逢坂壮五が女性と結婚した話。「壮五、この人がお前の婚約者の方だ」
父がそう言ってその人を連れてきたのは、大学を卒業してすぐのことだった。
その人は華奢で、色が白くて、髪も長くて、人からはきっと美人と言われるであろう部類の人だった。
そう、僕が思った訳では無い。かと言って不細工だとか嫌だとかそんな風に思った訳でもない。
その時、僕が思ったのは「あぁ、この人と結婚することになるんだ」という、何とも他人事のようなことだった。
♢
「はぁ・・・・・・」
その人──今では妻となったその人とは、あの出会いから僅か半年後に結婚した。
大恋愛もプロポーズもなく、ただただ親同士が決めた日に会い、結納をし、籍を入れ、式をあげただけの結婚だった。
それでも彼女は僕のことを気に入ってくれているようで、一生懸命僕に尽くしてくれた。
それに対して僕は・・・・・・。
「ダメだなぁ、本当」
逢坂家の長男であり跡継ぎである僕に次に求められるのは、子供だ。跡継ぎがいなくなってしまえば、逢坂の家は潰えてしまう。それゆえに僕は毎日のように父に「子供はまだか」と催促をされていた。
しかし作りたいと思っていてもすぐにできる訳では無い。結局、結婚から5年経った今も子供ができる気配がない。
それに、子供を作ろうにも僕には大きな問題があった。
書斎の机の鍵を開け、中に隠しておいたドリンクを取り出し、それを開けて一気に飲み干した。
別に彼女が悪い訳では無い。先程も言ったように僕に一生懸命尽くしてくれる彼女に非があるわけが無い。それなのに、何故か僕の体は彼女には反応しなかった。
そんなことがもしも彼女にバレたりしたらきっと傷つけてしまう。だから、僕は毎晩、こうしてこっそりと、今日もちゃんとできますように、と準備をしていた。
このあと環くんと出会って家を飛び出します(説明)