「水篠ハンター、この後のご予定は?」
「え?特に何もないけど」
「そうですか、では、しがない監視課職員の寄り道にお付き合いいただけますか?」
「えー、まあいいけど」
普段ならば協会の送迎など不要なのだが今回は色々訳あって大人しく乗せられていた。
(まぁ、たまにはいいだろう)
車を運転している道門は表情を変えずに淡々とハンドルをきっている、車内に2人だけなのだから性格も取り繕う必要もないのにいまだに職員対応の喋り方をしてくるのが逆に気味が悪い。
普段ならばもう一段階級の上の職員をつかされるのだが、道門の方がお互い素性を知れているのもあり気楽なのでこちらから指名して今に至っている。
「ずいぶん山の方まで来たな?寄り道ってなんだ?」
「まぁ、あと少しですよ」
答えを濁されてため息をつき窓の外を見る、道は舗装されてはいるがあまり人が頻繁に通る道ではないのは一目で分かった。
(なにか面白いゲートでも出現したのか、はたまたレッドゲートのような特殊なゲートなのか…事前の測定器で判別出来るわけではないだろうが…なにか違和感でもあったとか…?)
(わざわざこんな山奥まで車を走らせるなんてそんなものしか思いつかない、もしそうなら良い経験値稼ぎになるし、色々と試してみたい事も実践できる…。こいつの性格上なにか厄介なことの可能性もあるが、もしそうだったとしても、力の差は比べるまでもない)
(今さら何か起こっても気に留める必要もないしな)
外をぼーっと眺めながらあれこれ考えていると道路の横道へと曲がり停車した。
「着いたのか?」
「まだですよ、少し待っててくださいっと…」
道門は車の外へと出て行き、そのまま車の後ろへ回りトランクから何かを取り出した音が聞こえる、窓から様子を伺っていると、鉄の棒と黄色いテープを手に持ち、先ほど曲がった道の入り口に向かって歩いてゆく。そのまま道の両端に鉄の棒を突き立てそこにテープを貼り付ける、どうやら立ち入り禁止の規制テープのようだった。
(わざわざ立ち入り禁止にするって事はやはり何かこの先にあるってことか?)
そういう事だよな?と勝手に納得してワクワクと期待を膨らませてしまう。
「お待たせしました」
戻ってきた道門は相変わらず業務的な態度のまま、車を発進させ道の奥へと向かってゆく。
先ほどの入り口から数十メートル進んだところで細い横道に逸れて少し入り組んだ茂みの中で車を停止する。
「着きました」
「ん」
シートベルトを外しながら道門がコチラを振り向き声をかけてくる。
やっと着いたのかと周りを見渡してみるもゲートやモンスターの魔力のようなものは感じられず、期待外れに座席に身を沈めてしまった。
「まあ、そう肩を落とすなよ、わかりやすいな」
「そりゃあ、こんな山奥まで連れてこられて、わざわざ立ち入り禁止にもして、なんか面白いものでも見せてくれるのかと期待するじゃあないですか、ねぇ道門サン」
「ふっ、勝手に期待したアンタが悪いんだろ?まぁ楽しみは今からだよ」
スーツのジャケットを脱ぎながらそう笑うと、運転席の座席を倒し、そのまま後部座席の方へ身を乗り出してくる。
様子を伺っていると、ふと道門の表情に疲れ残っているのに気付く。
(そいえば久しぶりに会うな…)
「仕事忙しいのか?いいのか、こんなとこで道草食ってて」
「S級ハンターのお供となれば多少の予定変更はどうとでもなるんだよ」
「ふーん、そうなのか」
特に殺気のようなものは感じられないので身構えもせず会話をしていると道門が後部座席に移動してきて、横並びに座りさらに距離を詰めてきた。
「?」
(疲れてるから仮眠するのにちょっと協力しろ…的な…?)
道門の表情に僅かながらの欲を孕んでいるように感じた。
「えっと…なんか近くないか…?」
「なんだよ、久々だろ、相手してよ」
「は?!」
意図を理解した時には既に遅く、道門が俺の太腿へと手をスルリと滑らせる。