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    絶望エンドを強制的にハッピーエンドにしました。
    幸せになって欲しい_(:3 」∠)_

    #刀剣乱舞
    swordDance
    #源氏兄弟
    genjiBrothers
    #髭膝

    力が強すぎて札で封じないと生活出来ない兄者とそんな兄者に触れて欲しい弟のお話(強制ハッピーエンド)とある本丸の髭切は誰にも近寄ることがない。そもそも、誰も近づけないと言った方が正しい。彼は、他の個体よりも持っている霊力が高すぎて、手で触れるもの全てが加減することが出来ずに壊れてしまう。そのせいで、呼び出した審神者ですらなかなか近寄よることができずにいたため、政府から支給された緊急用の札で持っている霊力を封じている。

    しかし、彼の持つ霊力はあまりにも強大であるため、その札の効果も長くは続かない。定期的に新しい札と交換しなければならないが、それを怠るとすぐに封印を解いてしまいそうになるため、髭切は常に監視されている。そのため、この本丸で髭切に接触できるのは近侍である刀剣男子のみだ。
    主人である審神者ですら髭切に触れることが出来ないので、近侍として命じられているのは同じ源氏の重宝として謂れのある弟刀、膝丸だった。

    「……兄者」
    「…………」

    膝丸は、いつものようにこの本丸の近侍の任務である髭切の監視として、兄の部屋へ訪問していた。特に何かする訳ではなく、ただ部屋の端で様子を見ているだけだ。ちらりと視線だけを動かし兄の方を盗み見る。相変わらず、髭切は自分の両手を見つめながらぼんやりとしていた。その瞳には何の色もない。まるで、何も映していないかのようだ。

    だが、そんな表情でも美しいと感じるのはさすがというべきか。同じ刀派だからだろうか。それとも、自分の兄だからだろうか。

    どちらにせよ、膝丸は兄の姿を美しいと思うし、好きだと思う。そして、同時に憐れだとも思う。兄は何も悪くないというのに。兄はこんなにも美しくて強いのに……。どうして……こんなことになってしまったのか。

    この本丸にいるすべてのものが疑問に思っているだろう。そしてそれは、自分だってそうだ。
    しかし、いくら考えたところで答えなど出るはずもなく、膝丸はただひたすらに髭切のことを考えていた。

    ――ただ、生まれ持った霊力が強いだけで、どうしてこうも辛い思いをしなければならないのか。

    それはきっと、彼自身にもどうしようもないことだとは分かっているけれど。それでも、膝丸は思ってしまうのだ。

    ――どうしたら、兄者が幸せになれるのだろうか?――

    答えなど出ない問いを繰り返しながら、膝丸はそっと目を伏せる。
    すると、急にふわりと安心する香りが鼻腔をくすぐった気がした。はっとして顔を上げれば、そこには穏やかな笑みを浮かべた髭切の姿がある。

    「兄者……?」

    突然目の前に現れた兄の姿に驚きながらも、どこか嬉しそうな様子を見せる膝丸に対して、髭切はゆっくりと口を開く。

    「ありゃりゃ……。ごめんね、驚かせちゃったかなぁ?」
    「あ、いや……大丈夫だ。それより、どうかしたのか?」
    「ううん、特にはないよ。ただ、弟の顔を目の前で見たくなっただけだよ」

    首を傾げて問いかけてくる弟に対し、髭切はただ嬉しそうにふわりと笑う。
    その姿を見た膝丸は一瞬目を大きく見開くものの、すぐに柔らかい笑顔へと変わった。

    「そうか。なら、いつでも見ればいいだろう。俺はいつだって兄者の傍にいるぞ」
    「そうだねぇ……」

    そう言って微笑む膝丸を見ながら、髭切もまた小さく笑い返す。
    髭切は自分の霊力によって仲間を傷付けることを嫌がり、自分から近寄ることはない。髭切は当初は膝丸が近寄ることすら嫌がっていた。しかし、近侍としての監視とそして何より弟刀として傍に居させて欲しいと髭切に頼み込んだのだ。膝丸は髭切が自ら望んで一人きりになりたいわけではないことは知っている。周りには分からないように振る舞っているが、髭切は誰よりも寂しがり屋だ。そんな兄を独りにするなど、できるはずがない。だからこそ、膝丸は少しでも彼の孤独を埋められる存在でありたいと願っている。たとえ触れる事が出来なくてもいい。自分が傍にいることで兄が笑ってくれるのであれば、それでいい。
    それが、今の自分に出来る唯一のことなのだから。

