枕になってよ」
今度は、この美しい生き物のお初を頂きたい気持ち半分。娼婦にとって、お金ももらえて、いい匂いがする顔の良い男とゆっくり過ごせる時間は、最高だということも。また来てくれたら教えてあげよう。
「それでよければ」
窓のない部屋なのに、彼が微笑むとそこだけ朝日が射し込むみたいにキラキラしていた。
後日。
娼館で一泊をキメたアルフィノの事を同じ男として褒めたアレンヴァルドだったが、アルフィノが選んだ娼婦の見た目が、良く知った英雄に似ていることについては、一人酷く頭を悩ませることになる。
終わり