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    amechantakusan

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    amechantakusan

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    ※この話に出てくる花街は、いわゆる遊郭ではなく、女の人が好きで勤めていて、どちらかというと芸者さんよりだけど、場合によっては抱かれるみたいなふわっとした遊郭の話です。刀剣男士の為のストレス発散施設ですね~

    ##つるんば

    本当にこれで良かったのか?すっかり日も落ちているというのに、門をくぐろうとする鶴丸の前に立ちはだかった。
    任務でもないのに、そう毎日、毎日、夜遊びに出かけられては、この本丸の風紀が乱れる。
    「鶴丸国永、いい加減、今日こそは本丸に居てもらうぞ」
    「いつも言ってるだろ。止めたきゃ、力づくで止めてみなって。君が俺を捕まえたなら、今日こそは本丸で夜を明かそうじゃないか」
    絶対に捕まらないという自信にあふれた鶴丸の顔に、布の下で、悔しさに奥歯をかみしめる。
    実は、このやり取り。今日が初めてではないのだ。幾度となく繰り返し、連戦連敗。身軽で先の読めない動きに翻弄され、鶴丸には逃げられてばかりだ。
    しかし、俺だって策も無しに挑んでいるわけではない。今までは鶴丸を泳がせて、本丸の抜け穴という抜け穴に自ら案内させるように仕向けていただけだ。今日は、それを全て塞いでの挑戦。俺に分がある。
    「覚悟しろ鶴丸国永」
    いつもならこのセリフを合図に先に動く鶴丸がなぜか、微動だにしない。
    顎を指でさすり、思案のポーズをとる。なんだ? 罠か?
    「やっぱなしだ」
    「なっ! それはどういうことだ?!」
    「いや、たまには真面目な山姥切国広くんに息抜きをしてもらおうかなと」
    「ということは、俺が何もせずとも出かけないということか?」
    「まさか」
    「じゃあ、何を企んでいるんだ?」
    「企むなんて酷い言いようだ」
    あっ、と思った時には、鶴丸に距離を詰められていて、腕を取られる。
    そのまま、ぐいっと引っ張られて、思いのほか力強い手を振りほどくことが出来なかった俺は、足をもつれさせないようにするのが精いっぱいの状態で鶴丸についていくしかなかった。

    今まで嗅いだことのないような甘い香りが間近に感じられて落ち着かない。長い髪を綺麗に結ったあでやかな着物姿の女性に「どうぞ」と、徳利を傾けられて、酒の注がれるおちょこを持つ手がわずかに震える。
    「おいおい、緊張しすぎだぞ」
    それを鼻で笑う鶴丸を、ぎりっと睨みつければ、「こわいこわい」と肩をすくめてみせるが、それも形だけのことだろう。
    「つるさん、今日は可愛いお客さん連れてきてやけるわぁ」
    鶴丸にしなだれかかるようにする女の人も、顔の整った鶴丸に負けず劣らず美しい。
    「だろ。あまりにおぼこくて心配になるから、きみら、ちょっと遊び方教えてやってくれ」
    どうしてこんなことに……。
    鶴丸に手を引かれてやってきたのは、彼がいつも訪れているらしい花街の一角だった。
    『俺は、帰る!』という主張は認められず、あれよあれよと座敷に上げられてしまった。
    「鶴丸。俺は、これを飲んだら帰るからな」
    「なるほど。じゃあ、そこのお嬢さん。この子に付き合ってやってくれ」
    「けっこうだ」
    「簡単な遊びをして、負けた方が酒を飲むんだぞ」
    「いらないと言っている」
    「ほら、お嬢さんはやる気だぞ」
    「だから──」
    ***
    「……う、目が、まわる」
    「きみ、案外酒に弱いな。お相手のお嬢さんなんか顔色も変わってないぞ。おまけに乗せられやすいと来ている」
    重い頭に、回らない思考。鶴丸が、何か腹の立つことを言っているなというのは分かるが、意味の半分も理解できない。体を支えてくれる温もりが心地よくて、今すぐ、夢の世界に旅立ってしまいたい気分だが、これは誰だ?
    えらく鶴丸の声が近くに聞こえるが。
    「お連れさん大丈夫ですの? 布団用意しましょうか?」
    「いや、大丈夫だ。今日の所は、俺が連れ帰る。目覚めた時に知らない天井なのは、この子にとって、刺激が強すぎるだろうからな」

    はっと、気づいた時には、俺はいつも通り、自室で布団に横になっていた。
    いつも通り寝間着を着て、見慣れた天井を眺めている。
    昨日のは、夢だったのか?
    疑問に答えるように、すうっと引かれた戸の間から鶴丸が顔を出した。
    「二日酔いは大丈夫かい?」
    「やっぱり夢じゃなかったのか?」
    酔っぱらった俺を、鶴丸が介抱してくれたということなんだろうか、少しだけ感謝の気持ちがわいてくるが、それも、すぐに消え去った。
    あははと鶴丸が口を開けて笑ったからだ。それだけじゃない。
    「君にとっては夢の方がよかったかもな。可愛いお嬢さんに潰されて、俺にお持ち帰りされたわけだから」
    神経を逆なでする言い方に、思わず枕を投げつけるが、鶴丸はそれをするりとかわして。
    「元気なようで何よりだが、あんまりはしゃぐと、つらいと思うぜ」
    急に動いたことで、ガンガンと頭が痛みだした俺に向かって、鶴丸は、ひらひらと手を振ってから顔をひっこめた。
    再び、ピタリと隙間なく閉じられた扉に、先程のことも含めて全て夢だったことにならないだろうかと、二度寝を決め込もうとした。しかし、自分自身で投げた枕が、それを許してはくれなかった。

