語らい 早朝の雪道は降り積もった真新しい雪で、真っ白な絨毯を広げていた。
昇り始めた太陽が斜面を煌めかせ、眩さに被ったフードを下げる。
「よお」
これだけ雪の降る土地なのに、いつ来ても埋もれることなく姿を現していた。今でも彼を慕う兵や民たちが足繁く通っているのだろう。
墓標にニメーヤリリーの花を置く。
「悲しい顔は似合わぬと、酷なことを言う奴だと思っていたが……」
惚れた男の血を浴びて茫然とした顔。犬っころのようにコロコロ表情が変わる女が、強張った笑顔しか見せなくなっていた。
その後は……まあ、俺の不手際で傷ついている暇もなかったのもあるが。少しずつあいつらしさを取り戻していった。
あいつは今も英雄として求められて、期待に応え続けている。その小さな背中を、支えてくれる仲間もできた。
「まあ、……英雄としても、良くやっているんじゃないか」
ここに訪れたのはそんな誰もがわかっていることを、伝えに来たわけじゃない。
もっと、そう。個人的な、くだらない男の感情だ。
「お前が悲しい顔をするなと、あいつに言った意味が今ならわかる」
あの旅路が終わったら、あいつはお前と幸せになるものだと思っていた。
お前もそのつもりだったんだろ? バチバチ睨みやがって。
「惚れた女には、笑っていて欲しいもんだな」
ゆっくりと昇る太陽が銀世界を彩りだす。
腕も立ち、賢く、人望も厚い男だった。
お前が生きていたら張り合う気力はなかったかもしれない。
だが、今はもう違う。
どんなことが起ころうが、手放すつもりはない。例えお前が生き返っても、人智を超えた神が相手だとしても。どんなものにも負けるわけにはいかない。
「全部片付いたら言うつもりだ。お前に認めて欲しいなどと思っちゃいないが」
墓石に積もった雪を払う。
「ここで悔しがっていろ。俺も、一生お前に嫉妬している」
あいつの心の中に、確かに生き続けるお前の存在ごと引き受けてやる。
よく晴れた広い蒼天の空に、白い鳥の声が木霊した。
おわり