朝瞼の裏に柔らかい光を受ける。小鳥達が戯れ合う声を微かに感じ、霞がかった思考が徐々にクリアになる。
ひとつ大きな欠伸をして、重い体をゆっくりと動かして部屋を出た。
日が差し込む廊下は澄んだ空気で満ち、深く吸い込めば鉛みたいだった手足が軽くなっていく気がした。
さて、今朝はどの部位から虐め抜いてやろうかと思案していると、後方から仔犬が駆けてくるような軽い足音が聞こえてきた。
「大隊長、おはようございます! 」
背後からハツラツとした声が届く。
それは鼓膜から全身に染み渡り、胸をじわりと温かくさせた。
振り返れば、跳ねた髪を揺らしながら真紅の瞳を輝かせたあの子が近付いてくる。
「おはよう森羅。朝から元気だな」
隣に並んだ森羅に形の良い歯を見せて笑えば、応えるように同じ笑い方で返してくれた。
その姿が愛おしくて堪らず跳ねた黒髪を掻き混ぜるようにくしゃくしゃと撫でた。
止めてくださいと恥ずかしそうに言われたが、その声色に迷惑さなんて微塵も感じない。
声を弾ませながら二人並んで歩く。
こんな些細なことで喜んでいるなんてきっと彼は気付きもしない。
向日葵みたいな彼が近くに居るだけでいつも心が満たされる。
「今日も一日頑張ろうな! 」
桜備の一言に、朝日で照らされた廊下に元気な返事が響き渡った。