黄泉平坂をくだって鶴丸国永が折れた。
「鶴丸はもう帰ってこない」と沈痛な面持ちで言う主を、俺は何を言っているんだろうという目で見ていた。
刀が折れるということは、人で言うところの死ぬということだ。
死んだらみんな黄泉の国に行く。だから、帰ってこないのなら黄泉の国に迎えに行けばいいだけの話なのだ。
俺はその晩、さっそく黄泉平坂を下った。
ゆるやかな下り坂は、進めば進むほど闇が深くなり、自分の手足すら見えなくなってきた。暗闇は光だけでなく音も吸い込むようで、足音どころか、どくどくと拍動している自身の心臓の音すら感じられなくなってしまった。意識して足を動かさなければ、自分が歩いているのか、それとも立ち止まっているのかもわからなくなりそうだった。
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