言い訳眉間に皺が寄っているのが自分でもわかる。俺はシフト表を前に思わず深いため息をついた。
ちょうど夕飯時終わりのシフト枠。主婦パートが姿を消して人手が薄いのに、帰宅ついでの客足が途切れない時間帯。正直あまり人気のない枠だ。深夜の割り増し賃金をチラつかせれば喜んで俺とシフト交代しそうな学生バイトの名前が、ポツポツと目に留まっていた。
「お、タナカ先輩。シフト変更?」
めずらし〜。とダル絡みしてくる同い年の社員を無視して思考を巡らせる。そう、代わろうと思えば代われる。代われるのだ。
――でもそれじゃあ、俺が小宮さんのストーカーみたいじゃん。
用事?デート?そういや懇親会で当てた遊園地のヤツ使った?などと余計なことを言いながらシフト表を覗き込んで来た同僚を、今度は意識して出したデカいため息で追い払う。うるせっつーの。
この間はじめて痴漢に遭ったし。と事もなげに言い放った小宮さんの顔を思い返す。頼りなげな街灯の光が、彼女の頬にまつ毛の影を作っていた。
なんでそんなに他人事みたいに言ってんだ。どうせたいした対策もせず、また一人で夜道を帰るんだろ。ああいうのは一度目をつけたら調子に乗ってくるんだよ、わかってんのか?何度言えばわかんだよ。
だからつい、コンテストはいつだの、部活は何曜日だの、帰りは何時だの…あまりにもあからさまな訊き方をしてしまった。あからさますぎて偶然を装うのが苦しすぎる。でも訊いてしまったわけで……クソなんだこの言い訳は。
***
「あれ、美和さん。最近よく会いますね?」
「そうだね偶然だね」
暗くなった駅前で俺をみつけた小宮さんがにこりと笑ったので、もうこの件はこれでいいってことで。