    (だから、今はこれで我慢してくれ)

    心の中で密かに呟きながら、膝丸はじっと自分の手を見つめる兄に向かって声をかける。

    「……兄者」
    「ん?なぁに?」
    「その……手を繋いでもいいだろうか?」
    「僕に触れたいのかい…?」
    「……駄目だろうか?」

    触れてしまえば壊れてしまう。だから髭切は誰にも近寄らないし、触れられない。それは分かっている。それでも自分の大好きな兄に一度でいいから触れたいと思う。
    少しばつの悪そうな表情の膝丸に髭切は少し悲しそうに笑う。

    「駄目だよ、僕に触れたら僕はお前まで壊してしまうかもしれないんだよ?」
    「構わない」
    「え?」

    予想外の言葉に髭切は驚いたような表情で弟を見る。

    「俺の手が触れるだけで兄者に苦痛を与えてしまうのならば、俺の手で兄者に触れよう。兄者はいつも言っているだろう?俺たちは一振りでは生きられないと」
    「……無理だよ、お前は僕の可愛い弟。大切な片割れ。僕と同じで人間の身を得た付喪神だ。でも、僕だけは少し違う。力のせいでお前を傷つける。壊してしまう。もし、本当にそんなことになってしまったら、きっと僕は耐えられなくなってしまう。だから、だから、お願いだから、やめて……」

    膝丸の言葉を聞いた髭切は、まるで今にも泣き出してしまいそうな表情をして俯いてしまった。その姿を見て、膝丸は何も言えずにただ拳を強く握り締めることしかできない。
    分かっていたことだ。自分の言っていることが兄にとって、どれだけひどい言葉なのかぐらい。そして兄が力のせいで自分の事を責め続けていることも。それでも、膝丸は諦められなかった。いつか、兄が自分の力のことを気にせずに触れる日が来ることを祈って。
    そして、その時が来た時こそ、兄の本当の笑顔が見られると信じているから。

    「俺は、兄者が好きだ。大好きなんだ。俺は貴方の支えになりたい。だから、もう少しだけ待っていてくれ。きっと、きっと……俺はあなたを救う方法を見つけ出してみせる。」
    「……」
    「それまで、どうか、辛抱していてほしい。」

    そう言って膝丸はそっと兄に近付く。だが、髭切は俯いてただ黙っているだけだった。

    「本当にさぁ…」
    「うん…?」
    「どうして僕の弟はこんなにも刀たらしなんだい?」
    「なっ…!あ、兄者…!!」

    急に顔を上げたかと思えば、髭切はじとっとした視線を膝丸に向ける。急にそんなことを言われた膝丸は顔を真っ赤にして慌てふためく。

    「おや、自覚なしかい?」
    「うっ……。いやそれは……。でも、別にそういうつもりじゃなくて……。俺はただ純粋に兄者を救いたいという気持ちがあって……!」
    「ふーん……。まぁいいけどね。そういったことを僕以外の誰かに言っていたとしても、お前は僕の大事な弟であることに変わりはないからね」
    「あ、兄者……?」

    ふいっとそっぽを向いてしまった髭切を見て、膝丸はどうすればいいのか分からずあたふたしている。

    「あ、あの、兄者……?」
    「……」
    「兄者、すまなかった。無神経なこと言ったことは謝る。だから機嫌を直してくれないだろうか?」
    「……」
    「兄者、頼むから何か言って欲しいのだが!?」
    「……いいよ」
    「へ?」
    「いいよ、許すよ。だって僕はお前のお兄ちゃんだもの。」

