掌編習作君はきっと知らないだろうね。人間の子供はキャベツから生まれてくるんだよ。
そう言って彼はおもむろにしゃがみ込み、畑に並んだ、程よく育ったキャベツを一つやさしく撫でた。
「海外産コウノトリの話をするために俺をこんなところへ連れてきたわけ？」
俺は目の前に広がる一面の緑を見渡した。なだらかな丘の斜面は見事にキャベツで覆われ、地平線まで続いている。
俺が呼び出しを喰らったのはつい今朝がたのことだ。最寄り駅まで出てきたらそのまま軽トラに乗せられ、3時間かけてこの山間やまあいの農村まで連れてこられた。このくらいの嫌味は許されるだろうと思った。
俺の言葉を受けて、彼はいたずらっぽく笑った。
「今年はすごく出来がいいんだよね」
「……まさか、本当にキャベツを見せるためだけに……？」
「隣県の住民の営みを知ることだって”土地神”にとっては大事なんじゃない？」
彼は満足したのか、道端に止めた軽トラに戻ってきた。荷台に括ったダンボールの一つを開けて、中身を放ってくる。
「まあ、ここの景色と空気は俺のお墨付きだからさ。それでも飲みながらここで休憩しようよ」
「これ炭酸じゃん、投げるなよ！ っていうか絶対ぬるくなってるだろ」
冷やされていないスチール缶のじんわりとした温度を感じ、振盪された中身が落ち着くのを待った。