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    やみ🎨

    @yami_0328

    衝動のまま。らくがき。

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    やみ🎨

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    豊前江が手紙を書く話豊前江は悩んでいた。
    整った顔立ちに、これでもかと眉間に皺を寄せ、めずらしく難しい顔をして、首を傾げつつうんうんと唸っていた。

    「おや、君が文机の前に座っているなんて珍しい。明日は雪、いや雹か、それとも別なものが降ってくるのか・・・」
    「雪ならつい先日降ったではないか。あの程度でも世間は大騒ぎなのだ。それ以上のものが降ってきてはたまったものではない。
    ・・・何か悩み事か?」
    ちょうど出陣任務から帰ってきた、南海太郎朝尊と水心子正秀は、豊前の部屋の前を通りかかったところで、いつもと様子の違う彼の様子に声をかけた。

    「いや、ちっと文章を、何書こうか考えてんだけどよ、まあ慣れねえことはするもんじゃねえな。」
    机上の白紙を前に、自分の苦手と対面していた豊前は困り気味に苦笑した。

    「なるほど文か。思ったことをそのまま書けば良いのではないか?」
    「そうだね。直球な君らしく、短くても思いのこもったものならば、もらった相手は嬉しいのではないかね?」
    報告書などで多くの文字を書き記すことも任務のひとつであった政府刀の2振にとっては造作もないことだが、字が多いのがそもそも苦手なこの刀にとっては長ったらしい文章を読む事はもちろん、自分で文章を考えて組み立てて書くこと自体はもっと大変な作業である。
    しかし手紙となれば報告書とは目的も種類も違う。2振は手紙であればと、わかり易く助言をしたつもりだった。

    「雨にも同じこと言われたよ。でもその思ったこと・伝えたいことが次から次に沢山ありすぎて頭ん中駆け抜けちまってよ、まとまる前におれの筆が書けねぇっていうか追いつかねぇっていうか・・・あー、なんか本当らしくねぇな」

    2振は珍しく同時に顔を見合せ、そして視線を目の前の刀に戻した。
    そして彼は見た目よりも頭の中で色々なことを考えていたのか…とそれぞれの心の中で非礼を詫びた。
    「考えるより踏み出す」タイプというより、むしろ考える前に気付いたら通り過ぎていたと目にしたものは全員が口にするであろう、それほど勢いも疾いイメージの刀である。周囲優先の兄貴肌で頼りがいのある概念の塊でしかないこの刀が、自身のこととなると意外にもそうでもないのかもしれないと、彼の知らない一面・繊細な部分を知った瞬間であった。

    そうとなればこの刀にできる助言はひとつである。
    「であれば、やはり手紙は日々の感謝を紙面に残すに留めておいて、より大事なことは直接言うのが貴方らしいと思うぞ。」
    「そうだね。君らしく、遠乗りの誘いも忘れずに記すことで、次の機会に伝えたいことも君の口から伝えられるのではないかね?」

    「俺らしくか・・・。そうだな。長く書けばいいってもんじゃねえし、文は短く・・・
    ん?でも結局直接言うなら、わざわざ手紙を書く必要ねえんじゃねえか?」
    「いやいやいや!!!!
    たまには文にしたためることも大事だと思うぞ!!何よりほら、その・・・形として、文字として残る!!」
    見失いかけていた方向性が定まったところで、そもそも手紙を書くこと自体を「自分らしくない」という理由で放棄しようとしているこの刀を水心子は必死に前のめりになって止めた。
    ここまで思い悩んだのに、なかったことにされては今後彼自身が書くこと自体がらしくないといって色々と放棄されるのは大変まずい。
    「そうだね。形や文字として残るだけではなく、手紙はもらった相手の心を動かすものになる。人間はそうして歴史を重ねてきた節があるからね。手紙ひとつで武将や戦の運命が変わったことだってあるぐらいだ。そう考えると、普段あまり文字を書かない君からの手紙を受け取った相手にとっては、心に響くものになるかと間違いないと思うよ」
    「そうだ、私もそれを言いたかったのだ」
    南海の説得力ある歴史を掛け合わせた学者らしい言葉の数々に、途中うんうんと頷きながら畳み掛けるように、珍しく同意する水心子であった。

    「そっか。じゃあやっぱ短くても、手紙で存在を残すのは大事だよな。
    よし!ちゃんと言葉にするべきものは俺らしく直接話すとして、感謝と誘いを文字にしてみるよ。
    出陣で疲れてるところ、助かったよ。
    わざわざあんがとな!」

    心も顔もいつも通りの爽やかに戻った豊前江。
    つっかえていた悩みはどうやら吹っ切れたようで、その証として今まで遅々として進むことがなかった筆がスラスラ動いていく。

    その姿を見て、そっと部屋をあとにする水心子正秀と南海太郎朝尊の内心は、
    手紙をもらった相手はどんな顔をして、どんな思いを胸に抱くのか、実に興味深い…と、
    まったく同じことを考えている師弟なのであった。
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