    膝丸の必死な訴えにようやく髭切は口を開いたかと思えば、先程とは打って変わって満面の笑みを浮かべていた。そんな髭切の顔を見た膝丸はほっとした様子を見せる。

    「うん、ただし、条件があるんだけど、聞いてくれるかな?」
    「ああ、何でも聞くぞ」
    「ありゃりゃ、随分と簡単に承諾するんだねぇ。そんなんじゃ悪い奴に騙されちゃうよ?」
    「心配は無用だ。俺が信じるのは兄者だけだ。」

    膝丸は真っ直ぐに髭切の目を見つめてはっきりと告げる。その言葉に髭切は一瞬目を大きく見開いたが、すぐに嬉しそうな笑みを浮かべた。

    「そうだね、お前は僕だけのものだもんね。ふふ、それなら安心だね。それで、条件のことだけどね、もしどうにかして方法が見つかって僕が触れても大丈夫になったら、一番最初に手を繋いで欲しいな」
    「兄者が望むのであれば、勿論構わない。約束しよう。」
    「ありがとう、楽しみにしているよ。」
    「ああ」

    髭切は膝丸の返事を聞くと満足そうに微笑む。膝丸もそれにつられるように優しく笑い返す。
    その後、二人は何を話すでもなくただぼんやりとしていた。しかし、決して居心地の悪い沈黙ではなく、むしろとても穏やかなものだった。
    膝丸にはそれがたまらなく幸せだった。そして、この時間がいつまでも続けば良いと思った。だが、そろそろ近侍として他の業務もしなければいけない時間だ。

    「兄者、そろそろ他の仕事もある故、少し行ってくるぞ」
    「えぇ~…もう少し一緒に居たいんだけどなぁ」

    戻ってしまうことに不服そうに髭切は頬をぷくっと膨らませる。
    膝丸はそんな兄の様子に困ったように眉を下げるも、すぐに笑顔に戻る。

    「また来る。だから待っていてくれ」

    それだけ言うと、膝丸は部屋から出て行った。
    残された髭切は、膝丸が出ていった襖をじっと見つめる。

    「いつか…いつか本当に弟に触れられる日がくるのかな……?」

    ぽつりと零れた疑問に答えるものはいない。
    髭切はそっと自分の掌を見つめた。
    この手は、いつになったら何か触れることが出来るのだろうか。
    髭切はただ、そんなことを考えていた。

    ***

    膝丸は廊下を歩きながら、先程のことを思い出し小さくため息をつく。

    (やはり兄者は無理をしている)

    いくら自分が説得しようと髭切が心の底から納得したわけではない。膝丸はそっと拳を握り締める。

    「せめて俺だけでも信じなければな……」

    たとえどんな手段を使ってでも必ず兄を救ってみせる。膝丸はそう心に誓った。


    ***

    それからというもの、膝丸は毎日のように兄の元を訪れては色々な話をした。
    今日あったことや出陣先での出来事など、話題は尽きることがなく、髭切は楽しそうに膝丸の話に耳を傾けていた。膝丸自身も兄に話を聞いてもらえることが嬉しいようで、いつもより饒舌になっていた。そんな日々が一月ほど続いたある日のことだった。

    「では、お気を付けて行ってきてくださいませ」

    こんのすけに見送られながら髭切はゲートの前に立っていた。今日の任務先は厚樫山。髭切にとっては厳しい戦場であるが、練度上げのために何度も赴いている場所だ。

    「大丈夫ですよ、膝丸様」
    「……わかっている」
    膝丸は心配そうな表情を浮かべるも、髭切はにっこりと笑って見せる。

    「ほら、そんな顔をしないで。僕は大丈夫だよ。だって僕はお前のお兄ちゃんなんだからね」
    「兄者……」
    「ふふっ、だからお前は安心して見送ってくれればいいんだよ」
    にっこりと笑って手のひらをひらひらと振りながら「じゃあ行ってきます」と言って本丸を出ていった。

