檸檬⑤ ⅴ. 転機
「無惨様、好きです」
それは今朝の出来事だった。
珍しく身なりを綺麗に整えてから姿を現した炭治郎が、挨拶より先にこの言葉を口にした。
しかし、特に驚きはしなかった。炭治郎は普段から無惨への好意を告げてくる。無惨様大好き、なんて調子のいい言葉は耳にタコができるくらいに聞いてきた。子が親に向ける親愛だ。情欲を伴うそれではない。
今回もそうだろうと思い、無惨は適当に流そうとした。はいはい分かったよありがとう、と言うつもりで参照していた医療文献から顔を上げたのだが、その前に炭治郎は言った。
「今までのとは違うよ。ライクじゃなくてラブの方。夏目漱石っていう明治の文豪は〝月が綺麗ですね〟って表現してた。俺は無惨様のこと、独り占めしたいっていう意味で好き。俺は貴方の一番深い所に居たい。だから、」
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