がらん、と大きな音を立てて大剣が地面に落ちた。柄を握る主の両手から力が失われたのだ。
焔の鎧も余韻なく剥がれ落ちた。
「兄さん!」
大きな一撃を食らって、最愛の兄が崩れ落ちるーー前に、受け止めねば、とジョシュアは手を伸ばし、駆け出した。
だが、手も足も届かなかった。
届く前に、斬撃の音を聞いた。
「ーー」
ぞわり、と瞬時に全身が粟立った。眼前に迫っていたのは赫。考える前に足が止まった。頭を左に傾けた。
赫い斬撃が身体の横を通り過ぎた。右肩を掠める。熱い痛み。左手で押さえる。じわり。血。
兄ーークライヴは地面に落ちなかった。
ジョシュアのものではない、違う人間の腕が筋肉質の身体を受け止めていた。
「……っ、バルナバス」
ウォールードの王、召喚獣オーディンのドミナント。
クライヴの全身に剣撃を浴びせ、駆け寄るジョシュアの足を止め、肩を傷つけた男の名を、火の弟はこれでもかと憎しみを込めて呪詛のように呼んだ。
バルナバスは応えず、ただ、ジョシュアに視線を遣り口端を上げた。
嘲笑。
「貴様…」
ジョシュアは腰にぶら下げていた剣を抜いた。
かくり、と顎が上を向いているせいで露わになっているクライブの喉に、バルナバスは指を這わせた。
「……」
鎖骨から顎へと、緩慢に。
そして最後に、尖った顎をべろり、と舌で舐めた。
「バルナバス」
ジョシュアは殺意と共に男の名を吐き出した。
剣の切っ先を、バルナバスに突きつける。漆黒の男は動じない。嘲りの笑みも消えない。
「返せ それは“僕の”だ」
「返せと言われて返すわけがないだろう、フェニックス」
「返せ」
ジョシュアの全身が、握る剣ごと炎に包まれる。
バルナバスは動かない。だが、足元から黒い靄のようなものが噴き出した。バルナバスと、彼が抱えているクライヴを覆うように拡がる。
「僕の兄さんを返せ」
不死鳥の炎を纏い、ジョシュアは地面を蹴った。瞬時に距離を詰める。
ーーバルナバスの表情は、変わらない