1日目『来週はなんと生放送! 番組の舞台は遠く長崎県のハウステンボスへ!』
『ゆる神の長崎さんと一緒に、自転車で園内をぐるっと一周! どんな景色が我々を迎えてくれるのでしょうか』
『題して、長崎さんと行く! チャリンコトラベラーズ in ハウステンボス!』
『お楽しみに~!』
「……」
「……えっ、長崎、そんな自転車乗れなくない?」
「……うん」
「うん、じゃないよ! なんでこんな仕事引き受けたのさ⁉︎」
「だって……だってぇ‼︎」
そう言って泣きべそをかき始めた長崎を前に、大分は盛大にため息をついた。
神妙な顔をした長崎が、大分県庁を訪ねてきたのは突然の事であった。
急になんだと尋ねれば、差し出されたスマートフォン。映し出されていたのは全国ネットの人気旅番組で、大分も名前は知っていた。
おそらく昨日の夜に放送された最新回の、次回予告のコーナーは、一見なんの変哲もないものだった。
事情を知るものにとってはとても信じがたい企画なのだが。
「番組のスタッフさんたちは、ボクがあんまり自転車乗れないって知らないみたいで……」
「じゃあ断ればよかっただろ」
「県のアピールになるかもって思ったんだもん! それに熊本に特訓されてちょっと乗れるようになってたし、行けるかなって……」
「ほんのちょっとじゃん。あんなの乗れるようになったって言わないから」
「うぇぇぇん……おおいたぁ、お願い、自転車の練習手伝って!」
「はぁ⁉︎ なんでそうなるの⁉︎」
「これ見てよ!」
長崎が、今度はSNSの検索結果画面を開いたスマートフォンを見せてきた。
『えっ!長崎さんが自転車⁉︎大丈夫なん』
『ちょwww長崎さんwww誰だこの企画かんがえたやつwwwwww』
『最近長崎さんが自転車乗ってふらふらしてるとこ見かけたけど…あれまさか練習……』
『長崎さんがんばれ!来週の放送は録画しないとだね!』
「今までは公園でこっそり練習してたんだけど、次回予告でバレてからすごく注目されるようになっちゃったんだ」
「見られてるじゃん。全然こっそりできてないし」
「……とにかく! あと1週間しかないのに県内では落ち着いて練習できないんだよ! お願い大分! お世話になってる間の炊事洗濯お手伝いするから!」
「なんで泊まるつもりなんだよ⁉」
「ボクんちからキミんちまで遠いじゃないか。毎日通ってられないよ」
「うちで練習しようとするからそんなことになるんだろ! 今まで通り熊本のところで特訓しなよ」
「大分は熊本のスパルタを知らないからそんなこと言えるんだ!」
「じゃあ佐賀のとこ行けば……」
「それは絶対ヤダ」
「なんでだよ!」
「とにかく嫌! 佐賀に頼るのだけは嫌! 福岡のところだとすぐ佐賀に見つかっちゃうし……」
「なんでそんな……ああもういい分かったよ。好きにすれば。あんまり騒がしくしたらすぐ追い出すから」
「わああ‼ ありがとう大分‼ ボクがんばるよ‼」
「だから騒がしくするなって‼」