ミレニアムの箱入り准将 ー朝食編ー「おはようございます、みなさん、今日も一日、よろしくおねがいします」
夜勤明けなどの休養と、最低限の各持ち場、ブリッジの要員を除き、出席可能なミレニアムのクルーが一堂に会した朝礼、コンパス最高司令官であるキラ・ヤマト准将は爽やかにクルーに敬礼を向けながら挨拶をする。
軍の将校としては些か優しすぎるその言葉も、クルーたちにとっては癒しの時間だ。
むろんその高潔な白の軍服は折り目正しく皺ひとつなく、さらりとした茶色みのある髪も整った、若き麗しの青年将校。
トップに立つその姿を整えたヤマト隊の三人は、先程まで『あとごふん』とぐずっていた愛しい姿を思い出しながらも、おれらわたしたちの隊長かっこいいっ!と、朝の奮闘も忘れるかのように見惚れていた。
ミレニアムの一般兵たちはこれから艦内の掃除にとりかかる。
いずれも士官、将官たるヤマト隊クルーはそういった雑務は免除されていて、かわりにブリッジで士官ミーティングが行われる。
艦の主だった士官と、一部整備班などの班長の曹長たちが一日の予定などを確認しあう。
それが終わってからやっと朝食の時間となる。
「お疲れ様です、隊長。ブリーフィングルームに朝食用意してもらってます。今日はフレンチトーストですよ」
朝から苦手な朝食の挨拶にミーティングをこなしたキラは少し疲れた顔をしている。
そんなキラを労うように、ルナマリアは朝食のメニューを告げる。
「フルーツとクリームもたっぷり盛ってもらったし、早くたべましょ」
アグネスも待ちきれないとキラの手をとり、ブリーフィングルームに飛んでいく。
本来であれば食事は士官食堂でとるものであるのだが、最上席に通され士官全員とともに給仕されながらとる食事は緊張してしまうのか落ち着かないのか、早飯が当たり前の軍人たちに圧倒されてしまうのか、ただでさえ細いキラの食がすすまなくなってしまい、親しいヤマト隊のメンバーのみでパイロットのブリーフィングルームで食事をとるようにしてもらっている。
さらにはメニューや盛り方をキラが食べやすいよう調整してもらっているので他のクルーとはわけて食べる方が都合がいいということもある。
ブリーフィングルームに入ると、甘く香ばしい匂いがする。
「やべーっ、うまそー!」
ひとめで歓声をあげたのはシンだ。
軍艦の朝食にフレンチトーストなんて普通は出ない。
これも食に興味が薄いキラが少しでも喜んでくれるようにと司厨科の栄養士や調理兵たちが工夫してくれている賜物だ。
「はいはい、シンのはそっち。ベーコンとソーセージ足してくれてるから」
この中でも細身ながら特に絶賛成長期、食べ盛りのシンの皿には4切れものフルーツとクリーム乗せのフレンチトーストにベーコンとソーセージがどーんと添えてある。
アグネス、ルナマリアも体型の気になるお年頃ではあるが、運動量も多い軍人で10代の女子なりによく食べる。
「隊長のはこっちですよ」
ルナマリアにうながされ席についたキラの前、彼のために用意されたトレーにはフレンチトーストがふた切れにキャラメリゼした焼きバナナ、いちごをはじめとしたフルーツがたくさん添えられ、生クリームが盛られている。
ちなみにクルー食堂でもフレンチトーストが供されているが、各自が好きに盛るカフェテリア方式になっていて、こんなに綺麗に盛られているわけではない。
「今日も美味しそうだね」
少しまえまでゼリー飲料や栄養バーのようなものを口にするのがやっとだったキラだが、ヤマト隊の三人や司厨科の要員の工夫により、こうして食事を楽しめるようになってきている。
それが何より嬉しくて、キラが喜びそうなメニューが出されるようになり、クルーの食生活も向上している。
「絶対美味しいですよ!はやくたべましょ!」
そしてそのお相伴にあずかるヤマト隊の少年少女たちもまた、美味しそうな朝食に歓声をあげるのだった。
「んっ、この焼きバナナ、フレンチトーストとよくあってて美味しいね」
添えられたメープルシロップをたっぷりかけたフレンチトーストをナイフで切って、バナナとともに小さな口に運ぶと、キラは顔を綻ばせている。
「マジ、うめーっ!」
「ほんと、美味しい」
「うん、最高!」
何より隊長の美味しい笑顔……プライスレスな尊さ……!
これは司厨科にもあとで報告しておかないといけない。
「あっ、たいちょー、口にクリームが」
キラの白い軍服は汚れが目立ってしまう。
すかさず口の端についたクリームをシンが拭う。
「ごめんね、ありがとう」
その日、キラは用意された朝食をすべてたいらげていた。