    「どうかご無事で帰って来てくれ……」

    遠ざかっていく背中を見ながら、膝丸は祈るような気持ちで呟いた。

    その日の夜、膝丸は眠れずに布団の中で悶々としていた。髭切の帰還は明朝の予定だ。膝丸は朝早くに帰ってくるであろう髭切の為に食事の支度をして待っていた。
    しかし、膝丸はなかなか寝付けず、ついには起き上がって厨に向かうことにした。
    夜中ということもあり、辺りはとても静かだった。膝丸は足音をたてないようにゆっくりと歩く。
    しかし、歩いているうちにふと、違和感を覚える。

    ーーー何かがおかしいーーー

    確かに夜中は静かだ。しかし、普段ならば多少なりと誰かしら起きているのだが、妙に静かすぎる。それに人の気配が全く感じられない。まるで皆眠ってしまったかのように、本丸の中は異様な雰囲気に包まれている。

    その事実に気づいた瞬間、膝丸は嫌な予感に襲われて走り出した。

    「誰か…!誰かいないのか!!!」

    膝丸が大声で呼びかけても返事はない。
    それどころか誰も出てこない。
    膝丸は急いで玄関まで走ると、勢いよく扉を開ける。すると、そこには予想外の光景が広がっていた。

    「これは一体どういうことだ……?」

    膝丸の目の前には大量の血痕と折れた刀の破片が散らばっていた。そして、そこに居たのは傷だらけの刀剣男士達の姿だった。

    「おい、しっかりしろ!」
    「うぅ……」
    「くそっ、何があったんだ!?」
    「分からない……いきなり敵襲にあって……」
    「とにかく手入れ部屋に運ぶぞ、手を貸せ。」

    膝丸は他の者達と協力して負傷した者を次々と運んでいく。
    だが、そうしているうちにぞくりとした嫌な寒気が背中に走る。膝丸は思わず動きを止めて後ろを振り返る。
    しかし、背後には負傷した仲間を慌ただしく運んでいる他の刀剣男子たちしかいない。

    (気のせい……だったのだろうか……?)

    一瞬そう思ったが、すぐに首を振る。
    こんな時にそんなことを考えるのは危険だ。今はただ、負傷者の治療に専念しなければ。膝丸はもう一度仲間の方へ振り返る。
    その時だった。
    ヒュンッと風を切る音と共に鋭い痛みが走った。

    「ぐぁあああああああああああっ!!!」


    突然のことに膝丸はその場に倒れ込む。
    慌てて立ち上がろうとするも上手くいかない。見ると、右足の太腿から鮮血が流れ出ていた。


    「膝丸様!!どうされましたか?!」

    異変に気がついたこんのすけが膝丸の元へ駆け寄ってくる。

    「本丸に敵襲だ!恐らく時間遡行軍が奇襲を仕掛けてきた!」

    膝丸は震える手で自分の腰にある本体である太刀を掴む。しかし、出血のせいでうまく力が入らない。
    膝丸は歯を食いしばりながら必死に立ち上がる。

    (ここで俺がやられるわけにはいかぬ。俺は兄者の帰りを待っているのだからな。)

    「こんのすけ、本丸にいる全員に早急に伝えるんだ!!戦えるものは全力で応戦しろ、主を守れ!!」

    それだけ言うと膝丸は鞘から刃を抜き、襲いかかってきた短刀を切り伏せる。

    「承知しました!!」

    こんのすけはそう答えると、すぐさま本丸中に聞こえるように叫んだ。

    「こちら審神者部屋前です、至急応援をお願いします!何者かに襲撃されています!!重傷者は直ちに治療室へ、中傷者は警戒態勢にて待機せよ、繰り返します、ただちに……」

    こんのすけの声を聞きながら、膝丸は次々に敵を切り捨てていく。
    幸いにも敵の数はさほど多くないようだ。
    このままいけば勝てるかもしれない。
    しかし、そんな希望は突如として打ち砕かれた。

