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    ara_neige

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    CoC「傀逅」の探索者・金成明と大切な人・館ノ内朝陽の小話/一人称
    2021年/特にシナリオのネタバレはなし/二次創作(BL)

    ##TRPG
    ##二次創作
    ##字

    飲まれるな / 明と朝陽 明は、俺よりあとに帰宅することがそこそこ多い。なにしろ稼業が稼業だ。昔風に言えば、お天道様に顔向けできない生き方。だから夜の街に稼ぎに出るのは当然で、ショバ代の回収なんかはうちのシノギのうちだ。
     俺と一緒に暮らしてるから「若が本邸にいた頃よりかは仕事は減らしてもらってるんですよ」なんてことも言ってたけど、実は組との行き来だけでもけっこう忙しいんじゃないかと思う。 そのくせ、まめにご飯も作ってくれるし、できるだけ一緒に食べようともしてくれる。
     まるで『ふつうの家族』をやるみたいに。
     そういうのは嬉しいけど、明への負担は増やしたいわけじゃない。俺の世話をするために付いてる、というのはもちろんわかっていても、護衛はともかく生活は、お守りがいなければ立ち行かないようでは本末転倒もいいところだろう。家事でもなんでも、自分でできることは教えてもらってやる。覚えていて損するものでもないし。
     それに、付き合いの長さからすれば、明は他人ながら兄みたいなものだ。気持ちのうえでも、当然として受け止めてばかりではいられない。他の組と何か起こっているときはともかくとして、過保護なところのある心配性の明兄が、安心して仕事に出かけられるというのは、俺にとってもなかなか気分がいいことだ。たまには飲んだり遊んだりして帰ってきてくれたっていい。

     ただ、それが本人の意思であればの話だ。

     ……今日は違う。それにこの匂いばかりはいただけない。
     いつもみたいに、明がものぐさで選んだだろう黒い服に、整髪料とか、香水とか、他にも色んなものがぐちゃぐちゃに混じった匂いが移っている。何より、本人から発されているアルコールの臭いが酷い。 いったい何をどれほど飲んだのか。
     明を支えてきたうちの若いの(といっても俺よりは年上)が所在なさげにしていたのを、労いつつ早々に追い払い、苦労して水を一杯飲ませた。帰ってくるまではまだどうにかもっていたらしい緊張の糸は、それでぷっつり切れたらしく、本人はほとんど夢うつつでソファの上に横たわってだらりと弛緩している。水を飲むまではかろうじて開いていた目も、もうすっかり閉じてしまった。
     ソファから半ばはみ出た頭から続く赤く染まった顎下や首筋の肌に付いた、拭い切れていない口紅の痕跡に眉を顰める。
     大口の取引先がたまたまいて接待に巻き込まれて、なんて、さっき聞いた若いのの健気な弁明が脳裏を過ぎった。 おおかた、明の野暮ったい外見をからかって、取引先が女をけしかけたんだろう。変なものは飲まされていなかったというから、単に酒が合わなかったか、酒量の問題か。
     もしかしたら、無下にもできずに本人のほうから酒に逃げたのかもしれない。明はそういうあしらいが、組の者とは思えないほど下手だ。
     俺としてはそういう無理は極力してほしくはない。そもそも取引先の相手だって元々の接待役がいたはずで、明が道化になる必要は本来なかっただろう。

     俺はまだ足を踏み入れるなと言われている場所の、猥雑な気配が苛立ちを煽る。他人の気配だ。ここはもう俺たちの家なのに。その道の家に育ったからか、生来の気質か、シマが荒らされるのにはどうしたって敏感になる。血や火薬の臭いならまだ心配のほうが勝つのに。
     苛立ちのまま明の喉元に噛みつけば、薄く開いた唇の隙間から呻き声が漏れて、喉仏が動くのをまざまざと感じた。アルコールで火照る肌は唇には熱く、舌に塩辛い。さっき飲んだ水がもう汗として出ているのかもしれない。歯をたてても明の目が開くことはない。
     これは明日は夕方まで二日酔いで寝てるんだろうなと、思わず忍び笑いが漏れる。
    (いまどうにかしたらどうにかできちゃうよ、明兄)
     そのことに満足して唇を離せば、大きな歯形が残っている。明が次に鏡を見るまで残っているかはわからないが、残っていればいいなと思う。 せいぜい驚いたらいい。

    「はー……酒くさ」

     ああ、それにしても無理するななんて、前にも何かあったような。こんなくだらないことより、もっと重い、何か……。
     それが何か思い出せないまま、酒臭い男のために俺はブランケットを取りに行くのだった。
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