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    まさよし

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    まさよし

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    オーカイ 現パロ?です 書きかけ 続きを書くかはわかりません

     人間から魔法使いが産まれてくるのはよくある話だ。そして、それなりに栄えている……人間の価値観で言う栄えている場所で生まれた魔法使いは、だいたいの場合迫害されている。迫害される理由のほとんどは、僕たち北の国の魔法使いが人間にとって我慢ならない悪行を繰り返すからであり、あいつらはとんだとばっちりを受けていることになる。けれど、可哀想かと言われるとそうでもない。魔法使いに生まれたくせに、人間なんかに負けるほど弱いのが悪いんだ。
     北の国はそうじゃない。あそこは魔法使いの場所だ。平穏な言葉を使うなら、魔法使いが暮らす場所だ。人間目線での正確な言葉が必要なら、縄張り争いをしたり、そんなもの関係なく気分次第で殺し合ったり、とにかく力を誇示して生きる場所だ。
     北の国にも人間は住んでいる。人間が栄えている国なんてほんのすぐそこにいくらでもあるのに、あいつらがそこにたどり着くことはない。人間は空を飛べないし、空間移動なんてものはもっての外だったからだ。だからあいつらは北の国でなんとかだましだまし過ごして、三代も栄えず滅ぶのを繰り返す。海の中で、ほんの少しの泡を吸って生きて死んでいくようなものだ。適していないところに、適していない命が宿って、当然のように滅びていく。
     魔法使いは人間を助けない。少なくとも北の国の魔法使いは。あいつらを王都に送り届けるのは簡単なことだけれど、助けない。たとえばおまえは、新幹線に乗って三時間かけた先にある目的地まで、まったく見知らぬ赤の他人を案内してあげる? あげるとしたらご立派なことだけれど、北の国にそんな殊勝なことをしてやる魔法使いはいない。
     僕は新幹線を知っている。そこに至るまでの時間は、三千年までは数えていた。あの時から三千年が経ってそれからまたうんと後に、新幹線が通った。何度か乗ったことがある。箒より楽だから? そんなはずがない。あれは箒で空を飛ぶことの何倍も窮屈で、速さだって目を見張るものではない。ミスラなら扉を開ければ五秒もかからないことを、三時間もかけてやっている。距離によってはもっとかかる。苦痛でしかない。だったらどうして乗るのか? 答えは簡単だ。僕にはもう、箒で空が飛べないから。

     精霊は滅びた。不思議な話じゃない。天敵が生まれたせいで絶滅する種族なんていくらでもいる。精霊にだけはそれが生まれないなんて都合のいい話があるはずがない。ないのに、僕らはそう信じ切っていた。
     予想外の精霊の危機に僕たちが魔法で立ち向かう、そんな正義の騎士軍になる……もちろんそれは起こらなかった。精霊の力を借りる魔法が、精霊の天敵を討てるわけがなかった。燃え盛る炎に、木製の剣で立ち向かうようなものだ。剣なんて振ったことはないけれど、たぶんそうだった。
     精霊がいなくなって、魔法使いが魔法を使えなくなって、それでおしまいにはならなかった。噴火、地震、竜巻、そんな天災と呼ばれるものが、ありとあらゆる場所でいっぺんに起きた。単に精霊を失ったからか、あるいは精霊の代わりにこの世界を支配した天敵どもが過ごしやすいようにこの世界を作り変えたのか、理由はわからないけれど、とにかく、僕たちが自然と呼んでいたものはすべて破壊し尽くされた。
    僕はそれを精霊の断末魔と呼んだ。誰もそれを正さなかった。なにが正しいことなのか、誰も知らなかった。
     そうしてまっさらな状態に戻って、また一から人間たちが文明を興していく。魔法使いはもう生まれないから、人間たちだけの力で、みんなで仲良く馴れ合いながら営みを続ける。
     そんな簡単にはいかなかった。まっさらにはならなかった。生き残りと、壊れ残りが大量にあった。そいつらはみんな、新しく作ることは考えない。頭にあるのは戻すことだけだ。そのために、国を越えた美しい友情の元で、生き残りたちは手と手をとった。とってしまった。
     西の国お得意の魔法科学が、燃料切れを起こすことを知らなかった。
     鉱山で採れるマナ石を使い果たして、それから魔法生物はもちろん、魔法使いでさえも燃料に換えて、それでもこの世界すべてを修復することには到底及ばなかった。
     あいつらは精霊が死んだことなんて知らない。だから燃料はもっと、使い果たせないほどに存在するはずだと信じていた。信じていたものが裏切られたとき、あいつらは都合のいいように考える。偶然の事故ではなく、誰かを懲らしめれば解決する仕掛けられた悲劇だと考える。
     いもしない犯人探しと、罪のなすりつけあいが起こる。そのときかろうじて残っていたほんの少しの燃料は、復興ではなく争いのために使われた。