    「嘘だろ……」

    膝丸の目に飛び込んできたのは今まで見たこともないくらい巨大な時間遡行軍の姿だった。
    その姿はまさに異形そのもので、全身は漆黒に染まっている。しかもその手には大振りの刀を持っているではないか。
    そのあまりの大きさに膝丸は目を見開く。
    あんなもので斬られたらひとたまりもない。
    そう思うと同時に身体が自然と動いていた。
    膝丸は一気に間合いを詰めると、相手の懐に入り込み、下から斬り上げる。その攻撃は見事に命中したかに見えたが、ガキンという金属音が響くだけで、相手は微塵もダメージを受けていないようだった。
    膝丸は一度後ろに下がると、今度は横一文字に切りつける。しかし、これもまた硬いものに阻まれてしまう。
    やはり、普通の武器では奴を倒すことはできないらしい。ならば、と思い、膝丸は己の刀を構え直す。
    そして、そのまま大きく息を吸い込むと、勢いよく飛び出した。
    膝丸の攻撃は先ほどよりも確実に相手を追い詰めていく。だが、あと少しのところで致命傷を与えることができない。
    すると、不意に相手が動いたかと思うと、その巨体に似合わぬ速さで刀を振り下ろしてくる。
    膝丸はすんでの所で避けるが、避けきれずに肩口を切られてしまった。
    さらに、返す剣でもう一撃喰らう。肩口からはどくどくと鮮血が流れる。
    膝丸は肩を押さえながらも再び相手に攻撃を仕掛けるが、逆に足払いをかけられて地面に押し倒されてしまう。
    倒れた膝丸に向かって、刀が振り下ろされる。
    それを防ごうと咄嵯に刀を構えたが、次の瞬間、凄まじい衝撃を受けて膝丸の手から刀が弾き飛ばされた。
    膝丸は一瞬何が起こったのか分からなかった。しかし、目の前の光景を見てようやく理解する。
    今、自分が目の前の敵に首を掴まれているのだということを。
    そして、恐ろしい力で締め付けられる。膝丸は苦しさに顔を歪める。
    それでも何とか逃れようと必死に抵抗するが、敵はびくりとも動かない。それどころかますます力を込めてくる。
    苦しい……誰か……兄者…… 膝丸の意識は段々と薄れていく中、腹部に突然の熱を感じた。

    「がっ…!!ぐぅ……あぁ……」

    それは次第に激痛へと変わっていく。
    見れば、自分の腹から何かが突き出しているのが見える。
    一体何が起こっているのだ……? 膝丸は混乱しながらも視線を下に向ける。すると、そこには自分の腹を貫く黒い刃があった。それが敵のものだと気づくのに大して時間はかからなかった。
    何故なら、敵の手に握られているのは自分の本体である太刀だったからだ。
    敵の刃が引き抜かれると同時に膝丸は大量の血を吐きながらその場に崩れ落ちる。
    膝丸は霞む視界の中、なんとか起き上がろうとするが、もはや指一本動かすことすらできない。

    (こんなところで俺は死ぬのだろうか……。)

    膝丸の脳裏にそんな考えが浮かぶ。
    嫌だ、まだ死にたくない。
    こんなところで折れたくはない。
    しかし、そんな思いとは裏腹にどんどん体が冷たくなるのを感じる。
    膝丸は震える手を必死に伸ばす。
    その先には兄である髭切がいた。

    (兄者、俺はここまでのようだ。どうか兄者だけでも生きて帰ってくれ。)

    膝丸は心の中で祈る。
    兄さえ生きていれば、きっとこの戦は勝てるはずだ。だから、兄だけは無事に本丸へ帰って欲しい。
    膝丸はそう願いながらも意識が薄れていく。

    「弟!!!」

    聞き慣れた声が聞こえたかと思った直後、悲しそうな表情で自分を呼ぶ兄の姿が見えた気がした。
    そこで膝丸の意識はぷつりと途切れた。

    ***

    任務を終えた髭切が本丸へ向かうゲートをくぐった途端、胸騒ぎがした。思った以上に任務が早く終わって愛しい弟に早く会いたいと思っていたのに、何故か気持ちが落ち着かない。
    不思議に思って周りを見渡すと、いつもは出迎えてくれるはずのこんのすけの姿が見えない。それに弟の姿もない。辺りを見渡すと、本丸の方角から煙のようなものが立ち上がっているのが見える。
    そして、そこからは禍々しい気を感じ取った。

