新生活とあまのじゃく外の除霊案件を芹沢に任せて、霊幻は常連客の除霊を受け持った。予約スケジュール分を終わらせた頃に茂夫は霊とか相談所に訪れていた。
「一人暮らし始めたんだな」
「はい、師匠に教えてもらった一人暮らしに必要な家電や家具、通いやすい条件に合う物件から選びました」
霊幻が一人暮らしに必要な項目を最新でかき集めたプリントは、茂夫が同学年で一人暮らし希望する友達と共有したり、情報交換したりと大いに役立っていた。
「モブが新生活か、もうそんな歳になんだな」
「そうですよ。これが住所です」
茂夫の手書きメモに記載された住所は霊幻が選んだ物件の一つだと記憶していた。
「時の流れってのは早いもんだな」
「早いのかどうかはわからないですけど、合鍵受け取って下さいよ」
「……俺が一体、何の権限で受け取るんだよ」
そう言って茂夫が師匠である霊幻に渡そうとしているのは先ほどの物件の鍵だ。
「もちろん、実家にも渡してますよ。あ、今の実家っていうの良いですね。それで実家だけじゃなくて師匠にも渡したいなって」
「いいか、モブ。確かに俺はお前の師匠だが、プライベートにまで干渉して良いかはまた別だろ」
「師匠になら、僕は干渉してほしいです」
「それは恋人に伝えなさい」
「だから、今まさに伝えているんじゃないですか」
何としても合鍵を渡したい気持ちが全面に出ている茂夫に霊幻は眉を寄せた。
正真正銘、二人は師弟であると共に互いの愛を通じた恋人ではあるが険しい霊幻の表情からそれが読み取れそうにない。
「じゃあ、お前の恋人として話すぞ。プライベートは大切にしろ、以上だ」
「えぇ……」
「何か問題でもあるか」
「大有りですよ」
「聞くぞ、何のための一人暮らしなんだ」
「師匠と時間関係なく会いたいための一人暮らしです」
何の臆面もなく茂夫は正直に話す。
「違う、進学のためだろ」
「それもあるんですけど」
「……頼む、それ一択にしてくれ」
「何でですか」
茂夫の眼差しはどこまでも真っ直ぐに霊幻へと注がれる。それに耐えきれなくなった霊幻は視線をずらして黙りこんだ。
「……」
「師匠?」
「……正直、モブに会えるのが嬉しくて浮かれるから勘弁してほしい」
それまで浮かれた気持ちを抑えつけていた霊幻は、苦々しい顔つきで奥に秘めていた本音を吐き出した。
「わかりました」
「……」
「僕が師匠の家に押しかけます」
「止めろ、来ても追い返すからな」
「今日の夜に行きますので」
「予告するな」
「予定です、訪問予定」
「予定を捩じ込むな。それまでに家に帰って飯の支度しないといけないだろ」
「あ、それなら僕は自宅で食べてきますから」
「……食わないのか」
「食べます!」
仕事終わりに夕飯作りと霊幻だけ一方的に負担にならないように茂夫は申し出る。
しかし、その申し出に対してスパンの早い掛け合いをしていた霊幻は明らかに落ちこんでいた。
「いや、予定変更だ。ラーメン屋に行くぞ」
「えっ、師匠の手作り夕飯じゃないんですか?」
「よく考えたら二人分には材料が足りなかった」
霊幻は自宅の冷蔵庫に貼っている冷蔵庫の中身を思い出していた。
冷蔵庫に限らず、ストックする物は食べ物から日用品まで在庫を書き出しておくと無駄にストックを買わず済むので非常に役に立つ。
デメリットとしては続けていくこととやっていると何故か業務している気分になることだ。
「じゃあ、帰りに買い出ししましょう。そして一緒にご飯作ったり食べたりお泊りしたりしたいです」
「一人暮らしなら自宅に帰れよ」
弟子の提案は本末転倒だと思いながら霊幻は嬉しさを苦笑いでごまかした。