     同じ頃、おかしな話が起きていた。オズは雷を落とせる。暖炉に火を灯すことは出来ない。ミスラはドアを開けられる。あの趣味のいい呪具で誰かにかじりつくことは出来ない。僕の心臓は僕の胸にない。トランクの中からケルベロスは出てこない。
     魔法使いの死は緩やかだ。魔法が徐々に使えなくなっていく。精霊が滅び、魔法使いはそこから死に向かい始めた。だからこうして、とびきり得意なことだけを残してこうなった。これからこの得意なことも維持できなくなるのだろう。そう思っていた。
     みんな、もう死に方だけを考えていた。寿命を待ったり、空間移動が使えるやつに頼んで海の真ん中に身投げしたり、自ら進んで燃料になるやつさえもいた。
     そしてまた、おかしな話が起きた。寿命を待っていた、あるいはまだ死に方を決めかねていたやつら、つまり僕を含めた生き残りの魔法使いは、ほとんど誰も死ななかった。元々の寿命を迎えたらしいやつらは別だが、他は、とびきり得意なこと以外の魔法を使えなくなっただけの魔法使いとして生き残っていた。

     強い願いや無念を遺した人間が、死んでばけものになるのは何度も見た。精霊がそれに近いものになっている可能性はじゅうぶんにあった。誰かにこの力を一番与えたかった、これからも与えたいと思った、そんな思いが怨嗟のように僕の心臓を動かしているのかもしれない。力尽きて成仏しないことを祈っていたが、今はべつに、そうなってもかまわないと思っている。

     人間はわずかに生き残っていた。慈善家の魔法使いが今度こそそいつらをまっさらな状態から、文明を持つまでに育ててやった。そのほんのひと握りの慈善家のおかげで、魔法使いは迫害の対象じゃなくなった。
     オズは人目のつかないところに隠居した。世界が滅んだ前と同じ、つまらない生き方だ。ミスラは……自由にしてる。人間の国の王になんてこれっぽっちも興味がなくて、オズに喧嘩を売りに行って杖で殴られたりしてるらしい。便利なドアはもう人間の興味を惹かなくなった。どれだけ研究しても再現出来なかったんだろう。だから新幹線が出来た。
     他のやつらもうまくやっている。ブラッドリーは盗みはやめた、この世界に盗みたいお宝なんかもうねえからな、と言いながら、ついこの前まで美術館に展示されていた彫刻を部屋に飾っていた。双子はなんでも当たる占い師をやっていたが、科学とやらが発展してからはやらなくなった。やらなくなってから発展し始めた、だったかもしれない。
     王子様は政治に関わらなくなった。あいつは人里の真ん中にいて燃料にされなかった唯一の魔法使いだろう。
     血統で決まる王様は、政治とは無縁の存在になるらしかった。中央の国……今は違う名前だけれど、そこの王室は他の国とは権威が抜きん出ていた。この世界では、少なくとも今のところは、王室は歴史が長いほど偉いものらしい。王子様は三千年以上玉座に座っている。西の国にも王様はいたはずだけれど、もういなくなっていた。自由を捨ててでも権威にしがみつきたいやつが、どこかの時代でいなくなったからだ。
     アーサーはこの世界で一番偉い。象徴としては偉いことになっている。守る騎士が必要だ。毎年、不気味なほど足並みを揃えた軍隊がパレードをする。あの王子様を守る軍隊が。
     そこに騎士様の姿はない。