    「これはまずいね……」

    そう呟いた後、髭切は走り出す。
    早くしないと取り返しのつかないことになってしまう。そんな予感がしていた。

    「はあっ、はあっ……」

    髭切は荒い呼吸を繰り返しながら、本丸の奥を目指して走る。
    先ほどまで感じていた胸騒ぎの正体はこれだったのか。
    敵の気配を感じ取った時、すぐに弟の異変だと気づいた。
    早く行かなければ、間に合わないかもしれない。焦りばかりが募っていく。ようやく奥まで着くと、そこにはすでに破壊された時間遡行軍と、血まみれで倒れている膝丸と、彼の本身を手に佇んでいる異形の姿があった。

    「弟!!!」

    異形の姿を見た瞬間、髭切の中に怒りが沸々と湧き上がる。それと同時に激しい殺意を覚えた。

    「よくも僕の可愛い弟を……絶対に許さないよ」

    髭切は低い声でそう言うと、刀を抜き放つ。そして一気に間合いを詰めると、渾身の一撃を放った。しかし、その攻撃は相手の腕によって阻まれてしまう。
    敵は攻撃を受け止めた方とは反対の腕で反撃してくる。それをすんでのところで避けると、再び攻撃を仕掛ける。
    敵の攻撃は速い上に、一撃が重い。しかも、体力もあるようでなかなか息切れする様子がない。長期戦になればこちらが不利になるだろう。ならば短期決戦で決着をつけるしかない。
    髭切は覚悟を決めると、再び攻撃を仕掛ける。今度は敵の懐に入り込み、一閃を放つ。相手はそれを受け止めるが、すかさずもう一撃加えようとすると、相手は素早く後ろに下がる。やはり相手の方が一枚上手らしい。
    髭切は再び構え直すと、大きく深呼吸をする。そして、己の内側に眠る力を解放させた。その瞬間、髭切の瞳が金色に輝く。
    そのまま敵を睨みつけると、ゆっくりと口を開いた。

    「お前には恨みはないけど……弟を傷つけてくれたからね。ここで消えてもらうよ」

    そう言い終わるや否や、髭切は敵に向かって飛びかかる。敵は攻撃を防ごうとしたが、それは無駄に終わった。
    次の瞬間、敵は真っ二つに引き裂かれ、崩れ落ちた。それを確認すると、髭切は膝丸の元へ駆け寄る。


    「ああ、可哀想に……。こんなに傷ついて……」
    傷つき、無残な膝丸の姿を見て頬に涙がつたう。
    その涙が膝丸の肌に落ちると、まるで膝丸の体が淡く光るように見えた。すると、みるみると膝丸の体の傷が塞がっていく。

    「これは…」

    膝丸を包んでいた淡い光が消えると、しばらくして膝丸は意識を取り戻した。
    「あに……じゃ……?」
    「弟…!!よかった、目が覚めたんだね」
    「兄者…?どうしてここに……」
    膝丸は信じられないという顔をしながら髭切を見る。
    それはそうだ。まだ髭切は任務に出かけているはずだ。
    膝丸は自分の置かれている状況がよく分からず混乱している様子だった。
    無理もない。目の前にいる兄に違和感を覚え、それに、自分の体にも違和感を感じるのだ。膝丸は自分の体を見ると、腹にぽっかり空いた穴がなくなっていることに気づく。

    (俺は確か敵に刺されて死んだはずなのに……)

    その時のことを思い出し、膝丸は顔を青ざめさせる。
    しかし、そんな膝丸の様子を見て、髭切は安心させようと笑顔を見せた。
    その笑顔を見て、膝丸はようやく自分が助かったのだということを実感した。
    膝丸は兄の顔を見つめる。兄の優しい微笑みを見ているうちに、膝丸の目からは自然と涙がこぼれ落ちてきた。

    「兄者、ありがとう……。兄者が来てくれなかったら今頃俺の命はなかった……。本当に感謝してもしきれない……。」
    「いいんだよ。今回の任務が早く終わって本当に運がよかったよ。それより、痛いところはないかい?」
    髭切の言葉に膝丸は小さく首を振る。
    「いや、大丈夫だ。ただ、少し普段と違うがするが…」
    膝丸は胸に手を当てながら答える。
    どうも胸のあたりが妙に軽い気がする。それにいつもより視界がはっきりして見える。それに何だか調子もいいような気がする。

