【キャラメルポップコーン】柔らかい日差しが降り注ぐ午後。
切り揃えられた芝生の上に座って一人ぼんやりと空を見上げていた。
青く澄んだ空は高く遠い。雲はまるで迷子のようにゆっくりと流れていく。
妙に落ち着かない。原因はわかっていたが、それを素直に認めてしまうことを心が拒んでいる。
後悔している訳では無い。けれど胸の中に落ちる影を払うことも出来ない。
これは酷い裏切りなのでは無いか。そう考えそうになって頭を振る。
違う、弱い自分がいけないのだ。訪れるかもわからない未来に不安になるだなんて、馬鹿馬鹿しい。
どんどん暗くなる思考に息苦しさを感じてゆっくりと息を吐く。
桜備大隊長と付き合うようになって、こうやって考え込むことが増えていった。
好きだと告げられた時は素直に喜んだ。
憧れから始まった気持ちは、いつしか淡い恋心へと膨らんでいて、隠すことさえ難しくなっていたから。
大隊長だって同じように苦しんでいたのかもしれないのに、一歩踏み出して想いを伝えてくれた。
自分には持てなかった勇気と覚悟を大隊長は持っていた。
それがとても眩しく感じるのと同時に、大隊長の強さを改めて知ることが出来た喜びで胸が温かくなる。
俺はその気持ちに応えるように何度も頷いて、自分も大隊長のことが好きだと告げた。
返事を聞いて嬉しそうに笑い、優しく抱き締めてくれた腕に涙が溢れそうになる。
幸せだと、そう感じた瞬間にひたりと冷たい物が背中に押し当てられた気がした。それは一瞬で、直ぐに消えてしまったけれど確かに感じた。
訳も分からず戸惑っていたが、突如唇に触れた熱にそこから何も考えられなくなってしまう。
きっと大事なことだったはずなのに、あの時に自分の中で有耶無耶にしなければ今のような状況にはならなかったかもしれない。
あの日から、俺の日常が大きく変わった。
幸せだと感じる日々が続いている。けれど、それと同時に迫ってくる何かに怯えていた。
見詰める眼差しから大切にされているのは十二分にわかっている。
時には激しく求められても、さり気なく気遣う優しさや、甘やかすみたいに髪を撫でられることが嬉しくて堪らなかった。
けれど、そうやって胸が温かくなると決まって背後から冷たく重たい何かが迫ってくる。
夢から覚めて暗闇に引きずり下ろされそうな気がして、満たされた気持ちが一気に冷たくなってしまう。だから、差し出してくれたその手を素直に握り返すことが出来ない。
素直にこの気持ちを吐き出せたなら、こんなに苦しくなかったかもしれないのに、こんな時でさえ俺は勇気が持てなかった。
ごめんなさい。その言葉に出来ない気持ちを大隊長に抱き着くことでいつも誤魔化した。
(甘い香りのキャラメルだって、どこかほろ苦さを隠してる。
今ある幸せだって、噛み締めていたらいつか辛い思い出に変わってしまうかもしれない。)