    あの一件以来、鶴丸の夜遊び癖はすっかり治まったようだった。たまに出かけているようだが、俺が目くじらを立てるほどの頻度ではなくなった。
    その代わり、と言ってはなんだが、なぜか鶴丸の方から俺に絡んでくることが増えた。
    俺としては、醜態を余すところなく見られた相手であり、夜遊びも落ち着いているとなれば、関わりたくない相手なのに、距離を取ればとるほど、近づいてくる。
    一体、何を考えているのかさっぱり分からない。
    暇さえあれば纏わりついてくる鶴丸から、逃げるように街へ買い出し役を買って出たその日のこと。
    「あら、あの時の可愛いお客さん」
    すれ違いざま、ハッとするような美人に話しかけられた。
    本丸以外に知り合いはいないし、通っている万屋の店員は年配の男性だ。俺にこんな知り合いはいないと思うが。
    ポカンとする俺に気づいた女性が、気を利かせて「ほら、つるさんの」と、鶴丸の名前を出す。
    連れていかれた花街で、鶴丸の横にいた綺麗な人。雰囲気が違っていて、全然分からなかった。
    「思い出してくれたようで嬉しいわ。よかったら、今度はあなた一人だけでも遊びにいらして」
    上品な仕草で軽く頭を下げた彼女は、良い匂いだけを残して立ち去った。

    「可愛いお客さん。さっそく遊びに来てくださって嬉しいわ」
    となりでお酌をしてくれる彼女は、先日、街で会った時とはやはり別人のように見える。
    あまりにもさっそく過ぎると我ながら恥ずかしくなるが、どうしても気になることがあった俺は、誘いの言葉を真に受けて、二度と訪れることは無いだろうと思っていた此処を訪ねてきてしまった。
    「鶴丸のことを教えてもらいたくて」
    「つるさんのことなら、お客さんの方がよくご存じではありません?」
    「それがよく分からないんだ。毎日のように朝帰りをしていたと思ったら急に真面目になって、一体、何をたくらんでるのやら」
    「そういえば、最近、あまりお見えにならないと思ってたんですよ。つるさん、女の子もたくさん座敷に呼んでくださるし、遊び方も豪快なのに、女の子達には手も触れないような紳士だから、みんな寂しがってるんですよ」
    「その、言葉が悪いが、あいつは此処に女遊びにきていたんじゃないのか?」
    「まさか、望まれれば、そういうこともしますけど、つるさんは、むしろ、引き留めても袖にして女を悲しませるタイプの男ですよ。あっ、このことは、本人には、どうぞご内密に」
    「そうなのか」
    意外だった。不真面目で、遊び人の鶴丸のイメージがガラガラと崩れていく。
    「分からないなら、つるさん本人に尋ねれば良いんですよ」
    「だが、俺はあまり、あいつに良い印象を持たれていないと思う」
    最近も、付きまとわれているとは言え、俺のことをからかって楽しんでるようにしか見えない。
    「そうかしら、それなら良い案がありますよ。乗ってくださる?」
    「なんだ?」
    「ちょっと失礼」
    彼女は懐から小瓶を出すと、スプレーになってるそれを俺にシュッシュッと吹きかけた。
    途端に香る匂いは、彼女がまとう香りと同じものだ。
    「これでいいのか?」
    「ええ。お客さん、あまりお酒は得意じゃなかったですよね。これを飲んだらお帰りください」
    「帰ったら鶴丸に会いに行けばいいのか?」
    「会おうと思わずとも、会えると思いますよ」
    「どういうことだ?」
    「あら、帰るよりも、私と夜を過ごすことをお望み?」
    ドキリとするような色っぽい笑みを浮かべる彼女はこれ以上、俺の疑問に答える気は無いらしい。
    俺は急いで注がれた酒を飲みほした。

    明かりの落とされた本丸の玄関先に、鶴丸はいた。
    壁に寄りかかっていた彼は、俺の姿を目にした途端、不機嫌そうに眉をしかめる。
    「きみ、俺の夜遊びをとがめておいて、自分は夜遊びするんだな」
    彼女の言った通り、会おうと思わずとも、顔を合わせてしまったわけだが、こんな風に鶴丸が怒っているとは想定外だ。
    「別に、いいだろ。たまには、あんただって、人のこといえないだろ」
    鶴丸の脇をするりと通り抜けようとしたところ、腕を掴まれ、体の位置を入れ替えらえた。俺が壁を背にすることになって、鶴丸が覆いかぶさるように顔を近づけてくる。
    「この匂い、一人で花街に行ってきたのか? 俺が教えたことが癖になったのかい? 今度は女を教えてもらってきたか?」
    「な、何を怒ってるんだ? あの人には別に手を出してないぞ。というか、あんただって、別にそういう意味で通ってたんじゃないんだろ?」
    「なんでそのことを君が」
    まずいと思った時には、遅かった。秘密にしておいてくれと言われたのに。しかし、もう知られてしまったからには仕方ない。これ以上、話がややこしくなる前に、正直に話をした方が得策かもしれない。
    「今日、俺が花街を訪ねたのは、あんたのことが知りたかったからだ。急に遊びを控えるようになったかと思えば、俺に構いだして、今だって、なんであんたがそんなに不機嫌なのか分からない。いったい何を考えているんだ。鶴丸国永」
    鶴丸の雰囲気が急に和らいだ気がした。表情が緩み、ぷっと噴き出したのを皮切りに、あははと心底、楽しそうな笑い声をあげる。
    一体全体、なんなんだ?
    ひと通り笑った鶴丸は、目じりに浮かぶ涙をぬぐいながら言う。
    「俺のことが知りたいなら、今度から俺に聞いてくれよ。いいや、聞かずとも、君が俺のことを理解するまで離れてやらないから覚悟しろ」
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