フリングポッセという集合体壱.飴村乱数というモノ
僕を見ると誰もが振り返るのは当然。
僕はそう造られた。
何処にいても、何をしていても、誰の目にも止まるように造られたピンク色の髪、水色の眼。
女子供には愛されるように、可愛らしく、
男には舐められないように、時折仄暗く、
誰もが僕という存在を無視できないようにと。
あの男は言った。
──俺の存在は今後世界を揺るがすからと
何度も何度も繰り返して出来上がった僕に、
「お前の名前は乱数だ、飴村乱数」
と言った。
僕はその名を聞いたとき、どうして苗字だけそんなに可愛いんだよと言った。
飴だなんて顔に似合わなさすぎだろ。
乱数、なんて趣味が悪いじゃん。
「いいんだよ、お前は滅茶苦茶、それでも俺の傑作だ」
「へえ、そう」
これは、飴村乱数というモノが人間になっていく話。
弐.夢野幻太郎という器
夢野幻太郎という器を背負って幾星霜。
小生は、いや麻呂は、いや妾は、いやわっちは、………いや、俺は。
いつまでも蔭に潜んでいるのは誰だ、陽を浴び脚光を浴びているのは誰だ、築40年の古いマンションの手摺にもたれて星一つ見えぬ曇った空を見て時折考える。
「俺は、誰だ」
遠い昔は、俺にも名前があった。病室で俺の名を呼ぶ青年の姿をよく覚えている。だけど、俺はもうその声を覚えていない。だから、彼の顔は思い出せても、その口が紡ぐ言葉がわからない。何度も呼んで貰った筈の俺の名を、俺は思い出すことができない。
ぼろぼろと瓦解してゆく俺の記憶を待つだけの俺、根拠の無い嘘ばかりを積み上げる俺、…嗚呼、夢幻のこの世とはなんとも皮肉だ。
これは、夢野幻太郎という器が出来上がっていく物語。
参.有栖川帝統という名
俺の名は俺のものじゃない。
昔から蝿のように集まってくる連中は、俺の名字を聞くと魔法にでもかかったみたいに一斉にへらへら笑った。ガキの頃から見慣れた光景でちっとも興味は無い。権力にへつらうしかない世の中は馬鹿ばかりで、こんなもんだと思っていた。
「帝統、楽しいこと教えてやるよ」
其奴は、とにかく俺を連れ回した。色々な遊びの殆どは奴から教わった。ぎゅうぎゅうでどんよりした空気の充満する家より余程生きてるって感じがして、俺が俺で在る気がした。
でもやっぱり、そんな日は長く続かねえんだ。
「…上等だ」
家を追い出された事は丁度よかった。彼奴にもらった賽とこの身ひとつ。充分だ。
これは、彼が有栖川帝統という名である事の証明をする話。