     あっという間だった。たぶん、一番最初だったと思う。それが燃え盛る炎だと知らずに、木製のおもちゃみたいな剣で立ち向かっていったらしい。伝聞なのは僕がそれを直接見ていなかったからだ。僕がそれを知った時にはもう、あいつは誰かの腹の中にいた。上等なマナ石になって。
     そのときはまだ魔法が使えた。だからカインを腹に収めた魔法使いは死ぬよりつらいことをたっぷりと身に浴びることになった。死なせてほしいと百回懇願した頃にようやく石になれた。石にしてやった。許したんじゃなく、むなしくなったからだ。

    「カインが生まれてくるんじゃ」
    「**国の**村、**という名前で生まれてくる。三年後じゃ」
     双子が呼んでもないのに突然押しかけてきて、聞いてもないのにまくし立てた。精霊の死から、カインの死から二百年くらい経っていた。
     なんで僕にそれを言いに来たの。そう睨む。
    「だって必要だと思ったんだもん」
    「おぬしにだけ特別に言いに来たのではない。アーサーにも伝えてあるからの」
    「……王子様はなんて?」
    「その子はカインじゃない、**という子どもだ、とだけ言っておったのう」
     カインがいらない、というわけじゃないだろう。ただ、もうカインはいないことを、魂が同じものであっても違う命だと認めているだけだ。僕もそう認めればよかった。
     三年後に、**は僕の腕の中にいた。比較的穏当な手段を選んだ。ほんの少し母親の目が離れた隙に、乳母車に乗っていた**を抱きかかえて、そのまま帰っただけだ。そのあとでこれの両親が泣きわめこうがどうでもよかった。
     僕は**をカインと呼んだ。だってこれはカインだから。
     カインはよく笑う子だった。僕のことを父さんと呼んだ。流行病で死んだ。四十歳くらいだった。
     次のカインは三百年後に生まれた。その次は早かった、百年足らずだった。それからも何度も生まれて、何度も死んだ。
    カインはいつも、僕のことを父さんと呼んだ。

    「おや、珍しいのう。オーエンちゃんが我らの元へ、」
    「次は」
    「え?」
    「次にカインが生まれてくるのは?」
     双子は顔を見合わせた。前のカインから千年近く経ったのにまだ連絡を寄越さないから、痺れを切らして僕からここへ来た。双子は困った顔で、どうしようね、どうしよっか、とひそひそ話している。
    「あのね、オーエンちゃん」
    「カインはもう、あれから四回生まれ変わったんじゃ」
    「……は?」
    「結婚して、子どもも出来ておった」
    「四回とも幸せそうじゃった」
    「な……んで、なんで教えなかったんだよ」
    「聞かれなかったもんねー」
    「ねー」
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    Replies from the creator

    まさよし

    DOODLEオーカイ 現パロ 社会人してる
     日付が変わってもう小一時間経っている。予定通り進んでいれば今頃はとっくに家に帰ってベッドの中に入っているはずだったのに、現実の僕はほとんど通ったこともないような路上で寒さに震えそうになりながらゆっくり歩いている。原因は隣にいる酔っ払いで、ゆっくり歩いているのもこいつの歩幅に合わせているせいだ。
     カインのことはずっと前から気に入らなかった。第一印象から最悪だった。就活で神経をすり減らしたのだろう陰気な雰囲気の両隣のやつらと違って、まぶしいほどの笑顔で自己紹介を始めたときからずっと。実際に働き始めてからも、例の陰気そうな同期の連中に明るく声をかけて、初対面らしいのにあっという間に仲良くなっていた。先輩や上司からの印象も、ノリのいい元気な、仕事の飲み込みも早い将来有望な後輩、といったもので固まっているようだった。が、もちろん僕はそんな感情は抱いていなかった。僕はあいつに対して、弱みを見つけて壊してやりたい、その評価をなんとかしてどん底まで落としてやりたい、そんな気持ちしか持っていなかった。そのために面倒な仕事をめちゃくちゃな納期で押し付けても、あいつは、勉強になります、の一言で受け入れた。しかも僕の大嫌いなあの太陽みたいな笑顔すら浮かべているのだから最悪だった。
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