    不思議に思って自分の身体を見ていると、ふとあることに気づいた。
    髭切の霊力を自分の身体の中に感じるのだ。

    「兄者の力……」

    そこで、膝丸ははっとした表情になり、髭切を見上げる。まさかと思いながらも、恐る恐る髭切に声をかける。
    そんなことはあり得ないと頭では分かっていても、もしそうであるなら、とても嬉しいことだ。
    しかし、期待すればするほど、その後に突きつけられる現実は残酷なものになるかもしれない。でも、これは
    確かめておかなければならない。

    「兄者、兄者に触れてもいいか…?」
    「え、でも…」

    突然の弟の発言に戸惑っていると、膝丸の方からそろりと手を伸ばされる。そして、髭切の手に触れると、両手で包み込むようにして握った。

    「っ…弟…!!」
    「やはり……そうなのか……!」

    膝丸はその事実を噛み締めるように呟くと、感極まって再び涙を流し始める。

    「弟…!!膝丸、手を放してっ…」
    「大丈夫だ、兄者」
    膝丸は髭切の手にぎゅっと力を込めると、優しく微笑む。

    「兄者の霊力が俺に移ったんだ。もう兄者に触れても大丈夫だ」

    そう言うと、膝丸は嬉しそうにそして愛おしそうな目で髭切を見つめる。その言葉を聞いて、髭切の目に涙が浮かぶ。

    「本当に…?」

    実際に今も膝丸に手を握られても、髭切の力によって膝丸が破壊されるような雰囲気がない。
    ずっと触れ合えないと思っていた。それがこうして触れられることが嬉しくて仕方がない。
    髭切は泣きそうになるのをぐっと堪える。

    「お前は…こんなにも温かいんだねぇ…」

    髭切はそう言って、今度は膝丸の身体を強く抱きしめた。

    「兄者っ…」

    膝丸は一瞬驚いたようだったが、すぐに髭切を受け入れ、抱きしめ返す。二人はしばらくの間お互いの存在を確かめ合うように抱き合っていた。しばらくそうしていた後、髭切は腕の中の弟の顔を見る。
    そこには美しい琥珀色の瞳があった。その瞳に映るのは自分だけだと思うと、言い様のない喜びが湧き上がってくる。

    「綺麗な色……」
    「ああ、兄者もとても美しいぞ」
    「本当?嬉しいなぁ……」

    髭切が目を細めて笑うと、膝丸もつられるようにして笑みを浮かべる。
    ああ、幸せだと髭切はこの瞬間をかみしめていた。
    これから先、この温もりを忘れないだろう。今まで感じることができなかった弟の温もりだ。ようやく触れるようになれた。
    そのことに髭切は心の底から安堵した。

    「さて、いくら回復したからと言っても心配だから手入れ部屋に行こうか」
    「そうだな。兄者は怪我はしていないのか?」

    髭切はこくりとうなずく。
    膝丸の身体は髭切の霊力で満たされているが、髭切の方は敵の攻撃を食らってはいないものの、戻ったばかりで傷を負った状態で戦っていたため無傷とはいかなかった。

    「僕はまだ平気だよ」
    「だが、万が一ということもある。早く治してしまおう」
    「うん、そうだね。じゃあ、まず主のところに行こうか」

    髭切は膝丸に背を向けると、自分の本体である刀を手に取り歩き出す。膝丸もそのあとを追うと、2人は審神者の元へ向かったのだった。


    ***


    「やっぱり主もびっくりしてたねぇ」
    「まぁ、そうだろう。まさか兄者の力がこんな形で安定するなんて思っていなかっただろうしな」「ふふ、本当に嬉しいよ。これでやっとお前に触れられるようになったもの」

