年劫の兎この時期、姑蘇の街にも月餅と並んで兎をかたどった菓子がたくさん並ぶ。
最初は夜狩りから帰った子弟が土産として持ち込んだのだが、そのあまりの可愛らしさに年若い子弟の間で買って帰るのが流行り出した。そうなると年嵩の子弟たちも流行りものは気になる。
思追と景儀が、土産として買いこんだ兎の菓子を静室に届けるのに、そんなに時間は掛からなかった。
「藍湛、みろよ、この菓子、兎のヒゲまで描いてある。こっちは飴菓子だ。飴を流してこりゃ見事な一筆書きだ」
菓子箱にきれいに収められた兎菓子をひとつひとつ取り出してはひとしきり感嘆して、魏無羨は藍忘機の前に幾つも皿を並べた。
「さて、どれから食べる?」
「あなたの好きなものから」
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