愛は理性的ではない陽の光をめいっぱいに浴びて、赤く燃えるような色を放つ紅葉の天井を見上げては、男は静かに息を呑む。紅葉の天井の隙間からは、目が眩みそうになるほどの青い空がこちらを覗いている。
「まっかだねぇ……マスターちゃん、迷子にならないようにね」
「大丈夫だよ。迷子になったら探し出してくれるでしょ?」
「まぁそうだけどさぁ」
落ち葉を持ち帰って皆で焼き芋をするんだ、と目を輝かせては両手いっぱいに紅葉を集める姿を哀愁を煮詰めた瞳で男は眺めていた。顔まで埋め尽くされるほどの紅葉をうっかり持ち上げてしまったのか、困ったように男の名前を呼ぶ大きな声は、年相応に楽しげで愛らしいものだった。
「ちょっと自信ないかなぁ……」
そんな男の呟きは、床に敷き詰められた茜色の絨毯に吸い込まれて届くことはなかった。男は赤を踏みしめて、ひとつの影の元に向かう。
目の前の人間に取り巻く運命はいつだって残酷で、常にその人は彷徨い歩いている。
そんな人間を、惨めだと思って、大事にしまい込んでしまうことなどありえなくはない。空を孕む蒼を(紅葉と溶け合う橙を)ここで連れ去ってしまう奴が、いるかもしれない。