    2人が話している間も、本丸には桜の花びらが舞い続けている。
    それはまるで二人を祝福しているかのように、静かに降り続けていた。

    「ねえ、弟」
    「ん?なんだ、兄者」

    突然呼びかけられ、振り返ると髭切は自分の指で自分の唇を指し示して見せた。その行動の意味するところが何なのか分からず、膝丸は首をかしげる。
    すると、髭切がゆっくりと顔を近づけてきた。
    膝丸は何が起こっているのか理解できずに固まっていると、ふいに柔らかなものが自分の口に重なるのを感じた。

    (え……)

    呆然としながら、自分の身に何が起こったのかを考える。今自分は何をされているのだ。どうして兄の顔が目の前にあるのだ。
    思考が追いつかない中、柔らかいものがさらに押し付けられる。

    それが髭切の舌だと気づいた時、膝丸の顔が一気に真っ赤に染まった。

    「っ!?兄者っ!!」

    慌てて離れようとするも、いつの間にか髭切に腰を抱き寄せられており、身動きが取れなかった。

    「っ……兄者……!!」

    膝丸の声に反応するように、髭切は名残惜しそうに口を離す。

    「ごめん、弟が欲しくなっちゃった」

    髭切はそう言って、いたずらっぽく笑う。
    その笑顔に膝丸はどきりと胸を高鳴らせた。

    「っ……!いきなり、そんなことをされては困るっ……!」
    「えー、だって弟に触っても大丈夫になったんだよ。」
    「そういう問題ではないっ!」
    「嫌だった?」
    「っ……!!」

    膝丸は言葉に詰まる。確かに嫌ではなかった。むしろ嬉しかった。ただ、急にこのようなことをされると心臓に悪いのでやめて欲しいというのが本音だ。しかし、それをそのまま伝えるのは憚られた。
    膝丸は視線をそらすと、小さな声で呟く。

    「……別に……嫌では……ない……」

    その言葉に髭切は満足そうに微笑む。

    「良かった。じゃあ、もう1回しようか」
    「な……!?」

    再び近寄ってくる髭切に、膝丸は再び慌てる。

    「兄者っ!!いい加減にしてくれっ!!俺を殺す気かっ!!?」
    「ありゃ、ばれちゃった?」

    膝丸の言葉に、髭切は残念そうな表情をする。

    「俺の反応を見て楽しむのはやめてくれないか……」
    膝丸は脱力したように言うと、大きくため息をつく。

    「だってお前、可愛いんだもん」

    髭切は嬉しそうに笑いながら、膝丸の首に腕を回す。

    その様子に、膝丸は何も言えなくなってしまう。
    こうして今まで触れられなかった兄に触れることができる。そのことが何よりも嬉しい。そして、今ままで悲しそうだった兄が笑ってくれることも。
    膝丸はその喜びを隠すことなく、髭切の身体を抱きしめ返したのだった。


    【終わり】
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    _(:3 」∠)_

    DOODLEフォロワーさんに貰ったネタを元に好き放題書かせてもらいました。
    私の独自設定いっぱいの甘々で書きました
    末っ子まんばと神域三日月この本丸の山姥切国広は顕現するのが遅かった。
    具体的にどれくらい遅かったのかというと、なかなか顕現しづらいとされている山姥切国広の本歌である山姥切長義よりも後に顕現されたほどなのだ。こういった理由で『山姥切』の名で呼ばれているのは、希望通り本歌の山姥切長義が呼ばれ、山姥切国広は『切国』と呼ばれていた。

    そんな『切国』は今日も審神者の命によりせっせと畑仕事に勤しんでいた。

    「今の本丸はいろいろな刀剣を育てる余裕がないんだ。切国には悪いんだけどしばらくの間我慢してほしい。出陣しない間は本丸の畑仕事を頼みたい」

    顕現したばかりの時、そう言って審神者から頭を下げられた。来たばかりの切国にとって、そうやって真摯に対応してくれる審神者の頼みを断る理由はない。もちろん、本質は刀剣なので戦うことは好きだ。でも、戦いに出られないからといって死ぬわけではないし、審神者のしばらくという言葉からそのうち戦場に出られるのだろうと思っている。本丸の刀剣男士たちの活躍を見ていれば日頃、審神者たちがどれだけ頑張っているか理解しているつもりだ。
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