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    八(はち)

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    八(はち)

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    #ワンドロライシテイ02
    モブ霊 思い出話をしている晩年の二人の話

    #モブ霊
    MobRei

    晩年の師弟「……そういえば色々あったな」
    「師匠、何かを思い出しました?」
    適温になったお茶を啜っていた霊幻は懐かしそうに話し始めた。
    「……ああ、あれはなんだっけか。ほら、お前が初めて相談所に来た時にさ」
    「はい」
    霊幻は時折、こうやって昔話をする。
    相槌を打つ茂夫はそれが日頃の楽しみでもあった。
    出会ってから数十年、霊幻と茂夫の師弟仲は健在だが、互いの歳も目に見えて老けていた。
    一番に目につくのは、髪の毛で今ではすっかり白髪になってしまったが幸いにも毛根はしっかりとしている。
    顔や首に手には歳相応による皺やシミが深く皮膚に馴染んでいた。
    逆らえない老化により全盛期の頃の背丈から背も低くなり、それに倣って骨も縮んだ。
    以前のように背筋を伸ばすにもすぐに全身が攣ってしまうために何事も無理はできなくなった。
    長年鍛え続けていたために足腰が強い茂夫はまだ杖は不要だが、霊幻は足元が覚束ないからとベッドへ戻ったばかりだった。
    「そろそろ相談所たたむかと思っていた時期でな。そんな時に相談に来てくれたから最後の客はと思ったらまさかの小学生」
    「はい」
    「まぁ、小学生とは言っても看板見て相談に来てくれた手前、追い出すわけにはいかないからとりあえず話を聞こうと思ったわけだ」
    「はい」
    「霊とか相談所って看板掲げていたから
    相談ってのも、何かと霊を見間違いしたとかとにかく幽霊関係だと思っていた」
    「はい」
    「そしたら、まさか超能力の相談とは思わなくてな。あの時は腰を抜かすくらい驚いたもんだ」
    「はい」
    「でもなぁ、俺は実のところ超能力のこと頭になかったから、なぁーんにも知識もなかったんだ」
    「……はい」
    茂夫が霊幻の昔話を気に入っている理由は
    何度も繰り返し話す中で、以前は頑なに貫き通していたはずの言葉を無意識に溢してしまうからだ。
    今では霊幻新隆がどんな人物なのかを知っている茂夫は怒ることもなく、昔話の差異を楽しんでいる。
    「俺が言った超能力を持つってのも一つの個性なのは違わないんだぞ。それに確かに俺は知識も何もなかったが、頼られたら力にならないわけにはいかなくてな。せめて自分でどうしたら良いのかの分別がつくくらいまでは導けたらと思っていた」
    「超能力を使わせていたのはなんでですか」
    「超能力にしろ何にしろ、あの年代は何かと溜めこみ始める頃だ。お前も覚えはあるだろ?」
    霊幻がにやりと笑うとついた皺がより深く刻まれる。
    それを意味する行為を想像した茂夫は恥じらいを通り過ぎて呆れながら閉口した。
    「……」
    「そういうのを一気に発散する先が必要だと思ったからだ。ついでに除霊もできたら一石二鳥だろう?」
    「そんな、師匠はいい人だと思っていたのに……」
    「そうだろうそうだろう、俺はそういうやつなんだよ。別れるなら今ならまだ手続きが少ないぞ」
    「そうですね。でも師匠を放逐するなんて世間様のご迷惑になるので一生離せませんね」
    霊幻による試し行動のように交わす会話も慣れたもので、嘘に包まれた本心を理解している茂夫は軽く返した。
    そんな二人の左指には、共に歩んだ人生を表わす指輪が今もなお輝き続けている。
    指先の肉が減った分だけ指輪が緩くなっていたが、老年ということもあってか指輪のサイズ調整すら面倒になっていた。
    「ははは、お前もよく言うようになったなぁ」
    「師匠がうつったのかもしれませんね」
    「わりと長いこと一緒に居るからな」
    「そうですね」
    話している内にぬるくなったお茶を霊幻はようやく飲み終えた。少量のお茶でも今の霊幻にはハードルが高い。
    空になった湯呑を茂夫に渡すと霊幻は枕兼用クッションに背中を預ける。
    「……実はな、俺の部屋のクローゼットの中にお前に似合う物を用意してるんだ。その時は忙しいかもしれんが、今度スーツ着る時はそれを締めてくれよ」
    「……そんなの、まだ早いですよ」
    さほどサイズが変わらなくなったスーツを着る機会は冠婚葬祭時で、一回り歳上の霊幻が話す意図を汲んだ茂夫は眉をひそめた。
    このところ体調が優れない霊幻は度々入退院を繰り返していた。
    そんな霊幻のやせ細った腕にはかつての針の跡が今でも残っている。
    採血や点滴で血管がボロボロになったため、手の甲から点滴を繋いでいる状態だ。
    「エクボから聞き出したから間違いはないはずだぞ」
    「……」
    それまで慈しむような眼差しをしていた茂夫は途端に表情を消した。
    「こわい顔をするなよ、モブ」
    「僕は元からこんな顔ですよ、師匠」
    「そうだったか? お前はわりとわかりやすいからなぁ」
    「師匠も案外わかりやすいですよね、前から表情に出ていましたよ」
    「俺は……あれだ、ワザとだ。ワザとわかりやすくしてるんだよ」
    「そうなのかな……」
    そう言うと茂夫は霊幻の手を包んだ。
    今は抵抗することなくされるがままだが、
    霊幻の小さくなってしまった手は皮膚の下にある骨の節々までも愛おしい。
    気持ちが溢れた勢いで口にすると、照れかくしで一切会話できなくなるため茂夫は我慢している。

    これまでの経験上、超能力で寿命が延びるわけでも霊幻を蝕む病気をどうこうできるわけではない。
    どう足掻いても、霊幻が茂夫より先に逝くのは余程のことがない限り止められないのだ。
    それでも、少しでも長く霊幻との晩年を過ごしていけたらと茂夫は気持ちを込めた。




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