手を握るのは。 手を、握られている。
──プラセルか? いや、もしかしたらオルカかもしれねえ。どっちだ?
掌を伝ってくる熱に誘われるように、ヴィダはゆっくりと深い眠りから意識を現実へと戻していく。
──どっちにしたって、どうせ怖ぇ夢でも見たんだろうな。
それは、思いの外よくある事で、特にプラセルは「オバケの夢見た」と言っては眠っているヴィダにくっついて来たし(冬場はいいが、夏場はブチ切れた)、手を握ってくることもしばしばあった。
だから今回もそうだろうと、自らの体内時計がまだ深夜を示しているのを確認して、ヴィダは再び眠りにつこうとした。
──……ん?
しかし、戻ろうとしたところで、ヴィダは違和感を覚えて、再び意識を現実側へと引き寄せた。
まず、寝床が固くない。次に、握っている手がプラセルのものでも、オルカのものでもない。
──誰だあ、コレ?
プラセルやオルカなら許せることも、他人となれば許せないことは少なくない。
今回のヴィダの眠りの妨害は、間違いなく、許せない事に分類された。
「誰だか知らねえが、俺の手ェ握ってんじゃねえよ雑魚が!」
そこからは、ほぼ反射的だった。
完全に覚醒したヴィダは自分の斧が置いてある方に空いている手を伸ばしつつ、繋がれているもう片方の手を、相手の手を捻り取る勢いで捻った。その目論見は成功したようで、ヴィダの顔に生ぬるい液体が掛かった。
「うわっ。痛いな。何をする」
そして斧を振り被ろうとした。したところで、やたらと冷静な相手の声に、ヴィダはピタリと動きを止めた。
そして、目の前にいる人物の姿を確認して、どうやら自分はまだ浅い夢の中にいたらしい、ということに気がついた。
「……あー、何だ。カバネかよ」
そこには、片手を再生するカバネの姿があった。
──そうだ。ここは、十二地区じゃあねえ。考えるまでもなく、プラセルや、オルカな訳がなかったんだ。
「誰だと思ったんだお前は」
「だから、誰だか知らねえけどって先に断っただろうが」
「そういう問題じゃあない」
カバネがぶつぶつと文句を垂れる。そうだ。これが"今"の俺の日常だ。