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    しおさば

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    しおさば

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    sgdz (2024/6/19)
    はいゆう×あいどるパロ
    季節外れのバレンタインネタ

    こじらせリアコ男子 オレは、太宰治。アイドルグループとして活動している『ブライハ』のメンバーの一人だ。

    『美味しくなあれ!』
     オレは今、バレンタイン前日の昨日、ファンクラブ向けにライブ配信した、いちごがのったハート型のチョコレートケーキを作った動画のアーカイブを、大画面テレビで見せられている。何の拷問だ。
     ケーキが出来上がった最後の仕上げでかけた、オレの言葉。ハートポーズで、可愛くウィンク。あざとかわいいアイドルで売っているオレが、プライベートでもそうだと思ったら、もちろん大きな間違いだ。というか、こいつの前では絶対あざとくなんかしてやらない。
    「尊い……」
     二人掛けのソファで、オレの隣に座って動画を見ているこいつは、そう言って祈るように目頭を押さえた。今をときめく、イケメン俳優のナオヤ。本名を志賀直哉という。気付いたら一緒に暮らしていた。そして、『ブライハ』オレ担のドルオタだ。
    「何で、今見んだよ!」
    「オレだってリアタイしたかったわ。ドラマの撮影が入ってて。撮影中も気が気じゃなかった。マネージャーに見てもいいか聞いたけど、早く撮影終わらせて家で見ろって言うし。ライブ配信するならもっと早く言ってくれねぇと。オレの予定が決まる前に」
     早口でそう言った。志賀の予定なんか、知ったことか。第一、オレの前で見るなというつもりで言ったんだ。志賀には届いていないようだけれども。
     『美味しくなあれ!』のシーンを戻しては、何度も再生している。その度に、アイドルのオレを拝んでいる。キモいなコイツ。

    「で? チョコレートケーキは?」
    「は?」
     腹の底から低音が響いた。自分でも驚いた。動画のチョコレートケーキがアップになったシーンで停止して、志賀は指をさす。バレンタインだからとねだっている。
    「アレはファンのために作ったんだよ」
    「オレもファンだけど?」
     微笑んで、オレを見つめる。こうやってファンを落としているのか、顔面国宝とまで言わしめている、イケメン俳優、ナオヤは。
     かく言うオレも、そのファンの一人だ。確かに、画面越しのナオヤはイケメンだ。顔だけでなく、演技力も素晴らしいし、何より、役への作り込みが半端ない。本当にナオヤなのかと疑うときもあるほどだ。普通に尊敬している。
     だが、プライベートを一緒に過ごしてみるとどうだ。ただのアイドルが好きなオタクじゃないか。こういうギャップが好きだという人もいるかも知れないが、オレは幻滅する。オレが好きになったのは、俳優のナオヤだ。志賀直哉ではない。

     『ブライハ』メンバーが、一人一つずつ作って、持ち帰ってきたチョコレートケーキ。オレが作った分は、冷蔵庫に入っている。オレは歯を食いしばって、天を仰いだ。こんなドルオタなんかに落とされて堪るか。
     チラリと志賀を見ると、「チョコレート」と言って、小首をコテンとかしげた。
     志賀は知っているのだ。オレが、俳優ナオヤのことが好きなことを。アイドルのオレが作ったチョコレートケーキを欲しいがために、ナオヤに攻撃を繰り出させたのだ。
    「冷蔵庫!!」
     オレは真っ赤になって、冷蔵庫を指さした。

     オレはナオヤに負けた。志賀に負けたんじゃない。ナオヤに負けたのだ。

     志賀は、子どもみたいに跳ねてソファを立ち上がり、冷蔵庫へ駆けていった。見つけたケーキの箱を掲げて、嬉々として戻ってくる。箱を開けて、ケーキを取り出し、そっと皿の上にのせた。いちごがのったハート型のチョコレートケーキ。
    「いちごもハートになってる」
     いちごを一つつまんで、志賀が微笑んだ。大画面に映し出されているチョコレートケーキにのったいちごとは違った、ハート型のいちご。特別なファンのためにわざわざカットした。
    「オレのコト、好きすぎか」
     そう言って志賀は、いちごを自分の口に放り込んだ。
    「うぐっ……」
     あまりの衝撃に、オレは床へとうずくまる。
     その言葉は、ナオヤが扮するドラマの役のセリフで、恋するヒロインに向かって投げられたもの。一時期、世の中で流行った言葉だ。
     もちろんオレも大好きな、ナオヤのセリフの一つだ。オレは真っ赤になってうめいた。

     オレは再度ナオヤに負けた。志賀に負けたんじゃない。ナオヤに負けたのだ。断じて志賀に負けたのではない。断じてだ。

     そんなオレを眺めながら、志賀は嬉しそうに、チョコレートケーキをほおばっていた。
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