【一方通行】よく晴れた青空みたいな笑顔。
大隊長が俺に向けてくれる顔はいつだって優しい。
甘やかすみたいに頭を撫でてくれる温かい手。戯れで肩を抱く逞しい腕。辛い時にそっと背中を押してくれたその存在が、泣きたくなるほど優しくて苦しくなる。
それは部下だから、子供だから、仲間だから、色々あるのだろうけど全部それ以上でもそれ以下でも無い。
一生変わらない物なんて無いから、いずれはこのカテゴリからも外れて、もっと遠い存在になるに決まっている。
大隊長のこれからも続く長い人生の中で、ほんの一時だけ俺が与えられたこの関係。たったそれだけの存在。
失うのはいつだって突然で、抗うことも出来ずにあっという間に押し流されてしまうのだろう。
だから俺は良い子を演じる。大隊長が心地良いと思える関係と距離感を保つ為に。
いつ終わりを迎えるかもわからない時間に期待なんてしないように。
心に鋭い刃でズタズタに引き裂かれるような痛みを感じても、頭の中で警鐘が鳴り響いても、目をつぶり耳を塞いで耐えた。何も気付かない振りをして笑顔を作った。
大切な物を失う苦しみは自分自身が一番よく知っている。
だから、胸の中で芽生えそうになる何かを、初めから何も無かったのだと言い聞かせて一つ一つちぎって捨てた。
その内きっと勘違いだったと、笑える時が来るその日まで。